取材

ゲームに欠かせないBGMを作るゲーム音楽作曲家とは一体どんな仕事なのか?

by Jonathan Chng

記憶に残るくらい大きなインパクトを受けたゲームのサウンドを聴くと、ゲームをプレイし終えて数カ月や数年が経過した時点であっても、ゲームの内容だけでなくプレイしていた際の感情や感動まで一気によみがえってくることがあります。そんなゲームを語る上で欠かせないゲームサウンドを作る作曲家さんたちが集まり、普段あまり語られることのないゲーム音楽作曲家ならではのエピソードを赤裸々に語ってくれるイベント「ノイジークロークPresentsゲーム音楽作曲家トークショウ」がマチ★アソビ vol.21の中で開催されました。

ノイジークロークPresentsゲーム音楽作曲家トークショウ - マチ★アソビ
http://www.machiasobi.com/events/noisy.html

イベントに登場したのは左から司会進行のノイジークロークのマネジメント部プロモーション担当・陣内優希さん、ノイジークローク代表取締役でゲーム「文豪とアルケミスト」やTVアニメ「殺戮の天使」などに楽曲を提供している坂本英城さん、代表作に「消滅都市」や「DanceDanceRevolution」の楽曲が挙げられる加藤浩義さん、そして特別ゲストとして「モンスターストライク」や「モンスターファーム5 サーカスキャラバン」の作曲家として知られる桑原理一郎さん。


ゲームは何度も何度も同じBGMが再生されることになるので、途中から音を聴くのを止めるようになる人もいるそうです。特に、スマートフォンゲームは街中や周囲に人が大勢いる中でプレイすることもあるので、マナーモードでプレイするという人も多い模様。そのため、ゲームサウンドは基本的に「音を聞きながらじゃないとゲームがクリアできない」というようなものを作ることがNGとされているそうですが、それでもより多くの人にゲームサウンドに興味を持ってもらいたい、ということで今回のイベントが企画されたようです。

◆ゲーム音楽作曲家になろうと思ったキッカケは?
というわけで、ここからはお題に沿ったテーマでゲーム音楽作曲家の3人に色んな質問がぶつけられていきます。最初のお題は「ゲーム作曲家になるきっかけは?」というもの。音楽を趣味でやっていても、作曲家になろうと思うことはまれなはずで、先にプレイヤーになりたいと感じる人の方が多いはず。さらに、ただの作曲家ではなく「ゲーム音楽の作曲家」になろうと考えた背景には一体どういったエピソードがあるのでしょうか。


坂本さんはゲーム音楽作曲家になろうと思ったキッカケとして「ドラクエ」を挙げています。元々4歳からピアノを習っていたという坂本さんですが、当時は男の子でピアノを弾くというのはなかなかレアなケースだったそうです。それでも学校の合唱コンクールなどで伴奏を担当していた模様。そんな中、坂本さんにとって大きなキッカケとなったのが、ファミコン&ドラクエの登場。めちゃくちゃ音楽が良いと評判で、実際にプレイした際に「こんな音が作りたい!」と思ったそうで、そこからゲーム音楽作曲家を目指すようになったとのこと。


桑原さんはゲーム音楽作曲家になるキッカケとして「小説映画DQ5」を挙げています。大学頃までは小説家になろうと考えていた桑原さんは、その当時発売されたばかりのドラゴンクエストV 天空の花嫁を寝る間もおしんで3日間セーブせずにぶっとおしでプレイしてクリアしたそうです。2日目の夜にどのキャラクターと結婚するかで6時間ほど悩み続けた思い出を明かし、それからゲーム音楽にはまり、「音楽をやるならゲーム音楽がやりたい」と考えるようになったとのこと。なので、桑原さんは大学院在学中からゲーム音楽を作成するようになったそうです。ただし、元々バイオリンが弾けたそうで、音楽についての基礎知識はしっかり身についている状態だったようです。


