インタビュー

アニメ枠としてノイタミナに続く「+Ultra」を始めるフジテレビの森彬俊プロデューサーにインタビュー


2005年4月から「ノイタミナ」という名前を冠した夜のアニメ枠を設けているフジテレビで、この2018年10月から新たに始まるアニメ枠が「+Ultra」です。アニメが1クールで50作品~60作品放送されている今現在、新たな枠を作っていくところにはどういう狙いがあるのか、そしてどういった作品を送り出していく予定なのか、プロデューサーである森彬俊さんに話を聞いてきました。

「+Ultra」公式サイト
http://plus-ultra.tv/

「+Ultra」森彬俊プロデューサー


GIGAZINE(以下、G):
今回、「イングレス」がフジテレビの「+Ultra」枠で放送されるとのことですが、まずはこの新しい枠である「+Ultra」についてのお話からうかがえればと思います。フジテレビ公式サイトに掲載されているアニメラインナップ発表会2018のレポートで、「+Ultra」について「世界で高まる日本アニメの需要に応えるため、最初から世界に見据えたアニメをお届けする」と書いてあるのですが、この「最初から世界を見据えたアニメ」っていうのはどういうアニメであるというように考えておられるのですか?

フジテレビ 森彬俊プロデューサー(以下、森):
弊社では「ノイタミナ」という枠を14年ほどやらせてもらっています。いろんな作品をやらせていただいた結果、ある種、どんな作品をやっても「ノイタミナらしいね」と言っていただけるようになり、ブランドとして認知されたと我々も自負しています。その中で、我々としてはまた違ったベクトルにもチャレンジしていきたいという思いがありました。ノイタミナという枠は、昔はアニメの枠の中で異端児と言われてたような枠なんですけれど(笑)、この近年で視聴者の方々のアニメを見る目が醸成され、作品の多様性が認められてきたこともあり、海外のアニメファンに向けたコンテンツ作りに挑戦できるという段に来たのではないかと思いました。

Anime Expoのような海外イベントに行くと、熱心なファンの方に来て頂けるのですが、今までは日本のアニメのムーブメントから、少しタイムラグがあるという感触がありました。それが、最近はNetflixやAmazonプライム・ビデオなど、その他のいろいろな配信インフラによって、日本の放送からタイムラグなしでアニメを見ることができるようになったことで、海外のお客さまのアニメに対する視聴感覚も日本人と大差なくなってきているように思います。なので、我々が、最初から海外のお客さまを意識したアニメーションというものを届けて、それが受け入れてもらえるような土壌ができたんじゃないかな、というのも大きかったです。この「+Ultra」枠ではNetflixともパートナーシップを組ませて頂き、国内のお客さんはもちろん、海外のお客さんに対してもきちんと訴求できるアニメ枠を、というのがコンセプトで始めたいと思っています。

G:
2018年10月開始の作品が「イングレス」で、その次の2019年1月が「revisions リヴィジョンズ」、2019年4月は「キャロル&チューズデイ」と作品が発表されています。どのような考えから、こうしたラインナップになったのですか?

森:
この枠は海外に訴求したいということと、ハイクオリティでありたいということがありました。現在、1クールのあいだに放送されるアニメの本数は深夜、朝、短尺作品とすべて含めると60作品近くて、せっかくクリエイターの皆さんと一緒に長い時間をかけて作っても、そもそも見てもらえないという作品が多いんです。

G:
「ゼロ話切り」みたいな感じですね。

森:
そうなんです。その中で見てもらうためには視聴者の方に対して、目立たなければいけないんですが、「目立つってなんだろう?」と考えた時、キーワードとして1つ浮かび上がってきたのが「ハイクオリティである」ということです。作品を比較したときに「あの枠ではクオリティの高い作品をやってるよね」と思ってもらえれば、それは今後も見続ける動機になるんじゃないか、注目してもらえるんじゃないかと。あと……3つ目は裏テーマなんですけれど、発表会で弊社の大多常務が「破格の製作費を投じ……」という話をしました。

G:
言ってましたね(笑)

