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オーケストラの指揮者は舞台の上で一体何をやっているのか?


オーケストラ・吹奏楽・合唱など、複数のパートが1つの曲を合奏する場合、指揮者が必要となります。一見すると指揮者は舞台の上でリズムに合わせて棒を振っているだけですが、指揮者は楽団を代表する存在と見なされることが多く、演奏の評価が指揮者に対する評価に直結することも。オーケストラの指揮者が舞台の上で何をしているのかをVoxが解説しています。

What a conductor actually does on stage - YouTube


解説してくれるジェームズ・ガフィガン氏は、2018年7月時点でルツェルン交響楽団の首席指揮者・オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者を務めるプロの指揮者です。


指揮者は右手に持った棒をリズムに合わせて振っているわけではなく、音楽が始まる前にあらかじめ楽団員に表現したいことを指揮で伝えています。例えば、静かに演奏するところは落ち着いて、おだやかに指揮棒を振ります。


一方、ここぞという場面では、身振りも大きく激しいものとなります。


指揮で重要なのは、指揮棒を握る右手だけではありません。左手の表情でさまざまな楽器の動きを誘導したり、けん制することもあります。


指揮でもっとも重要なのは、右手の動きです。右手はリズムや拍子を表現します。


指揮はただ棒を型に合わせて振ればいいというものではありません。叩き・しゃくい・平均運動など、右手の動きとスピードによってさまざまな表現が存在します。また、右手の軌道は拍子によって大きく変わります。ムービーでは、ガフィガン氏は見本として4分の4拍子を振っていました。


さらに4分の2拍子も振っていましたが、その動きは4分の4拍子と異なります。指揮棒の動きだけではなく、右手の振りのサイズや加速度を変化させることで、指揮者は拍子を自由に表現できます。


指揮棒を持つ右手は楽団員にテンポを伝えるための部分なので、指揮を振るときは、肘から指揮棒の先までをまっすぐに保つ必要があります。もし腕と手首を同時に動かしながらぐにゃぐにゃと振ってしまうと、指揮棒・手首・腕のどの動きがテンポを示しているのか、演奏者がわからなくなってしまいます。


基本的に右腕をまっすぐ使うことで、手首だけを使って小さい振りや細かい表現の要求がはじめて可能になります。


右手がテンポと拍子を担当する一方で、左手には右手による指揮を補助する役割があります。


例えば、バイオリン・ビオラ・チェロ・コントラバスなどへ、弦楽器のボウイング(弓運び)を指示することが可能です。弓を動かす速度や弓にかける力を変化させることで、弦楽器の出す音量や音圧を調整することができます。


弦楽器奏者はオーケストラの中でも最も指揮者に近い位置にいるため、最も指揮者の動きに機敏に反応します。指揮者は右手と左手の動きや位置関係で弦楽器パートの表情を自由に操作することができます。


また、左手には他にも打楽器パートへはっきりと指示する役目があります。打楽器は一瞬に1つの音符しか出せないので、指揮者が明確にタイミングを示す必要があります。


また、金管楽器の繊細な響きを引き出すためにも左手は多く活用されます。左手もうまく活用することによって、指揮者はテンポだけではなく音楽的に意図していることを演奏者へ巧みに伝えることができるというわけです。


指揮者によってその指揮スタイルは大きく異なります。例えば、19世紀末~20世紀初頭に活躍し、10曲以上の交響曲を発表したグスタフ・マーラーは、作曲家だけではなく指揮者としてもトップクラスの存在でした。


長い手足を生かした勇猛な指揮棒さばき、大胆なテンポ変化と情緒の表現、徹底した完ぺき主義は、当時の音楽シーンに大きな衝撃を与え、高い評価を得ました。マーラーの指揮法や考え方は現代にも引き継がれています。


一方、マーラーより4つ年下で、同じ作曲家兼指揮者としてライバル的存在だったというリヒャルト・シュトラウスは、マーラーとは対照的にシンプルで主張を抑えた指揮スタイルで知られていました。このように、テンポを取るだけのように思える指揮者でも人によってそのスタイルは大きく異なります。


さらに、ガフィガン氏は、20世紀を代表する指揮者の一人であるレナード・バーンスタインを例に挙げています。


バーンスタインは国際的な指揮者として有名だっただけではなく、ミュージカル「ウエスト・サイド物語」や映画「波止場」の音楽など、作曲家としても高い評価を得ていました。


また、バーンスタインはピアニストとしても有名で、ジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」を、ピアノを弾きながら指揮をした演奏は名演として語り継がれています。


そんな彼の指揮はきわめて情熱的で、豊かな表情と体全体を使った大胆な指揮が特徴。テンションが上がると舞台でジャンプをすることもありました。


バーンスタインのライバルといわれ、楽壇の帝王とも称されたのがヘルベルト・フォン・カラヤンです。世界最高峰と名高いベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の終身指揮者を務め、20世紀で最も偉大な指揮者の一人といっても過言ではありません。


カラヤンはバーンスタインとは対称的に、演奏のほとんどで目を閉じ、やや前傾姿勢で静かに指揮をすることで知られていました。大げさな身振りを多用するようなオーバーな指揮を好まず、必要最小限の動きだけで重厚な演奏を楽団から引き出す指揮に定評がありました。カラヤンが指揮を務めた演奏の録音は「決定盤」と呼ばれるほど評価が高いものが多く、カラヤンが亡くなってから30年近く経つ今もなお多くのファンが存在します。


カルロス・クライバーもまた世界的にも高い評価を受けた指揮者です。クライバーは本番前に作品を徹底的に研究し、他の演奏家の録音を聞き比べてその解釈をチェックし、楽団員にも細かく入念な練習を何度も行うという繊細かつ厳密な姿勢で知られていました。


しかし本番では、そんなストイックさを一切感じさせないような、流麗な指揮スタイルを披露していました。クライバーの指揮は美しく流れるようなジェスチャーが多く、なんでもないような旋律にも物語性を持たせることができました。


「私たちは聴衆を音楽で楽しませなければなりません。聴衆には、指揮者の動きではなく、音楽に集中してもらうことが重要です」というガフィガン氏のコメントでムービーは終わります。

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in Posted by log1i_yk

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