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睡眠時無呼吸症候群の患者が医療機器のハッキングによって「生きながらえている」と語る理由

by Larry & Teddy Page

睡眠時無呼吸症候群は睡眠時に呼吸停止または低呼吸になる疾患で、治療を行わないと心臓発作や脳梗塞、糖尿病、心不全、不整脈、肥満、交通事故のリスクが増加するといわれています。この患者たちがCPAPと呼ばれる呼吸器をハッキングして自分自身で医療機器を調整する動きがあり、医療の落とし穴と、ハッキングによって「生きながらえている」と語る患者たちの姿をニュースメディアのMotherboardが追っています。

Why Sleep Apnea Patients Rely on a CPAP Machine Hacker
https://motherboard.vice.com/en_us/article/xwjd4w/im-possibly-alive-because-it-exists-why-sleep-apnea-patients-rely-on-a-cpap-machine-hacker

睡眠時無呼吸症候群の患者は「太った男性」というイメージが持たれていますが、実際の患者はこのような人物像に限りません。アリゾナ州で暮らす62歳の女性、クリスティー・リンさんも、毎日の疲れが取れないと思っていたところ、医師から睡眠時無呼吸症候群の疑いがあると告げられた一人です。


睡眠時無呼吸症候群にはいくつか種類がありますが、リンさんが診断されたタイプは、治療が難しいとされるものでした。リンさんは診断後、圧力をかけた空気を鼻から送り込むCPAPと呼ばれる機器を医師から手渡されたとのこと。

睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数をAHIと呼びますが、CPAPを使って半年経過しても、リンさんのAHIは向上しませんでした。「どの医者も私のAHIを下げることはできなかったし、正直なところ、みんな私のAHIに特に関心を持っていないようでした」とリンさんは当時を振り返っています。

状況を何とか改善するため、リンさんはGoogle検索を行い、睡眠時無呼吸症候群のためのフォーラム「CPAPtalk.com」に出会います。そして、このフォーラムで大きな話題になっていたのが「SleepyHead」というオープンソースのソフトウェアでした。

by Philips Communications

SleepyHeadはオーストラリアのデベロッパーであるマーク・ワトキンズさんによって開発された、アメリカ食品医薬品局(FDA)未承認のソフトウェア。数千時間におよぶハッキングによって作られたというこのソフトウェアによって、患者は通常アクセスできないCPAP機器のデータにアクセスできるようになります。CPAPのソフトウェアによって収集されたデータは基本的に医師など権限のある人しかアクセスできず、患者はソフトウェアを購入したりダウンロードしたりもできません。リンさんは「このソフトウェアによってCPAP経験がどのように変わったかをうまく説明できないのですが、昼と夜ほどに違うのです。私が今生きているのは、このソフトウェアのおかげです」と語っています。

CPAP機器は平均空気圧、AHI、マスクの漏れ率といったさまざまなデータを収集します。これらのデータの多くはSDカードに記録されるので、患者は半年に1回このデータを医師の元へ持っていくか、あるいはアプリを使って医師へと送信します。本来であればこのようなデータは各患者にあわせたCPAPの空気圧の調整などに使われますが、医師のほとんどは数値を少し確認して数字を機器に送るだけとのこと。2015年の研究では睡眠の専門家が不足しているという現状が指摘されており、データを活用したパーソナルケアを受けられている患者がほとんどいないという問題点が浮きぼりとなっています。

by rawpixel

しかし、だからといってCPAPを患者が直接操作することは危険である、と睡眠生理学者のトーマス・ペンツェル氏は述べています。機器の調整は、「間違ったら死に至る危険があることなのです。CPAPはオモチャではなくて、医療なのですから」とペンツェル氏。一方でペンツェル氏は、医師が睡眠時無呼吸症候群の患者に寄り添っていない現状があることも認めており、医師が患者のデータを読むのは治療のためではなく、保険のために「患者がCPAPをちゃんと使っている」ということを確認することが目的となっていると述べています。