森:
あれはあながち嘘ではなくて、昨今アニメ業界はブラックだと言われてる中で、そうは言われつつも業界全体としては「適正な金額を払おう」という方に傾いてきていると思っています。我々企画者としても、クリエイターの方々には適正なお金をお返ししたいと考えています。そこで、今までの慣習に準じて「1話ごとの単価はこれぐらいで、でもクオリティは高めで」ということではなく、こういうハイクオリティなものを作りたいので協力していただきたい、逆算するとこれぐらいはかかりますよね、と話をして、きちんとみんながハッピーになれる制作スキームを示したい、ということもあります。

G:
なるほど、そういうことだったんですね。「イングレス」からはじまるそれぞれの企画は、どのように決まっていったんですか?

森:
まずは前提としてクオリティの高いアニメーションであるということ。その上で、TVアニメ「イングレス」は、原作ゲームが世界中でプレイされているので、お客さまが世界規模のマーケットでいるということですね。「revisions リヴィジョンズ」については、世界中にファンがいる谷口悟朗監督のクリエイティブに加え、舞台が「渋谷」で世界的にも認知度の高い場所です。「キャロル&チューズデイ」は渡辺信一郎監督という、たぶん海外では特に知名度の高い日本のアニメ監督の新作オリジナルであるということ、今回は歌ものの作品なので、「全世界ボーカリストオーディション」を実施致しました。

G:
情報、出てましたね。

森:
はい。ワールドワイドな接点があり、ハイクオリティなアニメーションとして、きちんと予算をかけてもいいとみんなが思えるようなもの、が企画のポイントかもしれません。

G:
なるほど、それでNetflixとか、要するにそういうネット配信的なものも視野に入ってるみたいな……。

森:
そうです。

G:
以前「ノイタミナ」を担当していた山本幸治さんのインタビューがアニメイトタイムズに掲載されていて、

──山本さんはノイタミナで作品をやるにあたって、「メジャー原作もの」「社会派オリジナルもの」「異ジャンルもの」の3つに分けて作っていらしゃったそうですね。
山本:そんなことも言ってましたね(笑)。

というやりとりがあります。さきほど挙げられた3作品も、なにか山本プロデューサーのようにジャンルを考えているのですか?

森:
僕はジャンルは決め込みたくないなと考えています。先ほど挙げた要件を満たすなら、ドSFでもいいし、ファンタジーでもいいし、はたまた日常ものでもいい。「この枠ってSFしかやらないよね」と思われてしまうと、それだけで視聴者のニーズは狭まってしまいます。我々は「テレビ屋」ですので、できるだけ多くの方々に見ていただきたいですから、ジャンルには縛られないけれど「この枠は『品質保証』がある」ということができればと考えています。

G:
そういうイメージなんですね。「+Ultra」のムービングロゴについて「高品質で世界基準な2作品を日本をはじめとした世界に向けて届けていきたい、そのコンセプトを体現するロゴ&ムービングロゴは日本のみならず世界で活躍する大友克洋氏のディレクションにより制作!」と公式Twitterでツイートされていたかと思いますが、どういう経緯で大友克洋さんを選ばれたのですか?

森:
僕らがノイタミナをやってきた経験から得られたこととして……番組が始まる前に、5秒のムービングロゴが流れるのですが、あれはブランド訴求の上ですごく大事だということです。今、他局さんでも同じようなムービングロゴを入れておられるところがありますが、最初にはじめたのは、多分ノイタミナじゃないかなと思っており、だからこそ、新しい「+Ultra」というブランド名をちゃんと認識して頂くために、絶対にやりたいと考えていました。その上で、海外を視野に入れた「+Ultra」のコンセプトを表現するために、どういう方にお願いしたらいいかということは宣伝チームみんなで頭を悩ませました。それこそ、著名なデザイナーの方にお願いするのがいいのか、それとも海外の映画監督とかにお願いするのがいいのか……。でも、基本に立ち返り「日本から海外にアニメを訴求する」はすでに行われていて、その最初の波を作ったのは「AKIRA」だったのではないかと思い立ちました。そこで、オリジンである大友克洋さんにお願いするのが一番よいのではないかと。我々の新枠の決意を示す意味でもお願いできないかとご相談したところ、快諾いただき、とんとん拍子に決まったという流れです。

