メモ

関税を1990年の水準まで引き上げると2060年までのGDP成長率が14%低下する

by Indi Samarajiva

関税とは、国境や特定の地域を通過する物品に対して課される税金のことで、21世紀時点では主に国境を物品が超える際に課される国境関税のことを指します。2018年における関税は1990年よりも世界的に低くなっていますが、「もし関税を1990年の水準まで引き上げた場合、2060年までのGDP成長率が14%低下する」という予測を経済協力開発機構(OECD)が発表しました。

The Long View: Scenarios for the world economy to 2060 - OECD
http://www.oecd.org/economy/growth/scenarios-for-the-world-economy-to-2060.htm

What higher tariffs could mean for economic growth — Quartz
https://qz.com/1329031/what-higher-tariffs-could-mean-for-economic-growth/

近年は経済のグローバル化に伴って関税は軽減される方向に進んでおり、EU域内では関税が廃止されているほか、各国が個別に結んだ自由貿易協定などで関税がかからない国や物品なども指定されています。ところがドイツにおいてベルリンの壁が崩壊した直後で、中国が現在のような経済大国に成長していなかった1990年の時点では、関税は今よりも非常に高く設定されていました。


1990年の裕福な先進国における関税率は平均約5%ほどで、インド・中国・ブラジル・ロシアといった新興国では、関税率が平均約28%ほどに設定されていました。世界的に関税が大幅に引き下げられた2018年の時点では、先進国における関税率は平均約2%を下回り、発展途上国においても5%程度になっているとのこと。

関税は次第に引き下げられる方向で推移していましたが、近年ではアメリカと中国の間で貿易摩擦が発生するなど、貿易にまつわる不平等が大きく取り沙汰されています。他国との貿易で発生する不平等を解消するべく、関税を大幅に引き上げようという主張もされている中、OECDは「もし関税率が1990年の水準にまで引き下げられた場合、どのような事態が発生するのか?」というシミュレーションを行いました。

by Alexander Rabb

シミュレーションでは一気に関税率が1990年の水準まで引き上がる、という非現実的な仮定ではなく、2020年から2030年にかけて段階的に関税率が上がったという仮定で検証を行いました。また、地政学的リスクや投資家の意欲減少といった不確定な事象については、考慮していないとのこと。その結果、関税が2018年の水準で推移すれば2020年から2060年までに、世界のGDPは2倍になると考えられていましたが、関税が1990年の水準に戻ればGDPの成長率は14%低下すると予測されました。

関税率の上昇は、そのまま物品の輸送コストが1990年と同様の水準になるということを意味しません。1990年と比較すると2015年の物品輸送コストは、25%も低下しているとのこと。よって、世界の貿易が一気に大打撃を受けるという事態にまでは発展せず、なんとか14%のGDP成長率低下で被害は食い止められるとOECDは考えています。

関税率の上昇で特に大きなダメージを受けると予測されているのが、インド・オーストラリア・中国の3カ国。インドと中国は関税率上昇のあおりを受け、貿易による収益が減少すると見込まれています。オーストラリアは最も主要な取引国である中国の景気後退に影響される形で、資源の輸出量が減少してGDPが落ち込んでしまうとの予測。なお、中国の下に韓国・インドネシア・ブラジル・日本と続いており、日本もGDP成長率が7.6%低下すると予測されました。


当然ながら、今回の仮定のように世界的に関税率が1990年の水準にまで引き上がる、という事態が起こる可能性はほぼないとのこと。たとえアメリカと中国の貿易戦争が激しくなり、アメリカが中国から輸入する物品に対して関税率を大幅に引き上げたとしても、他の国々までアメリカ同様の水準に引き上げるとは考えづらいためです。たとえ中国とアメリカの関係が悪化しても、中国はEUや他の国々と協定を結び、特定の物品に関して関税率を低下させる話し合いができます。

一方でOECDによれば、低い関税率によって生じる最大の利益は、物品の貿易によって直接発生する利益ではなく、貿易の増加に伴う知識の移転だとのこと。例えば、近年になって経済成長を遂げているバングラデシュでは、韓国との衣類貿易に従事したバングラデシュ人がノウハウを学び、衣類の製造業に乗り出したことが大きな要因とされています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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