加藤さんは小学生の頃からゲームが大好きで、週6でゲーセンに通ったり、ゲーム筐体にウォークマンを当てて音を録音したりするくらいのゲームフリークだったそうです。しかし、高校生にもなるとゲームよりも音楽にのめり込むようになっていき、一時はゲームから遠ざかっていた時期があることを明かしています。大学卒業後はフリーランスで音楽を作っていたそうですが、自分の音楽の幅を広めたいと思い、ゲーム音楽に挑戦しようと考えたそうです。そこで「ゲーム音楽」でググってみたところ、ノイジークロークのHPが出ててきて、今にいたるとのこと。


◆ゲーム音楽を作曲する前に最初にもらう資料ってなに?
ゲーム音楽を作成する際に最初にもらう資料はやはり設定などに関するビジュアルだそうです。例えばRPGの場合、お城の景観を見て壮大な感じにするかどうかを決め、建物の高さがどれくらいあるかからビブラートをどれくらいかけるかを判断する、などの細かい判断が下されるそうです。


作曲する側として理想的なのはビジュアルとプロットが揃っている場合だそうですが、必ずしもそういうケースだけではなく、設定も何もそろっていない状態で「バトル用に20曲お願いします」という場合もあるそうです。そうなると曲がどんなバトルシーンで流れることになるかもわからないため、「敵がどんな大きさで、武器はどんなものを使うのか?」など、作曲家側からヒアリングしなければいけなくなるケースもある模様。

モンスターストライクのBGMを担当している桑原さんは、新しいステージが追加になるたびに曲を考えており、ついこの間は「和風の地獄」というお題で曲の作成を依頼されたそうです。そこで桑原さんは日本の伝統芸能である「能」をイメージして曲のイメージを固めていったことを明かしています。モンスターストライクの場合はストーリーが存在しないため、登場キャラクターのモチーフなどを参考にイメージを膨らませていくそうで、ステージの作成作業が少しでも進んだらすぐに「ビジュアルをください!」と要求するそうです。

加藤さんは消滅都市のBGMを担当した際、バトル曲を作成するための参考資料としてサラリーマンが名刺交換をしている絵が描かれたものを受け取ったそうです。これはゲームが完成してから考えると全くもって正しいものだとわかるそうですが、当時の加藤さんからすると「何だコレ?」となったそうです。ただし、注釈として「エレクトロで疾走感のある曲」と書かれていたため、ビジュアルはスルーして楽曲を作成したことを明かしています。


話の通りゲーム音楽にとってゲーム内のビジュアルはとても大事な要素ですが、作った曲に合わせてビジュアルを作成することになったというケースもあるため、そういう場合は本当に作曲家冥利に尽きるとのこと。

◆自分の作風の強みだなと思うところは?
坂本さんが作曲を担当した「文豪とアルケミスト」の場合、世界観監修およびシナリオ担当のイシイジロウさんからオファーが来ており、元々一緒に仕事をしたことがあったため、「好きにやって」と言われたそう。そんな坂本さんの作曲スタイルは移動中などにイメージを頭の中で膨らませ、鍵盤の前に座って一気に作り上げるというものだそうで、「文豪とアルケミスト」の場合は最初に提供した十数曲をわずか2日で作成したことを明かしています。坂本さんは基本的に「考えたらダメだと思っている」とのことで、無意識に出てくるフレーズなどを大事にしているそうです。


坂本さん自身は「自分がメロディメーカーだと思う」と自分の強みを分析しています。ゲーム音楽は基本的にリピートできるように作らなければいけないのですが、テンポを変えたり変調したりし過ぎると曲の頭部分に戻れなくなることがあるそうで、そこで苦労するケースはある模様。ただし、メロディを生み出すことに苦労することはそれほどなく、テンポを変えたり変調したりが自分の作風であると考えているそうです。これに対して、加藤さんはライブなどで坂本さんの曲を演奏するのが大変であると指摘。実際、坂本さんの楽曲は練習するのも覚えるのも普通の曲よりもはるかに時間がかかる、とぶっちゃけてくれました。

坂本さんが作曲した「文豪とアルケミスト」の楽曲はサウンドトラックがリリースされており、以下のムービーで全曲試聴することが可能です。

「文豪とアルケミスト 劇伴音樂集」全曲試聴ムービー - YouTube


加藤さんは元々ダンスミュージックが好きだったため、ダンスダンスレボリューションに提供したような音圧を大事にしたものを作成しているとのこと。また、1小節、2小節の短い音(リフレイン)を作るのが得意だねと消滅都市のプロデューサーに言われたそうです。そんな加藤さんが消滅都市向けに作曲した楽曲数は60曲ほど。以下のムービーで試聴できるようになっています。

