メモ

学術論文を有料購読サービスから解放しようとする試みが進行中

by klimkin

科学研究の成果は論文という形で科学誌などに発表され、その研究には参加していない他の研究者もその論文を読むことで、自分が直接関与していない過去の研究成果を知ることが可能。そうやって入手した過去の研究結果にもとづいて新たな研究を行うことで、科学は次々に進歩を重ねています。しかし、そんな学術論文の多くが「有料購読サービスの壁に阻まれている」という事実が大きな問題になっており、多くの研究者らはこの現状に対抗しようとしています。

Time to break academic publishing's stranglehold on research | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/mg24032052-900-time-to-break-academic-publishings-stranglehold-on-research/

エルゼビアをはじめとする学術論文の出版社は、世界各国の大学や研究所が支払う学術雑誌の購読料によって膨大な利益を得ているとのこと。これらの学術論文にアクセスするための購読料は非常に高額であり、一説によるとその利益率は40%を超えているそうです。学術論文は世界で最も利益率の高いビジネスの一種であり、その利益率は石油産業等すら上回っているとされています。

いったいなぜ学術論文の出版がこれほどまでの利益率を誇るのかというと、「学術論文の購読料は多くが公的な資金によってまかなわれているから」という現実があります。専門的な研究を行う施設や大学の多くは公的な支援を受けており、彼らは研究を行うために最新の学術論文にアクセスする必要があると判断し、学術論文の購読料を研究資金の中から捻出して支払うとのこと。


学術論文にアクセスできた研究者らは最新の研究成果を入手し、それをもとに新たな研究を行い、その成果を学術論文という形で発表します。そうして発表された学術論文の権利は再び出版社の手に渡り、他の研究者らはその研究成果にアクセスするために購読料を支払うというサイクルが完成してしまっているそうです。学術論文の著作権は多くの場合出版社が保持しており、膨大な購読料による金銭的メリットを論文の執筆者が得ることはありません。

この学術論文にまつわるビジネスモデルは不健全であり擁護できないものであると、利益を享受している一部の出版社ですら理解しているとのこと。すでに無理なビジネスモデルに起因する問題は噴出しており、あまりに法外な購読料に耐えきれずに研究のために最新の論文にアクセスする必要があるはずの大学すら、論文の購読契約を打ち切るという事態に発展しています。

高額すぎる購読料を嫌ってエルゼビアなどとの論文購読契約を打ち切る大学が続出 - GIGAZINE


そんな中、「科学の発展のために」という名目で世界初の学術論文に関する海賊版サイトである「Sci-Hub」が登場しています。カザフスタンの神経科学者であるアレクサンドラ・エルバキアン氏によって創設されたSci-Hubのアイデアは、「おそらく二度と読まないであろう論文を300ドル(約3万4000円)を支払って購読しなければならない」という問題に直面したエルバキアン氏自身の体験から得たとのこと。

4700万件の研究論文を「科学の発展」のためタダで読めるようにしている海賊版サイト「Sci-Hub」 - GIGAZINE


Sci-Hubはエルゼビアを筆頭に多くの出版社から訴えられており、法廷闘争に破れてドメインを失うなどの措置がなされています。その一方でSci-Hubの有用性を訴える声は世界中の科学者から挙がっており、実際に学術論文にアクセスして最新の研究成果を得たい研究者にとってSci-Hubは有用なツールとなっている模様。

論文の執筆者は多くの場合著作権を放棄しているため、購読料による金銭的メリットを得ることはできません。そのためほぼ全てが出版社の利益となる多額の購読料は、自身の論文を多くの研究者に読んでもらい、さらなる研究に役立ててもらう機会を阻害するものに過ぎないという見方が強いとのこと。

科学論文の海賊版「Sci-Hub」を違法と訴える巨大出版社に対して根本的法改正の必要性を訴える科学者という構図 - GIGAZINE


学術論文のオープンアクセスを目指す最新の試みとして、欧州委員会(EC)と11の研究機関によって発表された協定である「cOAlition S」があります。cOAlition Sは「プランS」という目標を達成するために組織されたものであり、プランSでは「2020年以降に出版される公的な助成金を受けた研究は、オープンアクセスジャーナルあるいはオープンアクセスプラットフォームで発表されなければならない」ということを原則にしています。

無料で全ての科学研究を出版日に読めるようにするための構想「プランS」とは? - GIGAZINE


2018年9月にcOAlition Sが発表された当時、世界中の研究者らはこの動きが雪だるま式に拡大していくことを期待していました。ところが2018年11月の時点では、取り組みに合意したのはEU圏内における43の研究機関に過ぎず、期待されていたアメリカの研究機関はcOAlition Sに参加していません。

プランSは現状の学術論文出版社が保持するビジネスモデルを打開するチャンスとなり得ますが、この試みが成功するためにはほとんど全ての研究機関がcOAlition Sに参加する必要があるとのこと。一部の研究機関が現状のビジネスモデルから離反するだけでは試みは失敗に終わる可能性が高く、今後も研究者らは膨大な購読料を支払い続ける必要に迫られると見られています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
無料で全ての科学研究を出版日に読めるようにするための構想「プランS」とは? - GIGAZINE

科学者たちの生の声から分かった「科学が直面している大きな7つの問題」とは? - GIGAZINE

科学論文の海賊版「Sci-Hub」を違法と訴える巨大出版社に対して根本的法改正の必要性を訴える科学者という構図 - GIGAZINE

高額すぎる購読料を嫌ってエルゼビアなどとの論文購読契約を打ち切る大学が続出 - GIGAZINE

ビル・ゲイツ財団がこれまで資金提供してきた研究者の論文を誰でも即時アクセス可能に - GIGAZINE

研究論文を無料で読める「Sci-Hub」が論文ビジネスに与える影響とは? - GIGAZINE

in メモ, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.