G:
ムービングロゴはYouTubeで公開されていますよね。バラバラのモチーフが登場して、一体何のメッセージなのだろうと考えたのですが……。

+Ultra ムービングロゴ - YouTube


森:
あれは、大友さん自らコンテを描いたものです。ムービングロゴとは枠の扉であって、「+Ultra」枠からは、何が出てくるか分からない多種多様なものがあるよ、日本の文化とかに縛られないものが出てくるよ、ということを表現していただきました。

G:
雑多なように感じたのは間違いではなかった!(笑)

森:
はい、一見すると何の関係もないバラバラなんですが(笑)

G:
一体、あそこに出てきた謎の男はなんだろう?と思っていました。そもそも、フジテレビの中でアニメの位置付けというのはどういったところなのですか?「+Ultra」は発表会に常務が出てくるなど、期待をかけられている印象ですが。

森:
そうだと信じたいですね(笑)。アニメについては編成戦略もあって一口には言えないのですが、フジテレビはアニメを結構大事にしてきたアニメフレンドリーな放送局であるということは言えると思います。夕方の帯のアニメ枠が減ってくる中でも、フジテレビはゴールデンタイムに「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」の放送を続けてきました。その土壌に加えて5年前に「アニメ開発部」が立ち上げられて、それまでは一部署の中の1チームがノイタミナを担当していたんですが、会社の正式なセクションとしてちゃんとコンテンツ作りをしていこうということになりました。これは、会社の意向としてアニメに力を入れようと言ってるのに他ならないと思っています。

G:
そういうことになりますね。

森:
一昨年、日曜朝の枠で「モンスターハンターストーリーズ RIDE ON」の放送を始めて、今は「レイトンミステリー探偵社~カトリーのナゾトキファイル~」を放送してます。朝に情報番組ではなくアニメ枠を1つ増やすというのはこのご時世にはあまりないことです。「+Ultra」の場合は、発表の際に常務まで引っ張り出してしまって(笑)、アニメのスキーム面やコンセプトということでも、放送局としての新しい取り組みの一つだという気概で行なっています。


G:
なるほど、そういうことだったんですね。とても納得しました。森プロデューサーは、2015年5月に電撃オンラインに掲載されたインタビューの中でノイタミナを担当し始めた時期について、「『ブラック★ロックシューター』でアシスタントプロデューサーを担当したのが最初ですね。それが2011年あたりで、それから『サイコパス』を担当し始めたという感じです」と答えています。テレビ局の人事のことはあまりわかっていないのですが、こういうのは、森さんが上の方に「アニメを担当したいです」と言って担当することになったのですか?それとも、「アニメを担当しなさい」という指示が下りてくるんですか?

森:
アニメ開発部ができたのは先ほど申し上げたように5年前で、結構最近なんです。僕はそもそも、入社したときはドラマやバラエティのパッケージ化を担当するセクションにいたんです。それで、たまたま隣のセクションがノイタミナのチームだったんですよ。自分自身、学生のころからアニメとか好きだったので「なんとか異動させてもらえないか」と入社以来お願いをしていて。

G:
なるほど、隣だし(笑)。

森:
でも、「入社したばっかりのやつを、そんなホイホイと異動させられるか」ということで、3年ぐらい粘り続けたところでようやく異動させてもらえた、という。

G:
3年も粘ったのは、すごい気合いですね。

森:
もし当時、もう「アニメ開発部」ができていたら異動できなかったかもしれません。当時は、同じ部署内の別セクションだったので比較的、異動は楽なんですが、部をまたぐ異動ってちょっと難しいんです。

G:
なんと。その見事なタイミングで参加して、そこからスタートして今に至る、って感じなんですかね。

森:
そうですね。

G:
アニメにはいろんな「プロデューサー」の方が関わっておられますが、テレビ局のプロデューサーというのは実際のアニメ制作において、どういう形で関わるのですか?

