サイエンス

ドライクリーニングとは何なのか?

by averie woodard

油脂系の汚れが落ちやすく、伸縮などが生じにくいため衣服へのダメージも少なくて済むという「ドライクリーニング」は、一体どのようなクリーニング方法なのかを科学系メディアのLive Scienceが記しています。

What Is Dry Cleaning?
https://www.livescience.com/63089-dry-cleaning.html

水は羊毛や皮革、そして絹などの特定の布を傷つける可能性があり、洗濯機を使用すればレースやスパンコールなどの繊細な飾りは壊れてしまうことがあります。そういった家庭の洗濯機では適切に洗濯できない、という場合に利用されるのがドライクリーニングです。ドライクリーニングは洗濯の際に水の代わりに別の液体を使用するという洗濯方法で、その名前から想像されるように「乾いたまま・ぬらさずに洗濯する」というわけではありません。

by Ian Valerio

◆ドライクリーニングで使用される溶剤
ドライクリーニングでは、布を洗浄するためにさまざまな溶剤を使用します。ドライクリーニングが登場したばかりの頃は、溶剤にガソリン・灯油・ベンゼン・テルペンチン・石油などが含まれていたそうです。しかし、ドライクリーニング技術の支援を行う団体のState Coalition for Remediation of Drycleaners(SCRD)によると、2018年時点でも広く使用されているテトラクロロエチレンデカメチルシクロペンタシロキサンといった合成不燃性溶剤は、1930年代に開発されたあとも、現代まで長く使用されている溶剤です。

(PDF)ドライクリーニングで使用される化学物質」という報告書によると、テトラクロロエチレンのようなドライクリーニングで溶剤として使用される化学物質は、「水溶性の汚れの除去を助けるための液体としての作用」「布から除去されたあとの汚れを懸濁させ、再び布に吸収されないようにする作用」「洗剤が染みを取り除くことができるように、布に浸透するためのしみ抜き剤としての作用」の3つが求められるそうです。

◆ドライクリーニングのプロセス
衣類ケア専門家のための国際貿易協会であるDrycleaning&Laundry Institute(DLI)によると、ドライクリーニングで使用される機械は4つの要素で構成されているそうです。その要素というのは「溶剤を保持するためのタンク」「溶剤を循環させるためのポンプ」「不純物を取り除き、溶剤や布を汚れから守るためのフィルター」「洗浄されているアイテムが入るための円筒状のスペース」の4つ。

ドライクリーニング中はポンプがタンクから溶剤を引き出し、フィルターを通して溶剤の中から不純物が除去されます。フィルターを通すことでろ過された溶剤は、円筒の中に注がれ、ここで布から汚れを除去する役割を担います。その後、溶剤はタンクに戻り、同じプロセスが循環するとのこと。


アイテムの洗浄が終了すると、機械は過剰な溶剤を除去し、洗濯物が入っている円筒を家庭用洗濯機のように回転させます。このプロセスが終了したあと、衣類は同じ機械の中で乾燥されるか、別の機械を用いて乾燥されることとなるそうです。なお、余った溶剤は集めてろ過し、保持タンクに戻されることとなります。

◆ドライクリーニングの歴史
そんなドライクリーニングの歴史は、なんと古代にまでさかのぼることとなります。ヴェスヴィオ山の噴火により破壊されてしまったポンペイの遺跡では、繊細なアイテムを洗うための方法が記されていました。ポンペイが栄えていた頃、都市には「fuller」と呼ばれるプロの衣類洗浄士がおり、アンモニアやフラー土などの汚れや汗を吸収するのに優れた溶剤を用い、ウールなどの繊細な衣服を洗っていたそうで、これがまさに初期のドライクリーニングであると考えられています。