CPAPtalk.comやApneaBoard.comにおいて、CPAP機器のデータをデコードし、一般患者からアクセス可能にするSleepyHeadは中心的な話題です。通常CPAPのデータは専用ソフトウェアでしか読み込めないようにされていますが、ワトキンズさんは機器のデータをクラッキングしてしています。データのフォーマットには改ざん防止処理が行われているため、ファイルのフォーマットをハッキングするというプロセスは非常に複雑なものだとワトキンズさんは語りました。

ワトキンズさんがSleepyHeadプロジェクトを開始したのは7年前、自分の使用しているCPAP機器のSDカードが持つ「禁断の秘密」に興味を持ったことがきっかけでした。「時間の経過とともに、私は人を利用し搾取するCPAP産業にますます嫌けがさしてきました。患者たちにとって、無料で利用できて、データ重視の、オール・イン・ワンなCPAP解析ツールが必要なのは明らかでした」とワトキンズさんは語ります。

このように、医療機器に対してDIYムーブメントが起こることは初めてはありません。アクティビストのヒューゴ・カンポス氏は、自分自身のペースメーカーのデータにアクセスすべく活動を行ってきました。

Fighting for the Right to Open his Heart Data: Hugo Campos at TEDxCambridge 2011 - YouTube


そしてカンポス氏らの取り組みによって、2015年にはデジタルミレニアム著作権法(DRM)の例外が認められ、セキュリティ研究のためであれば患者が医療機器をハッキングし、データにアクセスすることが認められました。このため、医療機器をハッキングするというワトキンズさんらの行動は、完全に合法となっています。ただし、ハッキングが合法だからといって、医療機器メーカーがそれを歓迎しているわけではありません。ワトキンズさんによると、新しい機器のデータフォーマットをハッキングするには数百時間を要することもあるとのこと。そして、ワトソンズさんが医療機器メーカーにメールを送ると、大抵のメーカーはメールを無視し、時には不快を示すこともあるそうです。

新しい機器が登場する都度ハッキングするワトキンズさんは、一人でプロジェクトを行うことも、他の誰かと一緒に行うこともあります。記事作成現在は妻のサポートのもとプロジェクトに集中しているワトキンズさんですが、睡眠時無呼吸症候群の症状は改善してきており、子どもが成長してきたことからも、父親業以外の仕事を探す段階にきているそうです。ワトキンズさんは「いつかDRMフリーで修正可能なCPAP機器を作りたい」と語っていますが、デベロッパーとして働くようになれば、SleepyHeadプロジェクトはいったん停止させざるを得ません。

睡眠時無呼吸症候群において、医師は機器の販売などお金の動く活動には熱心ですが、CPAPユーザーが抱える疑問や問題を解決するために時間やお金を費やしません。そんな中でApnea Boardフォーラムは「患者に力を」という目標を掲げており、実際に、患者たちの情報と学びの拠点となっています。Apnea Boardフォーラムでは医師用に作られたマニュアルがダウンロード可能になっており、マニュアルを読めばCPAPを自分の体に合わせて調整することが可能です。

by Kinga Cichewicz

睡眠時無呼吸症候群を患う人の中には、「『自分で治療を変えることは危険だ』という考えは、医師やメーカーが患者に恐怖を植え付けるためのものだ」と考える人もいるとのこと。このような考えを抱く人の多くは、機器の仕組みを完全に理解してから機器を調整するといいます。

睡眠時無呼吸症候群に悩んでいたリンさんも、このマニュアルとSleepyHeadの組み合わせによって治療を完全に変えることができたとのこと。「医師は、過去6カ月間の平均データを見ますが、個々の夜を掘り下げてどのような問題が起こってるのかを見ようとはしません。私はSleepyHeadで毎日数値を確認し、機器の設定を変えていきました」「今は、最初に診断された時よりも気分がいいと感じます。よく眠れるし、気力があります」「私は62歳の自営業者であり、金銭的な余裕がないので健康保険もありません。もしこのソフトウェアがなければ途方に暮れるでしょう」とリンさんは語りました。

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