サイエンス

MITが10億分の1メートル単位で立体的な「切り紙」を作成することに成功


マサチューセッツ工科大学(MIT)と中国の科学者の共同チームが、ナノメートル(10億分の1メートル)単位の素材に、集束イオンビームを用いて切り込みを入れることで精巧な「切り紙」を再現することに成功しました。

Kirigami-inspired technique manipulates light at the nanoscale | MIT News
http://news.mit.edu/2018/kirigami-inspired-technique-manipulates-light-nanoscale-0706


Nano-kirigami with giant optical chirality | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/4/7/eaat4436


MITの機械工学科のニコラス・X・ファン教授は、中国科学アカデミーや南中国工科大学の研究者との共同研究で、マイクロチップ製造技術に用いる集束イオンビームを用いて、数十ナノメートルという薄さの金属片に切り込みを正確に入れることで、複雑な三次元の形状を作成することに成功しました。これまでの研究では、切り紙構造をナノスケールで再現するためには、素材に切り込みを入れた後で複雑な手順による折りたたみ工程が必要だったそうですが、今回の研究チームが開発した技術では、切り込みを入れるだけで三次元構造を一発で作れるようになっているとのこと。


実際に、集束イオンビームによる切り込みから一瞬にして三次元構造が形作られる様子は以下のムービーから見ることができます。

Nano-kirigami with giant optical chirality - YouTube


切り込みを入れた金属片が自然に展開するのは、金属片に切り込みを入れる際に利用する集束イオンビームに秘密があります。低線量の集束イオンビームで切り込みを入れることで、イオンの一部が金属の結晶格子内に滞留します。すると、結晶格子の形状が押し出されて、金属片を曲げるような強い応力が生まれ、金属片がきれいに展開します。これまでの方法では特定の目的に応じて直感的に切れ込みを入れていたのに対して、今回の技術はあらかじめ応力を計算に入れて切り込みのパターンを考えているため、複雑な展開方法を必要としません。

さらにファン教授率いる研究チームは、円偏光の右回りと左回りをフィルタリングできるという光学的な機能を持ったナノ切り紙を製作しました。


例えば、グルコースには、D-グルコースとL-グルコースという2種類の鏡像異性体が存在します。この2つを区別した上で、溶液内のそれぞれの濃度を調べるためには旋光度測定を行わなければなりません。このナノ切り紙は今までのデバイスのものよりもはるかに小さいため、より小型で効率的な旋光度検出器など、さまざまな分野のセンサーやデバイスの小型化が期待できます。

ファン教授は「例えば円偏光の技術は、複数のレーザービームを干渉させることなく光ファイバーケーブルへ通すために用いられています。今回のナノ切り紙の技術を使えば、レーザー光通信システムのデバイスをナノメートルサイズにすることができるため、通信技術への応用も十分期待できます」とコメントしています。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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