DLIによれば、現代のドライクリーニングが誕生するきっかけとなったのは、「不器用なメイドがテーブルクロス上に灯油をこぼしたこと」だそうです。テーブルクロスにこぼれた灯油はすぐに蒸発し、その部分だけがとてもきれいになっていたそうで、これをきっかけに多くの人々が灯油などの化学物質を用いた実験を行うようになり、脂っこい汚れを落とすのに適した溶剤が何かを研究するようになったとのこと。SCRDによると、この時に溶剤として実験された物質には、テルペンチン精油・灯油・石油系液体・ガソリン・樟脳油などがあるそうです。

Handbook of Solvents」という溶剤についての書籍によると、商業用のドライクリーニングで最初に成功したのは、1825年にフランス・パリでオープンした「Jolly-Belin」という店舗です。パリは当時からファッションが社会の重要な一部とみなされていたため、ドライクリーニングが市民に受け入れられやすい土壌があったと考えられます。

これとほぼ同時期にアメリカでも最初のドライクリーニング店舗が誕生しています。「アメリカの仕立屋の父」と言われるトーマス・ジェニングスが、1821年に伝統的な掃除方法では痛めつけてしまう衣服を清掃するための「乾燥除去」という方法で、アメリカで初めて特許を取得したアフリカ系アメリカ人となりました。ジェニングスはこの特許を用い、本業の仕立屋とドライクリーニング事業でニューヨークで大きな成功をおさめます。

by Michael Hicks

当時使用されていた石油系溶剤は、可燃性であるため代替案が求められていました。マイケル・ファラデーは1821年にはじめてテトラクロロエチレンを合成しましたが、ドライクリーニングの溶剤としてテトラクロロエチレンが開発されたのは1930年代前半でした。その後、第二次世界大戦中に石油が不足したことで石油系溶剤の代替品としてテトラクロロエチレンが人気を博するようになります。

◆環境と健康への懸念
ドライクリーニングで頻繁に用いられるテトラクロロエチレンですが、健康と環境の両方にリスクのある物質であることが知られています。労働安全衛生総合研究所(OSHA)によると、ドライクリーニング店で働く従業員はテトラクロロエチレンと接触することで、健康上の合併症を発症するリスクが高まるそうです。これは従業員が汚れた衣服を機械に詰め込み、乾燥後の衣服を取り込んだり機械のフィルターを交換したりする際に、機械から立ちこめるテトラクロロエチレンの蒸気にさらされるためだそうです。

定期的にテトラクロロエチレンにさらされる従業員は、特定の種類のがんを発症するリスクが高くなるそうです。アメリカ国立医学図書館に提出された論文によると、長期にわたりテトラクロロエチレンにさらされると、食道・子宮頸部・膀胱に多発性骨髄腫および非ホジキンリンパ腫といった症状が発症しやすくなる可能性が指摘されています。また、中枢神経系や肝臓、腎臓および肺への損傷にもつながるとのこと。別の研究では、溶剤としてテトラクロロエチレンを使用している場合、それにさらされることで膀胱がんを発症するケースが非常に高くなることも指摘されています。そのほか、テトラクロロエチレンが男女の生殖器系に影響を及ぼし、精子構造の変化や妊孕性(妊娠する力)の低下を招く可能性についても調べられています。

by freestocks.org

さらに、ドライクリーニングは環境に悪影響を及ぼすことも指摘されています。ドライクリーニング施設の近隣では空気・水・土壌中に有害物質や病害虫が放出される可能性が示唆されています。

◆ドライクリーニングの未来
市場調査会社・IBISWorldの調査によると、2017年時点でアメリカには3万6000店ものドライクリーニングの店舗が存在するとのこと。しかし、いくつかの情報源によるとアメリカでは多くの地域でドライクリーニングの店舗が潰れているそうです。これには土地代の高騰やファストファッションの台頭などさまざまなものが挙げられています。加えて、ドライクリーニング店の多くが家族経営の小さな企業であることも指摘されており、後継者が見つからずに店が潰れるというケースが多いことも示唆されています。

この他、カリフォルニア州ではドライクリーニングでのテトラクロロエチレンの使用が段階的に廃止されているため、ドライクリーニング業界の先行きは明るいとは言えない状況のようです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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