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AIに感情を通わせるのは想像以上に難しく不可能かもしれない


人間と同等以上の「知性」をAI(人工知能)に持たせることが目指される中で「感情」をいかに作り出すかが難問となっています。しかし、AIに感情を持たせることは技術的に不可能に近いのではないか?という指摘が出されています。

Emotion Science Keeps Getting More Complicated. Can AI Keep Up?
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AmazonのAlexaなどのAIアシスタントの登場によって、人間がAIと簡単な会話を交わせる段階にきたことから、さらに技術が進歩してAIが人間の感情を読み取れるようになることで、さらに知的なAIの活動が可能になると期待されています。しかし、感情言語科学の研究者であるリチャード・ファース・ゴッドビーヒー博士は、AIが人間の感情を読み取ることは想像以上に難しいのではないかとの見解を明らかにしています。


ゴッドビーヒー博士によると、まず根本的な問題点として従来からの「感情」の定義自体の不正確さを指摘しています。これまで感情科学においては、心理学者のポール・エクマン博士が提唱した、人間の感情は「恐怖」「悲しみ」「怒り」「幸せ」「驚き」「嫌悪」の6つの基本的な感情からなる、という説が一般的でした。シリコンバレーで行われているAIによって人間の感情を検出させ、ひいてはAIの感情を生み出すという研究においても、基本的にはエクマン博士の提唱した六感情説をベースに開発されているそうです。

エクマン博士が6つの基本的な感情を見出したのはパプアニューギニアで外界との接触がない先住民族に遭遇したことがきっかけであり、ここから「社会性を問わず人間には普遍的な6つの感情がある」とする説につながりました。しかし、ゴッドビーヒー博士によると人間の持つ感情の根拠となった「表情」からの内心の推測という行為自体がそれほど明確性のある行為ではないとのこと。

例えば、ゴッドビーヒー博士は以下のような「自動車内で拳を握る」自身の写真を提示した上で、「感情」を推測するのは困難だということを説明しています。この写真の表情を見て「渋滞からくる『怒り』の感情だ」と推測する人がいれば、「ラジオでひいきのスポーツチームの得点を聞いて炸裂した『喜び』の感情だ」と推測する人もいるかもしれません。この例からは、ある「表情」から感情を正確に推測することが難しいことが分かります。


ゴッドビーヒー博士によると、人間の感情を理解するには単なる「表情」を検出して判断するだけでは不十分で、周りの状況やその人が置かれた状況、それまでの経緯などありとあらゆる情報を読み解く必要があるとのこと。つまり、「拳を振り上げた人」を見たAIが感情を読み取ろうとする場合には、その人をとりまく様々な要因を考慮してその「コンテキスト」を正しく判断する必要があるというわけです。そして、そのような周辺事情のすべてをデータベース化することは極めて困難であり、機械学習などを使った表情の分析では人間の感情を正しく認識させることは至難の業だといえます。

ゴッドビーヒー博士いわく「感情とは動的なもの」であり、人間の脳はこの動的なものを柔軟に捉える能力にたけているとのこと。それは「移ろいやすく決して確定的ではない記憶」にも表れているとゴッドビーヒー博士は考えています。人間の脳は、コンテキストを読み取るために過去の動的な記憶を驚くほど柔軟に結合することで、状況を適切にカテゴリ化し無駄な情報をフィルタリングで取り除くことができ、これによって新しい経験に対しても適切に応答できるものだとのこと。つまり、人間の記憶があいまいで変化しやすいため、裁判で証拠とするのが心もとないのは、人間の優れた能力の裏返しであり、ある意味で当然なことのようです。

これに対してコンピューターの記憶である保存データは、「事実」を完璧かつ確定的に保持できるものですが、柔軟性がないがゆえに、場合によっては相反する事実に折り合いをつけつつ結合させるというような作業は苦手です。大量のデータを使ってトレーニングしたとしても、AIが動的な感情を正しく判断することは、性質的に難しいと言えそうです。


「ロボットに人権類似の権利を認めるべきかどうか?」という倫理的な問題では、ロボットによる感情の存在が大前提となっていますが、人間のような感情をロボットに持たせるために、感情を読み解き理解しAIにインプットするということは技術的にも極めて困難な状況にあるようです。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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