サイエンス

遺伝子編集技術「CRISPR/Cas9」が人間の持つ免疫反応によってうまく働かない可能性が指摘される

by National Human Genome Research Institute

遺伝子編集技術である「CRISPR/Cas9」は、事前にプログラミングしておくことで特定のDNAを切断できるため、遺伝子疾患の治療などに役立てられると注目を浴びています。そんなCRISPR/Cas9に使用する酵素であるCas9に対して「多くの人が免疫反応を起こすかもしれない」という研究結果が報告されました。

High prevalence of Streptococcus pyogenes Cas9-reactive T cells within the adult human population | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-018-0204-6

Xconomy: Pre-Existing Immunity to CRISPR Found in 96% of People in Study
https://www.xconomy.com/boston/2018/10/29/pre-existing-immunity-to-crispr-found-in-96-of-people-in-study/

CRISPR/Cas9については以前から、「ガンのリスクを高める」「予測外の領域に作用してしまう」といった危険性が指摘されてきました。2018年1月にはスタンフォード大学医学部の研究チームが、「多くの人がCas9に対する抗体を持っている場合がある」という研究結果を発表していたとのこと。

そんな中、ベルリン医科大学シャリテの研究者は健康な48人の血液サンプルに、「ストレプトコッカス・ピオゲネス(化膿性レンサ球菌)」由来のCas9を投与しました。ストレプトコッカス・ピオゲネス由来のCas9は、最も一般的にCRISPR/Cas9による遺伝子編集に使われているDNA制限酵素の一つです。

その結果、実に96%もの人々の血液からT細胞ベースのCas9に対する免疫反応が見られ、85%からはCas9への抗体が発見されたとのこと。スタンフォード大学医学部の研究チームの研究では65%の人々に抗体が存在していることがわかっていましたが、T細胞ベースの免疫反応は確認されていませんでした。

研究を主導したMichael Schmueck-Henneresse氏は96%もの人々が免疫反応を示したことに最初は驚いたそうですが、「ストレプトコッカス・ピオゲネスはとても人間に感染しやすい細菌であることから、多くの人々が過去にストレプトコッカス・ピオゲネスに感染し、それに対する抗体や免疫反応を持っていたとしても不思議ではない」と語っています。


CRISPR/Cas9による遺伝子編集技術は日々盛んに研究が進められており、実用化が目の前まで迫っている技術です。ところが、Schmueck-Henneresse氏は「現時点では、人間の体内に存在する免疫反応がCRISPR/Cas9に対してどのような影響を及ぼすのか予測することができません。結果的に生じる影響は、遺伝子編集のターゲットや使用の方法など、さまざまな要素に左右されます」と述べ、臨床試験の際には注意が必要だと主張しています。

今回発見されたCas9への免疫反応を回避する方法として、Schmueck-Henneresse氏はCas9が作用する時間をなるべく短くすることや、免疫を抑制する薬を被験者に投与することなどを挙げました。また、Cas9のタンパク質遺伝子を編集することでも免疫反応を回避できる可能性もあるとのこと。


ストレプトコッカス・ピオゲネス以外の細菌に由来するDNA制限酵素を使用する案も提案されていますが、Schmueck-Henneresse氏によれば多くのDNA制限酵素は人に感染しやすい細菌に由来しているため、別の酵素を使えば万事解決というわけではない模様。Schmueck-Henneresse氏は試しにCpf1という別のDNA制限酵素を使用して実験を行いましたが、やはりCas9と類似した免疫反応が見られたそうです。そこで、Schmueck-Henneresse氏はストレプトコッカス・ピオゲネス由来ではない、人間への感染が知られていないCas9を使用する回避法を提案しています。

Schmueck-Henneresse氏は「パニックになる必要はありません。今回の結果は確かにCRISPR/Cas9を人体に適用する際の危険性を示していますが、遺伝子治療の分野で免疫原性が問題視されるのは今に始まったことではありません」と語りました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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