「消滅都市 ORIGINAL SOUNDTRACK 2」全曲試聴ムービー - YouTube


なお、スマートフォン向けゲームはサウンドデータが多くなりがちなので、データをダウンロードするタイミングに気を配っているそうです。また、端末のスピーカーで流すと低音が聴きづらいだとか、低音がノイズになるというケースがあるため、あらかじめその部分をカットしてしまっている場合もあるそう。なので、サントラで聴くと同じ曲でもまた違った印象を抱くかもとのこと。


桑原さんは打ち込みメインで作曲していて、モンスターストライク向けには全部で30曲ほど作っているそうです。曲の長さは基本的に自由とのこと。そんな桑原さんはピアノの前などではなく、自転車に乗りながら作曲するという変わった人物。五線紙を持って自転車に乗り、良いフレーズを思いついたらそれをメモって……という形で作曲しているそうです。作曲したものは数日後に思い出すケースと全く思い出さないケースがあるそうで、思い出したフレーズが最初にメモしたものと全く同じだった場合、「これは自分が無意識で『もうこれに決めた』と考えているものだ」と考えて、そのまま曲にするケースが多いそうです。桑原さんは自身の作成した曲が「1度聴くと耳から離れない」と言われるケースが多いことを明かし、それは「自分自身も耳から離れなくなった曲をそのまま曲にしているから」ではないかと分析していました。

爆絶 ボスBGM〜BURNER BROTHERSアレンジバージョン〜【モンスト公式】 - YouTube


◆ゲーム音楽作曲家に大事なことは?
最後のテーマは、楽曲を作る上でそれぞれが大事にしていることについて。


桑原さんはゲーム音楽は遊ぶ人の気持ちに寄り添うようなものだと考えているとのことで、ゲームがどういうものであるかを自分たち(作曲家)が共感し、ユーザーが遊ぶ時にどんな気持ちになるかをイメージして作ることが大事だと語りました。

加藤さんも基本的に桑原さんと同じ気持ちだそうですが、あくまでゲームにおいて主役なのはゲーム自体なので、音楽が主役になりすぎないように、ある程度ゲーム側により沿うよう意識しているとのことです。

それに対して坂本さんは、もちろんゲームに寄り添うことも大事ではあるものの、あえて寄り添わないことも大切であるとしています。これはあえて自分に作曲を依頼してくるのだから、自分らしさやオリジナリティといった部分を大事にするべきなのでは、と考えているということだそうです。


なお、トークショウの中で坂本さんは「自分の曲の『弾いてみた』なんかは絶対に全部見てる」と豪語しており、自分の作った楽曲が演奏されることの喜びを語り、これに桑原さんも同意していました。また、そういった「弾いてみた系」は、自分より全然上手い人が演奏していたり、演奏が間違っているのにそっちの方がカッコイイアレンジになっていたりする場合もあるそうです

最後はこれまであまりマチ★アソビではゲーム音楽についてのイベントがなかったことを挙げ、今後はライブなども行っていきたいと考えていることを明かしてくれました。そして、これまでスマートフォンゲームの音楽を聴いていなかった人が聴くようになったり、ボリュームを上げるきっかけになったりしてくれればとのことです。

なお、マチ★アソビのグルメハント対象店舗の「だいきちカレー」では、イベントに参加した坂本さん&加藤さんの顔面がプリントされたポストカードがゲットできるとのことなので、気になる人はカレーを食べてゲットしてみてください。

徳島ポッポ街の『だいきちカレー』です。
グルメハントやってます。
ポストカードがなんと!
坂本さんの『顔』不気味・・・・
まったく人気有りません。
どうしましょう・・・・
利用方法として
魔よけ、厄払い、藁人形の代わり、
ダーツの的なんかを考えて
利用者に提案しています。 pic.twitter.com/BZQ7kqApWa

— だいきちカレー (@daikichicurry)

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in 取材,   動画,   ゲーム, Posted by logu_ii

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