サイエンス

速球のツーシームとフォーシームに空気力学的な違いはないと判明、では何が球筋を変えているのか?


野球のファストボール(速球)には、ボールのシーム(縫い目)への指の掛け方から「フォーシーム」と「ツーシーム」の2つに大別でき、それぞれ軌道が異なります。従来、この球筋の違いはボールが1回転するごとに通過するシームの数が異なることで生まれると考えられてきましたが、別の要因があるとの研究発表が行われています。

APS -71st Annual Meeting of the APS Division of Fluid Dynamics - Event - Velocity fields of pitched baseballs using Particle Image Velocimetry
http://meetings.aps.org/Meeting/DFD18/Session/E17.1

Explaining a fastball's unexpected twist | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2018-11/aps-eaf111318.php

Physics can explain the fastball’s unexpected twist, new study finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2018/11/physics-can-explain-the-fastballs-unexpected-twist-new-study-finds/

球体が回転しながら空気中を移動するとき、回転する球の周囲に圧力の変化が起こります。進行方向に対して上向きの回転(バックスピン)が加わると、ボールの上下に圧力差が生じて球を下から上に持ち上げ重力に逆らう方向に力(揚力)が発生し落下しにくくなる物理現象は「マグヌス効果」として知られています。


バックスピンのかかった速球が揚力を受ける場合に、「8の字」と表現される縫い目を持つ野球のボールには回転方向の違いから大きく分けて2つの異なるパターンがあり得ます。日本で昔から「ストレート(直球)」とされてきた握りで投げる速球は、ボールが1回転するたびにシームが4回通過することになり、「フォーシーム」と呼ばれます。これに対して、従来は「シュート」系とされてきた握りで投げる速球は、ボールが1回転するたびにシームが2回通過することになるため「ツーシーム」と呼ばれており、フォーシームとは区別されています。


ボールの上下に圧力差を生じる要因として、ボール表面から出っ張ったシームの影響は大きいため、ツーシームに比べてフォーシームはより大きな揚力が得られて「伸びのあるストレート」になり、対してツーシームはフォーシームより伸びは欠くものの、微妙に変化するという特徴があるとされています。この通説を打ち消し別の要因を挙げるのが、今回発表されたアメリカの研究です。

アメリカのユタ州立大学で機械工学と航空宇宙工学を研究するバートン・スミス氏は、熱狂的なベースボールファンであることが高じて、フォーシームとツーシームの違いを空気力学的に調べました。スミス氏は、フォーシームとツーシームを投げ分けられるピッチングマシンを作成し、煙がただよう空間でボールを投げだし、煙粒子の様子を20マイクロ秒間隔で撮影しました。わずかな時間間隔によって変化する煙の様子を比較する「particle image velocimetry(粒子画像速度測定)」と呼ばれる手法を用いて、ボールの周りに生じる空気の渦の回転方向や回転速度を計算し、さらに、ボールを取り囲む空気層が分離して流れを生み出す部分を特定することで「boundary layer separation(境界層剥離)」を算出したとのこと。


その結果、フォーシームとツーシームでは境界層分離の発生する場所はボールの回転によって異なるものの、ボール全体に生じる空気力学的な効果はほとんど同じだということが判明したそうです。つまり、回転方向に応じたシームの横切る回数の違いによって球筋の違いが発生しているわけではないということです。

では何がフォーシームとツーシームの軌道の違いを生み出しているのかというと、「ボールの回転軸の傾き」だとのこと。ツーシームはフォーシームよりも回転軸の傾きが大きいそうで、これによって軌道が変わると考えられます。なお、ツーシームの回転軸の傾きが大きい傾向にある原因について、スミス氏はリリース時にシームから指が1本ずつ離れることが原因ではないかと考えているそうです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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