サイエンス

「地球外生命は存在するのか?」というテーマを宇宙生物学と宇宙論の専門家が「地球という奇跡」を交えて語る

By Sashaza

私たちの地球が属する銀河系には1000億個ともいわれる星が存在しており、さらに宇宙全体では2兆個の銀河が存在しているともいわれています。その中には地球と同じような高度な知性を持った生命が存在しているかどうかが議論の的となっています。著書「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス」を記した学者のスティーヴン・ウェッブ氏は、「地球に人類が存在するのは奇跡中の奇跡」という視点から、宇宙における高度な生命の存在についてTEDで語っています。

Where are all the aliens? | Stephen Webb - YouTube


ウェッブ氏は9歳ぐらいの時にUFOを目にした経験があるそうです。家の上に浮かぶ銀色の円盤を見た時は興奮を隠しきれず、家の中にいる大人たちにそのことを伝えましたが、懐疑的な答えが返ってきたことにガッカリしたとのこと。その後、成人したウェッブ氏がパブでお酒を飲んでいると「UFOを見た!」という男性が現れたのですが、大人のウェッブ氏は男性に近寄って「今あなたが見たことを説明しましょう」と冷静に声をかけたそうです。


「人間の脳はだまされやすい」と語るウェッブ氏。UFOや宇宙人の情報が世の中には氾濫していますが、それは目から入った情報を脳が間違って解釈しているからであると述べています。


「宇宙人は存在するのか」というテーマについて多くの科学者と会話を行ってきたウェッブ氏ですが、その結果は「一致する意見は存在しない」というものだったとのこと。アメリカ人天文学者のフランク・ドレイク氏は1960年代に宇宙人からの電波を探す計画をスタートしましたが、2018年8月現在では何も見つかっていません。

宇宙には、無数の星が存在しています。そして、宇宙の年齢は138億歳といわれています。そんな無限の広がりを持つ宇宙において、人類以外の地球外生命が存在することには「4つの障壁」が存在するとウェッブ氏は述べています。

1つ目の障壁は「居住可能性(Habitability)」です。地球と同じタイプの生命が存在するためには、硬い地殻と液体の水が存在し、大気が適切な気温が保たれていることが不可欠です。この環境は惑星系の中心にある恒星から適度な範囲「ハビタブルゾーン」に惑星が存在する必要があります。


2016年、地球から4.2光年離れたところに存在する赤色矮(わい)星「プロキシマ・ケンタウリ」のハビタブルゾーンに惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が存在していることが確認されると、天文学界は大きな興奮に包まれました。

地球の近くに地球に似た環境を備えた生命が存在可能な惑星があると判明 - GIGAZINE


同様のハビタブルゾーンに存在する惑星は、2018年7月末時点で55個が確認されています。しかし、その全ての惑星が地球と同じ環境を備えているわけではないため、生命が存在するハードルは低くありません。。

2つ目の障壁は、非生物の物質から生命が誕生する「事前発生説」の真偽性です。地球に存在する生き物の基本的な構成は、宇宙における物質の組成と大きくかけ離れたものではありません。いくつかの彗星にはアミノ酸が存在し、星間塵雲には複雑な有機分子が、そして太陽系外系にも水が存在していることが知られています。

しかし、材料がそこにあるからといって、それらが必ずしも相互に働き合い、原始生物へと姿を変えていくとは限りません。ひとたび生物の進化が始まり、最終的に「ヒト」という生き物にまで進化を遂げたケースがこの地球には存在しますが、いくら材料がそろっていても何の出来事も起こらない世界も宇宙には存在しているはずです。


第3の障壁は、「技術文明の発展」です。いくら知性をもつ生命が存在しているとしても、それが必ず自分たち以外の生命を探すようになるとは限りません。

生命に関するさまざまな説の中には、「人類はすでに宇宙人と共存している」と考えるものもあります。2011年の調査によれば、ゾウは協力して問題を解決することができます。また、2010年の調査では監禁されているタコは人を見分けられるということも明らかにされています。さらに、2017年の研究ではカラスが将来の出来事を計画することができることもわかっています。これらのように、比較的高い知性をもつ生物が宇宙にいるとしても、彼らがロケットを打ち上げて他の惑星を目指すようになる確率は、必ずしも高いとは言い切れません。また、生命の進化の先には、必ずしも「宇宙旅行」という目標があるとは限りません。生命が存在するとしても、それは人類のような技術発展を成し遂げたものではなく、自分たちの惑星で完結する生き物であるという可能性も十分に存在します。

最後に、第4の障壁は「宇宙を超えたコミュニケーション能力」です。仮に、宇宙人が人類と同じような文明を築いていたとしても、その関心の向く先は「大気圏外」ではなく「大気圏内」にとどまっている可能性があります。また、他の生命体の存在を考えていたとしても、敵対的な宇宙人に遭遇するリスクをおかしたくないという考えを持っていることも考えられます。何らかの理由で他の世界とのコミュニケーションを避けている文明があっても、けっしておかしくはありません。