森:
すごく単純に言うと、アニプレックスさんや東宝さんのような「メーカーのプロデューサー」さんと一緒の立ち位置です。そもそも、テレビ局とアニメの関わり方自体が近年変わってきています。テレビ局として以前多かったのは、持ち込んでもらった企画を枠をご用意して放送する。それこそ、放送のための納品管理という色合いが強かったと思います。ところが、弊社では、ノイタミナ立ち上げのところから「テレビ局でアニメの企画からやろう」ということをコンセプトとして考えていました。企画を一緒にやってくれる制作会社さん、監督とかクリエイターの皆さんを我々主導で集めてやっていこうということですね。アニメは企画からやりだすと大変なので(笑)正直、いい企画がくるのを口を開けて待っていたほうがよっぽど楽です。ただ、我々の利点は、基幹事業が放送というメディアなので、二次利用ビジネスのための作品作りだけに縛られないことです。平たく言うと「これって円盤売れるの?」みたいな企画に挑戦することもできたということです。ただ、その結果が枠の特異性に繋がり、ノイタミナや、「+Ultra」といったチャレンジを行えるようになったので、非常によかったと思っています。

G:
放送枠としては深夜時間帯になりますが、やはりみんなに生で見てもらいたいという思いは強いですか?今回、「イングレス」の第1話は放送日のリアルタイムの出来事のように描かれているという話で「すごいことをやるな」と思ったのですが。

森:
生で見ていただきたいというのはもちろんなのですが……正直なところ、毎週同じ時間にテレビの前に座って「はい、見ましょう」という時代ではないとも思います。それでも、みんなで血反吐を吐いてまで作ったコンテンツなので、少しでも多くの人に見ていただきたいという気持ちはあります。生でテレビで見てもらうのが嬉しいですが、気持ちとしては「皆さん、見てください」が1位です。

G:
なるほど。「+Ultra」とノイタミナは別の枠で、ノイタミナはノイタミナで残るとのことですよね。森プロデューサーはノイタミナの「編集長」も担当されていますが、引き継いだ経緯はどういうことだったのですか?

森:
当時、編集長をやっていた山本が退社して、独立して会社を立ち上げることになりましてた。それで、辞めるにあたって誰かが引き継がなければということになり、僕が指名を受けました。

G:
指名制なんですね。

森:
はい。というか「編集長」という役職はないんです。自称なんです(笑)。

G:
自称(笑)

森:
アニメ開発部には25~6人のメンバーがいて、デスクさんから商品化チームからいるのですが、いろんな作品をやっていく中では役割分担で、誰かが全体を見る役割をしなければいけないということで。

G:
全体を見るというと、具体的にはどういった役割を果たしておられるのですか?

森:
アニメ開発部には何人かプロデューサーがいて、それぞれに自分のやりたい企画があるわけです。人数は決して多くはないのですが、そんなに!?というぐらいたくさん企画を持ってくるんですが、そうなると時期がかち合ったり、ラインナップでこういう作品が足りてない、みたいなことも出てきます。だから誰か俯瞰で見る人間が必要で、それが編集長ということなんです。別に偉いとかではなく、まさに「枠を編集する」というお仕事です。


G:
そういう立場の役職だったんですね。ラインナップを揃えていく上では、アニメの知識も問われてくることになると思いますが、アニメは結構見ておられるのですか?

森:
元々アニメ好きなので見てます。

G:
今、放送中の作品というと50作品ぐらいありますが……。

森:
さすがにすべての作品を全話とはいきませんが、なるべく第1話は観るようにしています。そこから先は気になるものだけになってしまいますが、今は配信が充実していてすぐに追いつけるので、すごくありがたいです。

G:
そうやっていろいろ見ていると「これアニメ化するんだ!」と驚いたり、「やられちゃったか」と悔しかったりというのもありますか?

