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ネットにつながる「スマートデバイス」はどの程度ユーザーの生活を「監視」して情報をネットに送信しているのか?


話しかけるだけでさまざまな機能が利用できるスマートスピーカーや、ネット経由で自宅の鍵やエアコンの操作などが可能なスマートデバイスが人々の暮らしの中に次々に取り入れられるようになってきました。便利さの反面、その背後にある「ユーザーは監視されている」という忘れるべきではない側面について述べるTEDのプレゼンムービーが公開されています。

What your smart devices know (and share) about you | Kashmir Hill and Surya Mattu - YouTube


昨年の誕生日に、夫から「Amazon Echo」をプレゼントされてショックを受けたというカシミア・ヒル氏。ヒル氏と夫はテクノロジー業界でプライバシーとセキュリティの専門家として仕事をしており、そんな夫が妻へのプレゼントとしてAmazon Echoを選んだというのは、衝撃的な出来事だったようです。


しかし、リサーチ企業の調査によると、成人のアメリカ人の6人に1人がAmazon Echoのような「スマートスピーカー」を保有しているとのこと。つまりアメリカ人の多くが、常に周囲の音を聴き続けているデバイスを自宅の中心に置いているというわけです。

このようなインターネットにつながる「スマートデバイス」はAmazon Echoのようなデバイスにとどまらず、スマートライト(照明)やスマートロック(鍵)、スマートトイレ、スマートトイ(おもちゃ)、そしてスマートセックストイなど、さまざまなデバイスで「スマート化」が進んでいます。これらのスマートデバイスはアプリや音声操作を通じてインタラクティブに動作しますが、実際にはオーナー以外の誰かと「会話」することが通常です。


そこでヒル氏は、サンフランシスコにあるベッドルームが1つの小さな部屋を「スマートホーム」に仕立て上げて実際の様子を探ることにしたとのこと。その部屋ではベッドさえもスマート化されており、毎晩の睡眠の状況をモニタリングできるようになっているほどです。

ヒル氏はその部屋に、合計で18個ものスマートデバイスを導入。そしてそれらのデバイスが行っている通信をモニタリングするために、右側の男性スルヤ・マッツ氏が全てのインターネット通信をモニター可能な特別なルーターを設置しました。


その目的は、各デバイスが通信している内容を余すことなく把握することで、どのようなデータがネットの向こうにあるサーバーに送信されているのかを知るところにあります。調査期間は2カ月にわたり、その間には1週間丸ごと部屋を開けた期間もあったそうですが、全くデータ通信が行われない「デジタル・サイレンス」の時間は1時間たりとも発生しなかったとのこと。つまり、常に何らかのデバイスがインターネットにデータを送信し続けていたというわけです。

そのデータを分析すると、ヒル氏がいつ起きていつ歯を磨き、何時に家を出て何時に帰ってくるのか、という内容が全て浮き彫りになる状態になっていたそうです。また、いつテレビをつけてどのぐらいの時間見ていたのかなども全て明らかに。通常、ヒル氏の家ではほとんどテレビを見ることがないといいますが、唯一の例外はテレビ番組「Difficult People」や「Party Down」を見る時で、これらの番組を見る時には視聴時間がグンと長くなることもつまびらかにされています。


これは全て、テレビがインターネットのどこかのサーバーに向けて発信していたデータの中身から明らかになったもの。「スマートテレビ」はこのようなデータを常に取得して送信し続けていることがわかっており、2017年にはアメリカ連邦取引委員会がテレビメーカー「VIZIO」に対して220万ドル(約2億5000万円)の制裁金を課すという出来事も起こっています。

家中にあるスマートデバイスのうち、もっとも多くデータを送っていたのはAmazon Echoで、実に3分に1回の割合でデータのパケットを送信し続けているとのこと。これは、実際にAmazon Echoを使っていない時でも同じ状況です。


スマートデバイスを購入して使うということは「そのメーカーに自分のデータが送られる」ということは少なからず誰もが頭の片隅に置いているはずのこと。しかし、自分が最もくつろげるはずの自宅の中に、自分の行動データを取得してどこかに送信し続けるデバイスを置くということは、よく考えれば非常に奇妙な行動といえます。

