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なぜ「2カ国語を話す」ことは頭の回転を速くし脳を若いままで保つと言われるのか?

by Porapak Apichodilok

これまでの科学研究の結果、母国語以外の言葉を話すバイリンガル(2言語話者)やマルチリンガル(多言語話者)は認知能力が高くなり、多言語を勉強することで認知症防止にもつながるといわれています。「異なる言語を話すことで世界の世界の認識方法が変わる」「バイリンガルの脳は1つの言語のみを習得しているモノリンガルとは明白に異なる」など、複数の言語を使うことが人にどう影響を与えるのかを、ジャーナリストのGaia Vince氏が記しています。

Science suggests bilingualism helps keep our brains smart, agile and young — Quartz
https://qz.com/753528/science-suggests-bilingualism-helps-keep-our-brains-mentally-fit/

19世紀の帝国主義において、自国の言語以外の言葉を話すことは背信的だと考えられていたため、イギリスを中心としたヨーロッパやアメリカでは子どもをバイリンガルに育てることは「健康や社会に悪影響」を及ぼすと考えられていました。2つの言語によって混乱させられた子どもは知能や自尊心が低くなり、常軌を逸した行動を取るようになり、統合失調症になるとも言われていたとのこと。そしてこのような考えは比較的最近になるまで続きました。

しかし、科学研究によって言語についての理解が進むことで、「多言語を話すこと」が人に与える影響の数々が明らかになり、この考えは覆されていきます。

例えばランカスター大学で心理言語学やバイリンガルの認知について研究を行うPanos Athanasopoulos博士が行った実験の1つで、英語話者とドイツ語話者に人々が動くムービーを見せ、それについて説明してもらうというものがあります。このとき、英語話者は「動き」に注目して「女性が歩いている」というような説明をするのに対し、ドイツ語話者はより全体的に光景を捉えて「女性が車に向かって歩いている」と答える傾向にあったとのこと。

by Gaelle Marcel Follow Message

同様の実験結果はは1960年代にも報告されていました。心理言語学のパイオニアの1人であるスーザン・アービン・トリップ氏は、日本語と英語のバイリンガルである女性に、それぞれの言語で文章を完成させるよう指示するという実験を行いました。この結果、「もし私の望みが家族と相いれなかった時」に続く文章は、日本語だと「とても悲しい時間になる」と続くのに対し、英語だと「私はやりたいことをやる」になるといった違いがみられたそうです。

このような実験から、トリップ氏は「人の考えは言語による思考の中で作られる」と結論づけています。

by rawpixel.com

この考え方に従うと、バイリンガルは、異なる性格や考え方を複数持っているということになります。事実、多言語を話す人は、「話す言語が異なると、異なる人間になっている気分になる」と報告することも。異なる考え方や性格は1人の人間の中で衝突するように思えますが、しかし、バイリンガルの脳は混乱を引き起こすのではなく、使用する言語を選り分けることが可能です。それどころか、過去数十年間に行われてきた研究で、バイリンガルは1つの言語しか使わない人に比べて、認知タスクや社会タスクで高いパフォーマンスを発揮し、共感力も高いことがわかっています。

これは、バイリンガルが持つ「前帯状皮質(ACC)」という脳の領域が発達しているためだとみられています。ACCは前頭葉に位置し、「1つの物事に集中するため、それ以外の情報をブロックすること」「混乱せずに集中タスクを切り替えること」などを可能にする「集中力の道具箱」のような部分とのこと。

by jesse orrico

神経心理学者であるサン・ラファーレ大学のJubin Abutalebi氏は「2カ国語を話す人と1カ国語だけを話す人の脳は脳スキャンの画像を見るだけで簡単に見分けることができる」と主張しています。Abutalebi氏は「バイリンガル々は1カ国語しか話さない人よりも前帯状皮質の灰白質がずっと多いのです」と語っています。ACCは筋肉のようなもので、使えば使うほど強く、大きく、柔軟になっていくとのこと。

バイリンガルは常に頭の中で2つの言語が集中力を競い合っているため、ACCが発達する傾向にあります。バイリンガルの脳をスキャンした研究では、バイリンガルが1つの言語で話そうとするとき、もう1つの言語を使おうとする衝動をACCが抑制していること、そして目的の言語をいつ・どのように使うのかという意志決定が絶えず行われていることが示されました。

このため、例えば「母国語はポーランド語だけど妻がスペイン人なのでスペイン語も話す、でも日常的には英語を使う」という人は、英語で妻と話している時に間違ってスペイン語の単語を出してしまうことはあっても、ポーランド語の単語を出してしまうことはないといいます。また、男性が義理の母親とスペイン語で話している時に、義理の母が理解しない英語が間違って口をつくこともないとのこと。本人は無意識でも、ACCが絶えず働いているために、相手が理解しない言語を間違って言ってしまうことがないわけです。

2カ国語を話すことが脳によい影響を与えることは上記の通りですが、興味深いのは、この効果は高齢になった時にも発揮されること。

by Cristian Newman

ヨーク大学の心理言語学者であるEllen Bialystok氏は高齢のバイリンガル・モノリンガルの脳を比較した結果、「病気の進行具合が同じでも、バイリンガルはモノリンガルの人に比べて症状が現れる時期が4~5年遅い」ということを報告しています。この理由についてBialystok氏は、バイリンガルは灰白質が発達しているため、脳がダメージを受けてもそれを補い、別の経路を作ることが可能であるためだと考えられています。ただし、このような差異は「どのくらいの頻度で2カ国語を使用するか」で変わってくるとのこと。「子どもの時に学校で少しフランス語を勉強した」だけではあまり効果がないかもしれませんが、複数の言葉を使えば使うほど効果は大きくなっていくそうです。

このほか、脳卒中の生存者608人を対象に行った調査で、バイリンガルはモノリンガルの人に比べて正常な認知能力を持っている人の数が約2倍だったことをBialystok氏は発見しています。

ただし、近年はこのような「バイリンガルのもたらす利益」について懐疑的な意見もあります。「2カ国語を話すことがACCを活性化する」という研究の再実験に失敗したという報告があるほか、ACCの活性化が日常レベルで利益をもたらすという考えに疑問を呈している人も。

Bialystok氏は、「複数の要素が入り交じるため、2カ国語を話すことによって『子どもが学校の試験でいい点数をとれるようになるか』を調査することは不可能」としつつも、「他国の言語を知ることは社会的・文化的なメリットが多くあり、これまでにバイリンガルであることが子どもたちのパフォーマンスを低下させるという研究結果がないことからも、多言語を使うことは推奨すべき」だと述べています。

by Ben White

既に学校を卒業している人であっても、母国語と別の言葉を学ぶことに「遅すぎる」ということはありません。15カ国語を話すAlex Rawlings氏は、「新しい言語はあなたに全く新しいライフスタイル、全く新しい意味合いを教えてくれます。中毒してしまうほどに」「新しい言語を学ぶことは大人にとって難しすぎる、と言われますが、8歳以上なら赤ん坊よりもずっと簡単に学べます。赤ん坊は言葉を学ぶのに3年を費やしますが、大人なら数カ月で学ぶことが可能ですから」と語りました。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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