森:
ありますあります(笑) 実際にやれるかどうかは置いておいて、「これアニメ化したいなー」と思って、でもどうやったらいいかな、どういうクリエイターの方々を集めたらいいかなと考えているうちにポーンと発表があったり(笑)

G:
その「どういうクリエイターを集めるか」という部分もプロデューサーのお仕事なんですね。

森:
はい。

G:
そのとき、どのようにスタッフのイメージを固めていくんですか?

森:
基準となるのは監督、シナリオ、あと制作会社ですね。まずこの3点をイメージして「こういう企画だったらやっぱりこういう人がいいかな」みたいに考えて、あとはその方々を口説きに行きます。

G:
口説きに行くというと、これはリアルで行くのですか?

森:
そうです。初めましての人なら「私こういうものですけれども、今度こういう企画をやりたいんです。いついつスケジュール空いてらっしゃいますか?興味ありますか?」という感じですね。気になった作品を手がけている制作会社さんの代表番号に電話をかけて「私こういうものですけれども、今度どこかでお話をうかがえませんか?」みたいなことも。

G:
「いい企画がくるのを口開けて待ってる」の正反対ですね。

森:
そうですね。今、作品数があれだけ多いので優秀な制作ラインだったりクリエイターの方々というのはホントに空いていないんです。だから、待っているだけだとたぶんもう作品はできなくて、こちらから取りに行くしかないです。アニメ業界のプロデューサーのみなさんも同じように動いておられるので、まさに“取り合い”なんですよ。

G:
取り合いだと、何がどういう風になっちゃうんですかね?

森:
人気の監督だとオファーが殺到しますので、会ってお話をしたものの「じゃあ一緒にやりましょう。でもやれるのは5年後ですね」とか。

G:
5年後!(笑) 噂には聞いていましたが……。

森:
それぐらいは全然あることですよ。そういったときに我々にはちょっと難しいところがありまして……テレビ局以外のプロデューサーさんだと「どこで放送しなきゃいけない」「いつやらなきゃいけない」ということは決まっていないことが多いので、物理的な問題は置いておいて、企画をストックしておいてもいいんです。「この原作をお預かりして、監督と練ります。めどが見えたら具体的なスケジュールを決めます」と、そういうことができるんです。ところが、我々には「放送枠」というものがあって……

G:
ああ、なるほど!

森:
明確に「何年の何月」は空いているということが視覚化されてしまうんです。

G:
締め切りがえらいシビアになってくるわけなんですね。

森:
そういうことです。もし穴が開いたら大変です。

G:
一巻の終わりですね……。もう、事前に決まった放送枠に向かって走っていくしかないと。

森:
ただ、僕は「+Ultra」をはじめるときに、クリエイターの方々が入念に準備できるようなスケジュールで企画を立案したいと思っていました。そもそも「+Ultra」も構想から始まるまで少なくとも2年以上は経っていますし……スケジュールのせいで、ハイクオリティじゃないものになってしまったら、枠のブランディングに関わってしまいますから。

G:
なるほど。これもまた別のインタビューで、NewsWalkerに2017年11月に掲載されていたものですが、森さんは「テレビ放送だけでなく、Netflix、Amazonプライム・ビデオなど、配信の存在が大きくなってきている中で、当然各社のオリジナル作品も増えていくでしょうし、きっと作品数は、これからますます増えていくと思います。ノイタミナも、放送直後にAmazonプライム・ビデオで配信させていただいているんですけど、これまでは日本のアニメ作品が海外に流通するまで時間のギャップがあったのが、ほぼ同時のタイミングで世界中に広がるようになった。それだけに、世界に向けた作品が増えていくのではないか、というのは何となく感じています。実写だと、演じているのが日本人であることがハードルになってしまうことがありますが、アニメにはそれがないし、全世界で配信するのに非常に適したコンテンツでもあると思うんですね。僕らはその中で、現場が疲弊しないよう、スケジュールの管理など、これまで以上に彼らのフォローに注力することが課題だと考えています」と語っておられます。なにか、「+Ultra」でアニメの制作現場のフォローとして気を付けていることなどありますか?

