サイエンス

地球外惑星を目指す人類にのしかかる「宇宙航行中の外科手術」の難しさとは?


地球の一つ外側の軌道を公転している火星に到達するためには、少なくとも9カ月間の宇宙航行が必要とされています。長い航行の間に乗員がケガや病気になった場合には地球と同じように外科的処置を施す必要が生じることも十分に考えられるわけですが、重力が非常に小さい環境での処置には大きな困難がつきまとう可能性が指摘されています。

Surgery in space - Panesar - - BJS - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/bjs.10908

Future Astronauts Must Perform Surgery in Space — and It Will Be Gross
https://www.livescience.com/62911-space-surgery-problems.html

2018年6月19日に発表された論文、その名も「Surgery in space(宇宙での外科手術)」では、アメリカのピッツバーグ大学とイギリスのキングス・カレッジ・ホスピタルの研究者による研究チームが宇宙空間における外科手術の状況について考察を行っています。論文の中で研究チームは「将来の宇宙飛行士および移住者は、長期間に及ぶ宇宙航行の中で幅広い共通の病理学の問題に必然的に直面することになる」「長期間にわたる無重力状態や宇宙放射線、外傷などの状況から、新たな病理学がもたらされることになるだろう」と記しています。

地球の引力で物体が地面に向けて引き寄せられる地上では、患者の体から出た血液などの体液や内臓器官などは全て引力の影響を受けています。流れ出た血液は床や机の上に落ち、開腹手術を実施した場合でも、胃や腸などの器官は基本的にしかるべき場所に位置します。しかし、引力が非常に小さい無重量状態では、地球上とは全く異なった状況が生まれることが避けられません。

By NASA Johnson

外傷を負った際に体外に飛び出した血液や体液は、表面張力により空間で球体となり、何らかの物体に触れるまでは宙を漂い続けます。また、大きなケガを負って体内の器官が体外に出てしまった場合や、開腹手術で内臓器官に処置を施す場合などにおいては、何らかの方法で器官を固定するなどの対策を取らなければ、新たな外傷の発生や手術器具による思わぬ損傷が加えられることも十分に考えられます。

この問題に立ち向かうために考えられているのが「Trauma Pod(外傷用区画)」と呼ばれる処置専用の設備。外部から隔離された環境を作り出し、体外に放出された血液などの体液や、病原体などの飛散を最小限にとどめることを目的としています。


また、地球から離れた空間で、限られた物資や人員で処置を施すことの難しさも指摘されています。長期間の宇宙航行を実施するに際しては、あらかじめさまざまなケースを考慮した上で必要な物資を宇宙船に搭載し、しかるべき知識や経験を持つ乗組員が搭乗することになります。しかし、「起こりうる全てのケースに100%対応すること」は実質的に不可能であり、そのような場合には地球から遠隔で指示を送ったり、機器を操作して治療を行う事も考えられます。

ここで大きな障壁となるのが、距離の問題です。地球と火星の距離は最も離れた時で2億3000kmで、最接近時でも約7000万kmもあります。この距離だと、地球から発された電波が宇宙船に届くまでに最低でも4分もの時間がかかるため、通信によってリアルタイムで何かの処置を施すことは不可能です。

このように、人類が未知の領域である惑星間航行にはまだまだ多くのクリアすべき課題が残されていることがわかります。今後の研究でさまざまな解決策が見いだされることになるとも期待されますが、火星に到達し、さらに遠い惑星や、太陽系外の惑星を目指すことには、まだまだ多くの研究と時間が必要といえそうです。

By mr.hasgaha

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in 乗り物,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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