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ゲームの開発者はゲームの中毒性に対して法的責任を負わなければならないのか?


2018年6月に世界保健機関(WHO)が、ケガや病気を分類する国際的なガイドライン「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」の第11版(ICD-11)で、日常生活に支障が出るほどゲームに夢中になってしまう「ゲーム障害」を新しい病気として追加しました。ゲームに中毒性が認められた場合、ゲームの製作者やアプリの開発者に法的責任が問われるのか、インターネットやゲーム業界の法律的な問題を扱うブログInternet&Social Media Law Blogで弁護士のアリソン・セリック氏が言及しています。

If Videogames and Apps Are Addictive, Should Designers Worry about Liability?
https://www.socialgameslaw.com/2018/07/videogames-apps-legal-liability.html


ICD-11は世界中の臨床医が病状を診断するための国際的な基準であり、そこに「ゲーム障害」が記載されることで、病院でゲーム障害を診断されることもあり得ることになります。アメリカ精神医学界は「ゲーム障害は精神障害とみなすには十分なデータがない」とWHOの決定を批判していて、ゲームの中毒性を疑問視する声も少なくありません。


同じく中毒性を指摘されているものにたばこがあります。喫煙は20世紀中頃まで習慣性があるとは考えられておらず、ニコチンはドラッグと見なされてはいませんでした。しかし1990年代に入って、医療界はニコチンが依存性を誘因する物質であり、喫煙がさまざまな病気の原因になることを認めました。また、ニコチンを法的に「薬物」とみなす判例も登場したため、たばこに対する規制が強化されました。

1991年、たばこのキャメルのプロモーションで人気を博していたマスコットのジョー・キャメルが子どもへの喫煙を促しているという主張がアメリカ医師会から挙がりました。実際に未成年者が不法に喫煙しているたばこの32.8%がキャメルだったというデータも登場し、多くの裁判や議論を重ねた結果、RJレイノルズ・タバコ・カンパニーはジョー・キャメルのキャンペーンを自主的に終了すると発表しました。

by A.Currell

アメリカでは、「子どもたちが自分が何をしているのかを常に把握しているとは限らず、そのことを非難することはできない」という判例が存在します。大人が「ゲームをすることに健康上のリスクが伴う」と把握した上でプレイしていても、子どもはリスクを全く把握しないまま遊ぶ可能性があるため、ゲームの制作者や開発者はそのことを念頭に置かなければなりません。タバコの外箱に肺がんのリスクが書かれるようになったのと同じように、ゲームの中やパッケージに「ゲームには潜在的に中毒性があります」という警告メッセージを子どもや親に向けて提示するのが賢明といえるかもしれないとセリック氏は述べています。

さらにセリック氏は、テレビゲームとギャンブルを比較しています。タバコは喫煙者の67.5%にニコチン中毒を引き起こすと明確なデータが示されている一方で、ギャンブルやテレビゲームは中毒に関する明確なデータが提示されていません。喫煙は肺がんや心筋梗塞など具体的な病気と結びつけられていますが、ギャンブルやテレビゲームは「学業や仕事に支障が出る」というもので、そのどちらも中毒性が今ひとつはっきりしていません。

ギャンブル中毒の場合、カジノは法的責任を追うべきなのでしょうか。2010年、ギャンブラーがカジノからお金を借りる形で用意した12万5000ドル(約1400万円)を全てすってしまい、一文無しになったギャンブラーはお金を返すことができなくなりました。カジノ側はギャンブラーを訴えましたが、対するギャンブラーは「カジノは自分が病的なギャンブラーであることを知っていて、利益のためにギャンブル中毒を利用した」と反論し対立。インディアナ州最高裁判所は、ギャンブラーの訴えを退け、カジノがギャンブル中毒になった人に法的責任を負うべきなのかと疑問を呈しました。


ただし、老若男女が楽しめるゲームと違い、ギャンブルは大人相手の娯楽であり、子どもはカジノに入場することはできません。また、ゲームに比べるとギャンブルはかなり厳しく規制がかかっているのも大きな違いです。ギャンブルの場合はカジノに対して法的責任を求めない判例が出ていますが、ゲームの場合は「ゲーム障害」という診断を子どもが受ける可能性もあり、ギャンブルよりも厳しい判断が下されることも考えられるとセリック氏は推測しています。

過去の判例を見ると、必ずしもゲーム障害の法的責任をゲームの制作者やアプリの開発者が負わなければならないというわけではありません。しかし、ゲームは大人だけではなく子どもも遊ぶものという前提がある以上、裁判の結果、何億円もの賠償金の支払い命令が出たり、議会から厳しい規制をかけられる可能性も十分考えられます。そのため、ゲームの制作者やアプリの開発者はゲーム障害から起こり得るトラブルに対してこれまで以上に注意深くあるべきだと、セリック氏は主張しています。

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in メモ,   ゲーム, Posted by log1i_yk

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