著書でも述べられているように、ウェッブ氏は「人類は宇宙で一人ぼっちである」という説を唱えています。「しかし、銀河系には1兆個も星があるのだから生命が存在してもおかしくないのでは?」という反論が予想されますが、ウェッブ氏はそれに対し、「見方によっては『1兆』が大きな数字かどうかはわかりません」と述べています。

これは、2000年にピータ・ワード氏とドン・ブラウンリー氏が提唱したレアアース仮説につながる考え方です。この仮説は、「宇宙の状況では、地球のような環境が作られるのは極めてまれ(=レア)である」とするもので、人類並の知的生命が出現する確率は極めて低いということが提唱されています。

その一例として、生まれたばかりの地球に火星ほどの大きさの天体「テイア」が衝突したことで月が生まれたという「ジャイアントインパクト説」が挙げられています。あくまで想像上の出来事ではあり、ジャイアントインパクトによって原始地球の地殻が吹き飛ばされ、宇宙空間に放出されたチリが再び合体して月が生まれたとする説の真偽性は別としても、月は地球の環境を整えるのに非常に大きな役割を果たしていると考えられています。


月の直径が現在のものよりも数km大きかっただけでも、地球の姿は現在と全く違っていたと考えられています。地球は月とのバランスの上で自転を行っているので、月の質量が変化すると地球の自転軸は現在のように安定したものではなく、激しくブレたものになっていたかもしれません。そうすると地球の環境は現在のような安定したものではなく、激しい変動を繰り返すものになっていたと考えられているとのことです。

ウェッブ氏によると、銀河に1兆個の惑星が含まれているとして、その中でハビタブルゾーンに位置して住みやすい環境を整えられる可能性がある星は10億個程度に絞り込まれるとのこと。さらに、生命の生息と進化に適した環境が整えられる星は100万個に絞り込まれます。さらにその中で、有機物が変化を繰り返して生命の起源となる星は1000個に。そこで誕生した単細胞生物が多細胞生物へと変化し、高度な機能を持つ生き物になる星は、わずか1個に限られるとウェッブ氏は語ります。


しかし話はここで終わりません。人類のように、道具が使えるようになった生物が誕生する星は、1000個ある銀河のなかで1個の惑星に絞り込まれます。そしてそこからさらに機械を発明し、他の星へと到達できるだけの技術を生み出すためには社会性を持つ生き物になる必要があります。抽象的な概念を説明して話し合い、ロケットを形にできるようになる生き物が存在する星は、ひょっとしたら10億個ある銀河の中で、わずかに1個しか存在していないかもしれないのです。

また、惑星にはさまざまな災害が降りかかることもあります。ユカタン半島に隕石が衝突して恐竜の時代が終わりを迎えたように、惑星には時として壊滅的なイベントが発生します。そのイベントを生き残り、生命が新たな進化を遂げるようになることは、奇跡中の奇跡といっても決して過言ではありません。このように考えると、ひょっとしたら地球は1兆個ある銀河のなかで、たった一つだけ多様な生命を育むことができた奇跡的な星だったかもしれないというわけです。


地球外生命体の存在を事実上否定する考え方を披露したウェッブ氏ですが、最後に「私は映画『スタートレック』と『禁断の惑星』を見て育ちました。そして私はUFOを見たことがあります。そのため、この宇宙は孤独であるという考え方は認めたくない気持ちがあります」と、どこか受け入れがたい、寂しさを感じさせる内容を語っています。

その上でウェッブ氏は、「私たちは、宇宙で起こるさまざまな壊滅的な出来事をクリアしてきた唯一の種、そして自分たちの運命を自ら決めることができる唯一の種です。私たちの惑星がいかに特別なのか、自分の家庭や他者のことを気にかけることがいかに重要なのか、宇宙の中で存在していることがいかに幸運なのかを理解することができれば、人類はもう少し長く生き続けることができるかもしれません。そして、私たちが宇宙人に対して抱いてきた夢の数々は、ひょっとしたら私たちが未来に成し遂げることなのかもしれません」と語ってプレゼンを締めくくっていました。


ウェッブ氏の著書「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス」は非常に興味深い内容ですが、それに加筆して内容を深めた「広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由」も知的好奇心を満たしてくれる興味深い一冊です。

広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由 | スティーヴン・ウェッブ |本 | 通販 | Amazon

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「宇宙人はいるのか?」についてグリニッジ天文台がアニメーションムービーで説明 - GIGAZINE

広い宇宙といえども知的生命体は人類だけかもしれないとの説 - GIGAZINE

「居住可能かもしれない太陽系外惑星」が一目でわかるオンラインカタログが公開中 - GIGAZINE

ブラックホールの向こう側など科学によって解明されるかもしれない20の疑問 - GIGAZINE

光速の20%の速さで飛ぶ小型探査機計画「ブレイクスルー・スターショット」が直面せざるを得ない危険とは? - GIGAZINE

宇宙が終焉を迎える時に唯一残される天体「白色矮星」および「黒色矮星」とは? - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.