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ユダヤ人について中国人が抱いている幻想とは?


「ユダヤ人」と聞くと「商売上手」と連想する人は日本人の中にも多くいそうですが、中国では過度な「ユダヤ人信仰」があるようです。ユダヤ人にまつわるさまざまな幻想について、ユダヤ人で記者のアイザック・イーガー氏が考察しています。

Inside China’s Bizarre Obsession With Jews – LOVE/HATE – Medium
https://medium.com/s/love-hate/inside-chinas-growing-obsession-with-jews-80bc6ca105bf

イーガー氏は上海のユダヤ人難民博物館の前で「自撮り」に励む20代の中国人男性を見かけました。最も良い角度での撮影に苦戦していた二人の男性に代わって写真を撮ろうかと申し出たイーガー氏でしたが断られたとのこと。そのときに「なぜユダヤ人博物館に来たのか?」と質問すると、「ユダヤ人はビジネスがうまい。そして、とても賢いから」と若者たちは答えたそうです。

起業家を志しているという中国人の若者にイーガー氏は自身がユダヤ人であることを伝えると、「ユダヤ人なの?すごい」と驚くとともに、「でもユダヤ人には見えない」と若者は答えました。ユダヤ人のイメージを尋ねると、「スーツ姿に帽子をかぶり立派な髭がある」と答え、ハシディック教徒のようなステレオタイプな姿をイメージしていたそうです。


イーガー氏によると、ここ20年間にビジネス本をはじめとするユダヤ人に関する情報が中国に根付いたとのこと。上海では「ユダヤ教の教育法」なるものが熱心に実践されており、タクシーの運転手は乗客がユダヤ人だと知るとお金のジェスチャーを行うくらい、「ユダヤ人は商売の才覚にたけている」というイメージが中国社会に定着しているそうです。しかし、「The Image of Jews in Contemporary China」の著者であるノースイースタン大学のジェームズ・ロス教授によると、「中国人がユダヤ人を愛しているのを知っています。しかし、彼らが言うことの多くは間違ったステレオタイプです」と述べ、ユダヤ人に対する誤解があると指摘しています。

中国の歴史を調べると、中国語にユダヤを意味する「犹太」という単語が割り当てられたのは19世紀初頭だとのこと。ちなみに、それ以前には犹太は「悪人」や「疑わしい者」を示す単語だったそうです。その後、20世紀後半には中国共産党はパレスチナを支持し、ユダヤ人やイスラエル人を敵とみなすようになったとイーガー氏は解説しています。


社会全体にユダヤ人に対する偏見が広まる中で、中国人がユダヤ人を理解できる唯一の手段は文学だけだったとのこと。「初めてユダヤの人々を知ったのは、シェイクスピア作品だった」と魯迅が話した通り、ユダヤ人に直接会ったことのある中国人はほとんどいない状況でした。

その後、1990年代に中国が自由市場に開放されると、ユダヤ人に対する中国人の態度は大きく変わったとイーガー氏。中国に芽生えた新自由主義では起業家精神が生まれ、「ビジネスで成功した賢いユダヤ人」は理想的なロールモデルとなりました。

すると、「ユダヤ」という単語は富、教育、ビジネスに関連するものとして取り扱われ始め、多くの中国人ビジネスマンが「ユダヤ式」なる教育を受けて育つことになりました。ユダヤ本の人気に火が付き、ユダヤ関連の書籍が飛ぶように売れた中国は、韓国のユダヤ熱に勝るとも劣らないものだとイーガー氏は述べています。

中でも多くの中国人に「ユダヤ人の秘密」を説いた人物として贺雄飞氏の右に出る者はいないとのこと。ただし、歴史的な成功を収めたユダヤ人にうちにルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのようなユダヤ人ではない人を含めていることから、著作の信憑性には疑問が残ります。なお、イーガー氏は贺氏にコンタクトを取ろうとしましたが、成功しなかったそうです。


エセックス大学のシュン・ゾウ教授は、「中国人にとって、ユダヤ人は深遠な鏡です。(ユダヤ人がどのような民族なのかという)現実は問題ではありません。中国人が勝手に抱くイメージなのです」と述べ、中国でユダヤ人のイメージが独り歩きしていると指摘しています。

そして、中国にいるユダヤ系移民の一部には、中国人のユダヤ人に対する「信仰」を積極的に利用しているという側面もあるとのこと。「中国の教育法は、ストレスと不安で満ちていますが、ユダヤ系イスラエルの教育法は、知性や創造性に対してフォーカスを当てています」と述べるMeirav 梅花 Shacked氏の教育法は人気を集めているとのこと。


しかし、中国におけるユダヤ人の理解は、ユダヤ教への理解を欠いているため根本的に不十分だという声もあります。中国政府が宗教として認められているのは仏教、イスラム教、道教、プロテスタント、カトリックであり、ユダヤ教は公式的な宗教とは認識されていないとのこと。

ユダヤへの中国人気の高まりもあり、中国には推定で3000人のユダヤ人が居住しており、コミュニティも大きく成長しています。9年前に上海に移り住んだユダヤ人のジョニー・べスラー氏は、3人の息子を中国で育てており、中国はユダヤ人にとって安全な場所だと感じていると言います。しかし、上海のユダヤ人コミュニティKehilat Shanghaiのアンナ・フリッシュバーグ氏は、「ユダヤ人に関する中国の"神話"は、おそろしく簡単に反転することがあり得るでしょう」と述べています。ユダヤ人に対する中国人の理解が、あくまで中国人にとって望ましい解釈である以上、解釈の変わり方次第で反ユダヤに転じる可能性があるというわけです。

1949年から中国に住むRabbi(ユダヤ教の宗教指導者)のシュロモ・グリーンバーグ氏は、中国で加熱するユダヤ人信仰を冷ややかな目で見ているとのこと。中国で「ユダヤ人」ビジネスを展開する者たちは、「イスラエル人だからイスラエルのアクセントになっているだけで、さまざまな西洋文化のアイデアを集めたナンセンスな寄せ集めを売っているだけです」と批判的です。「中国人がディアスポラの中、2000年間生き永らえてきたユダヤ人の能力を称賛するのは、荒れた土地に強い経済を構築するためです。彼ら(中国人)は私たち(ユダヤ人)を愛していますか?私たちのために何かを犠牲にするでしょうか?誤解している人もいます。ここに愛はありません」と述べています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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