サイエンス

「エネルギー源の変化により資本主義社会が大きく変化する」と研究者が予測

by Pixabay

国連から持続可能な開発についての調査を依頼されたフィンランドの生物物理学者らのグループが、「地球環境の変化によってエネルギー源の転換が起こり、地球の資源を搾取するこれまでの資本主義が変化するだろう」という研究レポート(PDF)を発表したとして話題になっています。

GOVERNANCE OF ECONOMIC TRANSITION
(PDF)https://bios.fi/bios-governance_of_economic_transition.pdf

Scientists Warn the UN of Capitalism's Imminent Demise - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/43pek3/scientists-warn-the-un-of-capitalisms-imminent-demise

地球環境の変化は人々の生活に大きな影響を与えると予測されており、海抜の低い地域の水没や異常気象といった災害をもたらすとされています。研究チームによれば、地球環境やエネルギー問題は物理的な問題に加え、世界の経済体制そのものにも深刻な影響を与えるとのこと。


レポートの中で研究者らは「人類史上初めて、資本主義は従来よりもエネルギー効率の悪いエネルギー抽出法にシフトしている」と述べており、人類の産業を保ち続けるためにエネルギー源からエネルギーを取り出すコストが、これまでよりも増大していると指摘しました。

ニューヨーク州立大学でシステム環境学を研究するCharles Hall教授とウェルズ・カレッジKent Klitgaard経済学教授は、「過去1世紀の間、人々は多くの石油を地中から地上へと押し上げてきました」と述べ、石油燃料は非常に高いエネルギー投資効率(EROI)を持つ優秀な燃料だったとしています。

by ben klocek

ところが、石油燃料のEROIは次第に悪化しており、石油を地上へ押し上げるコストも増大しています。同じ石油であっても全体のエネルギー産出コストが増加しており、大規模な気候変動を起こすような石油燃料の需要は次第に低下していくのではないかと研究者らは予測しているとのこと。

研究者らは、シェールオイル合成石油、液化バイオマス燃料といった非在来型石油や核エネルギー、風力や太陽光といった再生可能エネルギーによる発電は、今後石油に取って代わる新たなエネルギー源となるだろうと予測しています。一方で、石油エネルギーの利用は地球温暖化など地球環境への影響を考え、やがて禁止されるようになるかもしれません。

by Patrick Hoesly

再生可能エネルギーへの転換は、地球環境を保全するためには役立つかもしれません。一方で、再生可能なエネルギー源から石油ほど安価にエネルギーを生み出すことは将来的に考えても難しく、同量のエネルギーを産出するコストは増大するそうです。また、エネルギー源からエネルギーを抽出する過程で生産される廃棄物は、エネルギー源の利用量が増えれば増えるほど多くなります。つまり、エネルギー源の転換は同量のエネルギー産出に対する廃棄物量の増加をも意味します。

そこで問題になるのが、廃棄物が与える環境への影響です。ある程度までは廃棄物を無視することも可能ですが、やがて人間は廃棄物が環境や社会に与える悪影響を無視できなくなり、経済にも大きな影響を及ぼすと研究チームは考えているとのこと。そして、廃棄物を処理するためにはさらに惑星の資源を利用する必要があり、やがて地球の資源は枯渇してしまうかもしれません。

研究者らは「従来の経済モデルは経済のエネルギー的、資源的側面を完全に無視したものです。今後、資本主義経済がこれまで依拠してきたエネルギーや資源の状況は大きく変わっていき、激しい混乱が発生するでしょう。人間が利用可能なエネルギーが安く手に入る時代は終わります」と語っており、今後も一定のスピードで経済が成長していくという楽観的予測は危険だと警鐘を鳴らしています。

国連に提出されたレポートの作成に携わった、フィンランドのアールト大学で生物物理学と経済学の研究を行うPaavo Järvensivu氏は、「エネルギーコストが高くなったからといって、すぐに経済が崩壊するわけではありません。もちろん、人々はこれまでと同じような消費活動を継続することはできず、エネルギーも高価なものになるでしょうが、それが自動的に失業や悲惨な末路を意味するものではないのです」と話しました。

by Gilbert Mercier

研究者らは、人間が利用するエネルギー源がよりコストの高いものに移行したことで、従来の経済ツールボックスに答えがない、予測不可能なフェーズに移行したと述べています。経済の低成長が続けば国家の中央銀行は低金利もしくはマイナス金利政策を実行し、経済を破綻させないために公的負債を買い取っていくとのこと。しかし、政府や銀行が取れる措置が限界を迎えた後、どうなるのかは予測不能だとしています。

「やがて低EROIの時代が到来したときどうしたらいいのか?」という疑問に対し、科学者らは「従来の経済レベルを社会が維持することはできないという厳しい現実を、人々が受け入れる必要がある」と答えました。社会全体が必要とする総エネルギー量を削減するため、都市計画は公共交通機関や徒歩を基本としたものにし、社会の地域化を強めて輸送や食糧供給システムの見直しが必要になるそうです。また、新興国でも先進国でも食糧自給率を高め、エネルギーを必要とする食料生産や食糧の輸送に必要なコストを削減しなくてはなりません。

Järvensivu氏は、「低EROI時代の資本主義は、もはや私たちが想像しているような資本主義ではありません。経済活動は利益追求よりも環境コストを抑えるために行われ、できるだけ上質な生活を均等に供給するために集約されたものになるでしょう」としており、人々は経済的思考を変化させる必要があるかもしれないと語りました。

by Thomas8047

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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