森:
「これ来年でお願いします!」みたいな企画を持っていかないということです(笑) 現場にもクリエイターの方々にも、ちゃんと計画を立てられるスケジュールでお話をしに行くというのが最初にありますね。

G:
スケジュールはまさに仰るとおりだと思うのですが、業界だとときおり破綻しているケースがあるということを耳にします。森さんにお伺いするのもなんなのですが、なぜああいった事態が起きるのでしょう?

森:
多分、いろんな要因があり、ケースバイケースだと思いますが……1つは「作品数が多すぎる」ということです。原画さん、動画さんをはじめとする業界の「中の人」の数自体は増えていないのに、それに対する作品数が多くて手が間に合ってないっていうのは確実にあります。昔だったら制作期間1年半とかでやれたものも、物理的に人が集まらずに間に合わなくなることも出ます。

G:
時間の経過とともに集めにくくなってきたという感覚はあるのですか?

森:
ありますねえ……。

G:
昔のほうがまだ集まりやすかったですか?

森:
そうですね。そこへ来て「君の名は。」の大成功があって、世の中的にもアニメのプライオリティが上がったこともあります。「アニメをもっと作れ」っていう大号令だったり、企業そのものがアニメ業界へ新規参入だったり、増えたと思います。

G:
なるほど、そういう経緯が。ノイタミナのサイトに掲載されているクリエイターズインタビューの岸本卓さんの回で、岸本さんが「ノイタミナスタッフでいうと、第2期になって山本さんがホン読みに顔を出さなくなると森彬俊さんがのびのびと発言してくれて(笑)」と書いておられますが、山本さんがいるとプレッシャーがかかるから黙っていた、とかそういう理由があったりしたのですか?

森:
これは単純に、テレビ局の目線のプロデューサーが2人発言しても混乱するだろうということです。シナリオ打ち合わせって、プロデューサーや監督、脚本家がいて、みんなで基本意見を出し合っていいと思うんですけども、山本がいたときは、山本の発言に我々の意見を集約をさせていましたし、山本がいなくなったらそれは僕が発言する、という形です。

G:
本読みの時に、局のプロデューサーとしての視点でのコメントというのは何か出したりするのですか?出すにあたっては、どういう視点から見ているのですか?

森:
基本はみんな「そのシナリオを面白くしよう」ということがベースなので、局のプロデューサーだからといって変わっているところはないんじゃないかと思います。あえて言うなら、「そこの表現はこういったコンプライアンスに引っかかるので、ちょっとこういう風に変えましょう」とかでしょうか。書籍とテレビを比較すると、テレビの方が表現には厳しいですから。でも、全体の構造を破壊するようなことは、少なくともウチのチームはしないと思います。初めて組んだクリエイターの方によく「局Pってもっと違うと思ってました」って言われるので、皆さんが想像する「局Pっぽい発言」はあまりしていないみたいです(笑)

G:
(笑) すでに「イングレス」は完成した映像をご覧になっていると思いますが、はじめにこの完成品を見た時の気持ちというのはいかがでしたか?

森:
やはりうれしいですし、僕なりの達成感もありますが、やはり、ここまでちゃんと仕立ててくれた現場、クリエーターの方々に感謝です。結局、プロデューサーは自分で絵が描けないし、音楽も作れない。実作業はできないけれど、いい作品になるように座組みやスキーム周りをセッティングをしたつもりなので、素晴らしいクオリティのものが上がってくるとすごくうれしいです。……でも、それはプロデューサーの功績ということではなく、ちゃんとチームの目的が同じところに合っていたということですね。

G:
「イングレス」は「+Ultra」枠の第1弾ということもありますので、ぜひ皆さんに伝えておきたいという部分があれば教えてください。

森:
「+Ultra」という新しい枠を開くにあたって「他と違うアニメ体験」を目指してきて、それは見ていただくとすぐわかると思います。あの音楽、あの映像のクオリティは、見た瞬間に「これテレビのクオリティをちょっと超えてる」と思ってもらえると嬉しいですし、そう思ってもらえるものができていると思っています。是非ご期待ください!

G:
本日はありがとうございました。

森:
ありがとうございました。

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