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古代壁画に「指の欠けた手形」が多数あるのはなぜなのか?


古代の洞窟壁画には多数の手形がつけれられていることがありますが、この手形は「指が欠けた状態」であることがしばしば報告されていました。この理由について、研究者は「宗教的ないけにえ行為のために指が切断された」という可能性を示しています。

A Cross-cultural Perspective on Upper Palaeolithic Hand Images with Missing Phalanges | SpringerLink
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs41982-018-0016-8

Strange Cave Art Could Mean These Palaeolithic People Amputated Their Own Fingers
https://www.sciencealert.com/strange-cave-art-could-mean-palaeolithic-artists-were-ritually-amputating-their-own-fingers

旧石器時代の洞窟壁画には、人間の手や指をかたどった「手形」がよく見られますが、フランスやスペインの壁画では、これらの指が一部失われている状態であることがありました。これまで、考古学者の多くは指のない手形が存在する理由について「ただの偶然だろう」と考えてきました。一方で、「指を曲げるなどして一部の指を描かなかった」という説もあれば、「一部の地域の人々には指を切り落とす慣習があった」という説もあるとのこと。


そして、サイモンフレーザー大学の考古学者であるMark Collard氏は新たな研究で、この「指を切断する慣習」という説を支持しました。「比較的新しい歴史の中でも、指の切断は多くの地域で一般的に行われています」「一部の後期旧石器時代の人々が宗教的ないけにえ行為として指を切断していたという仮説は、これまでのデータにも適合するものです」とCollard氏は述べています。

研究チームが上記のような結論を出した理由の1つは一部の地域で数多くの「指の欠けた手の跡」が発見されていることにあります。フランスのグロット・プレイストリック・ド・ガルガでは40~50人がつけたとみられる231個の手形が発見されていますが、うち114個は指が1~2本欠けている状態です。またフランスのコスケール洞窟では49個の手形のうち28個が、スペインのマルトラビエソ洞窟では71個の手形のうち61個が指の欠けた状態だったとのこと。


さらに、考古学者のC. Barrière氏は泥の中から人間の四肢を発見したことを1976年に報告しており、このうちいくつかの手には指がなかったとしています。Barrière氏が発見した痕跡と、指のない手形は同時代のものとみられています。

加えて、世界的な人類民族誌のデータベース「Human Relation Area Files」を調査したところ、現代においてもアフリカやユーラシア、オセアニア、アメリカの121の共同体が指の切断という儀式的慣習を持っていることが判明しています。もちろん多くの地域においてこの慣習はすたれてきていますが、いまだ現実のものとして行われている実態があるわけです。

ただし、指を切断する理由は文化によってさまざまで、愛する人の死を失った悲しみを表現するためや、あるいは職業的な身分証明、既婚の印、懲罰の形などとしても切断されることがあるそうです。このうち、後期旧石器時代の人々が指を切断した理由として研究者が信じているのは「宗教的ないけにえ行為」であり、指の切断によって神性や超自然的な力が得られると考えられていたとみられています。

by Noelle Otto

一方で、今回の研究には参加しなかった考古学者のIan Gilligan氏は、氷河期時代に見つかった指の欠けた手形のパターンは、研究が示した民族誌的なケースに一致しないという点を指摘。氷河期に見られた「指の欠け」は凍傷の影響によるものだとしています。また、ダーラム大学の考古学者は、当時において指を失うことは自殺に等しかったため、対人関係において指を落とすという行為は割にあわない、として「指を曲げた状態で手形が取られた」と主張しています。

研究チームもこれらの可能性を否定しておらず、論文は「結論を出したものではなく、可能性を調査したもの」だとしています。「切断仮説は完璧ではありませんが、さらなる調査を行うべき正当性を持った仮説であることを示すものです」とのことです。

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in Posted by darkhorse_log

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