取り立てて大したことがないと思われるデータでも、大量に集められて「ビッグデータ」の状態になることで、そこには別の意味が生じることとなります。例えば、「1日に歯を磨く回数」というデータはそれ自体は大したことがないかもしれませんが、保険会社「Beam」は2015年からスマート歯ブラシのデータを収集することで、保険契約者の保険料を割引く際の資料として活用しています。

これは、現代の「スマート社会」ならではのディール(取引)と考える人もいるかもしれません。自分のプライバシーを少し諦めることで、便利な機能や価格の割引きを受けられる、というギブアンドテイクの関係です。


しかしヒル氏にとっては、スマートホームは「便利で暮らしやすい家」ではなく「ストレスの多い家」となっているとのこと。あらゆる機器が電源を必要とするのでコンセントを占領し、スマートフォンにデバイスごとにアプリをダウンロードし、それぞれでログイン設定を行う必要があります。「スマート歯ブラシ」一つにも固有のパスワードを用意する必要があるというのは、実に手間がかかるものだとのこと。

また、手軽にコーヒーを淹れることができるはずのスマートコーヒーメーカーも手を煩わされるものだったそうです。Amazon Echoと連携して動作するスマートコーヒーメーカー「Behmor」を使っていたヒル氏は、単純に「Alexa、コーヒーを淹れて」という指示だけでコーヒーができあがるのかと思ったそうですが、実際にはきちんとした用語を使って「Alexa, ask Behmor to run quick start(Alexa、Behmorにクイックスタートを実行させるように指示して)」というふうに、まさにコマンドを使って命令するような作業が必要だったとのこと。このようなコマンド覚え、まだ起きたてで目が覚めていない状況で正確に指示するのは容易ではないとヒル氏は語ります。


しかも、ベッドサイドに置いてあるEcho Dotがうまく認識してくれないために、毎朝大きな声で話しかける必要があったとのこと。ヒル氏の夫はこれに見かねて「自分でキッチンまで行ってコーヒーメーカーのスイッチを入れたら良いじゃないか」と言ってしまったほどだそうです。

と、このエピソードは余談のようなものではありますが、家の中にあるスマートデバイスはさまざまな形でユーザーのデータを取得して送信します。ユーザーごとのプロファイルがスマートデバイスの数だけ作成され、各ユーザーがどのレベルの経済状況にあるのかが見極められます。Facebookが開発したこの技術は、特許も取得されています。


スマートデバイスがユーザーをトラッキングするという行為は、スマートフォンやPCでインターネットをブラウジングしている時に私たちの行動がトラッキングされているのと同じものです。スマートデバイスの場合、そのトラッキングの範囲がブラウジング中だけの時間から自宅でくつろいでいる時間や、ベッドルームで寝ている時にまで広がっているというわけです。

インターネットにつながる「スマートセックストイ」も同様。本来は距離を隔てたカップルがインターネットを介してお互いの愛を確かめ合うためのデバイスですが、ハッカーの調査により「いつ」「どこで」「何時から」「どのぐらいの時間」使用され、さらには「本体温度がどの程度上昇したか」というデータまでもがメーカーに送信されていたことが判明。「なぜそのようなセンシティブなデータを集めていたのか?」というヒル氏の問いに対してメーカーは「これは非常に重要なマーケットリサーチの一環です」と答えたとのことです。


これまで、FacebookなどのSNSは無料でサービスを利用できる代わりに、自分のデータが吸い上げられてマネタイズされてきました。しかし、スマートデバイスのようなIoTデバイスの場合は、自分がお金を出してその機器を手に入れていたとしても、自分のデータがメーカーのマネタイズに利用されるという状況が存在します。スマートデバイスでメリットを得ているのは、実際には誰なのかと言うことを考えることが大切です。

またヒル氏は、メーカー側にもユーザーのプライバシーに配慮したサービスを開発するよう求めています。インターネットを使う時に自分のデータが企業に利用されていることは既に多くの人が理解するに至っていますが、「カギ」や「掃除機」や「歯ブラシ」「セックストイ」などの機器がユーザーの行動を監視しているとよく理解している人は多くないはず。

スマートデバイスにはカメラが付いていないことが多いため、ユーザーは自分が「見られている」ということにあまり実感が持てないこともよくあります。スマートデバイスは「スピーカー」や「テレビ」、または「バイブレーター」のような姿でこっそりとユーザーの生活を監視し、データを送り続けているのです。

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in メモ,   ネットサービス,   ハードウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

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