レビュー

MSV(モビルスーツバリエーション)の誕生から終焉まで追った“歴史書”「MSVジェネレーション」


2018年5月16日(水)に、太田出版から「MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための『ガンプラ革命』」が刊行されました。著者は模型文化ライターのあさのまさひこ氏。プロローグに「MSVをありがちなプラスチックモデル記録全集(いわゆる完成見本の写真記録集)ではなく、ジャーナリズム視点に基づくドキュメントとして一冊の単行本にまとめてみたい」とある通り、図録や写真集ではなく、当時の熱狂ぶりを今に伝える資料となっています。

MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」 - 太田出版
http://www.ohtabooks.com/publish/2018/05/16105913.html


表紙カバーには、石橋謙一さんの手によるMSVシリーズ第1弾「MS-06R ザクII」のボックスアートが使用されています。


まずはカラーページが続きます。「模型情報」はバンダイが発行していた新製品情報誌で、この赤い機体はMSV内で人気を誇った創作キャラクター「ジョニー・ライデン」のザクII。これも石橋さんによるイラストです。


イメージが膨らむボックスアートの数々。


MSV誕生のきっかけとなった、大河原邦男さんによる「ザクバリエーション」のイラストも収録されています。


プロローグによると、著者のあさのさんは長らく「(MSVについて)きちんとまとまったものを読んでみたい」「いつか誰かがまとめてくれるだろう」と考えていたのですが、とうとう自分がやるしかないと動いて本書を作ることになったのだそうです。


その目次はこのような感じで、「プロローグ 『ウッドストック・フェスティバル』としてのMSV」「第一章 MSV誕生前夜(1980年2月~1982年3月)」「第二章 『ゼロロクアール』の衝撃(1982年3月~12月)」「第三章 製品化開始、そして連勝に次ぐ連勝(1982年12月~1983年6月)」「第四章 生じるべくして生じた『弾切れ』(1983年7月~1984年9月)」……


「第五章 『ガンプラ革命』終焉の刻(1984年10月~1985年10月)」「特別企画1 OUT増刊『宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY』編集長 大徳哲雄インタビュー」「特別企画2 1/144 MS-06R 黒い三連星仕様ザクII 設計担当 元バンダイ 村松正敏インタビュー」「エピローグ 加藤智さんへ向けた、ちょっと長めのあと書き」「MSV全ラインナップ34」と続いています。


「第一章 MSV誕生前夜」はバンダイが機動戦士ガンダムの商品化権を獲得してからMSV登場までの「ガンダムのプラモデル(以降、ガンプラと表記)」の歴史が記されています。


章内見出しはこんな感じ。
「番組放映後の商品権獲得」と、劇場映画化決定に伴う大ヒット
安井とバンダイ模型、そしてストリームベースとの出会い
意外なきっかけから生まれた「ザクバリエーション」
「HOW TO BUILD GUNDAM」ショック!
とある一冊の書籍の刊行が、その後のガンプラの運命を決定付けた
ついにデザイン化された「黒い三連星のR型ザク」

「安井」とは、のちにMSVのプロデューサーとなる安井尚志さんのこと。大河原邦男さんの手による4種類の「ザクバリエーション」が掲載された「劇場版 機動戦士ガンダム アニメグラフブック」の企画・監修も行っています。

アニメグラフブック 劇場版 機動戦士ガンダム | 安彦良和, 大河原邦男 |本 | 通販 | Amazon


また、ストリームベースはのちにMSV展開を支えることになる伝説的モデラー集団のこと。ストリームベースをはじめとした敏腕プロモデラーたちによるガンプラ改造・作例集が掲載された月刊ホビージャパン別冊「HOW TO BUILD GUNDAM」を、あさのさんは、プラモをアニメの設定やパッケージイラスト通りに組み立てるフェイズ1から、MSを実在する兵器と見なしてリアルに仕上げるフェイズ2へ移行させたものとして取り上げています。

HOW TO BUILD GUNDAM (ホビージャパンMOOK) | ホビージャパン編集部, サンライズ | 模型・プラモデル | 本 | Amazon


「その後のガンプラの運命を決定付けた」書籍として名前が挙がったのが、1981年にみのり書房から刊行された「GUNDAM CENTURY」。みのり書房は1995年に倒産していますが、2000年に樹想社から復刻版が刊行されています。内容は、本編の脚本を担当した松崎健一さんと、「超時空要塞マクロス」で知られるスタジオぬえの宮武一貴さん、河森正治さんが手を組んだ「ガンダムの二次創作ムック」だったのですが、その緻密な設定はのちに少なからぬ数がガンダムワールドに取り込まれ、世界拡大に大きく貢献しました。

GUNDAM CENTURY RENEWAL VERSION―宇宙翔ける戦士達 | |本 | 通販 | Amazon


MSV前史だった第一章に続く第二章「『ゼロロクアール』の衝撃」は、MSVがデザイン画&作例集として展開していく時代のことが書かれています。


章内見出しは以下のような感じ。
・「ゼロロクアール」の登場が加速させたMSV製品化への機運
・「HOW TO BUILD GUNDAM」ショック、再び!
・ここまで「ガンプラに濃い児童漫画雑誌」が許されるのか!?
・ボンボン誌上をいかんなく駆使した「MSV推し」

この時期に刊行された「HOW TO BUILD GUNDAM 2」には、「HOW TO BUILD GUNDAM」以上の大改造やフルスクラッチビルドの作例が掲載されており、モデラー少年たちに憧れと絶望をつきつけたそうです。

HOW TO BUILD GUNDAM 2 (ガンダムの作り方 第2集) (月刊HOBBY JAPAN 別冊) | ホビージャパン |本 | 通販 | Amazon


1981年創刊の「コミックボンボン」では安井さんが腕を振るい、ガンプラの特集と「プラモ狂四郎」によって「小学生がガンプラの世界に足を踏み入れてくる」という流れを生み出しました。

プラモ狂四郎(1) (講談社漫画文庫) | やまと 虹一, クラフト団 |本 | 通販 | Amazon


そして第三章が「製品化開始、そして連勝に次ぐ連勝」と題した、MSV快進撃の時代です。


章内見出しは以下のような感じ。
・誰がMSVを育み、MSVを製品化へと至らせたのか?
・「ガンプラ史における金字塔」としての1/144 06Rを紐解く」
・「小田×石橋」のホットラインがボックスアートにもたらしたもの
・「先鋭的なプロモデラーの造形センスを取り込む」という革新性
・いよいよ到来した「MSVブーム」と、メディアミックスの爆発
・「ガンダムフルアーマータイプ」という二律背反的存在
・ボンボンが体現した「気分」としてのMSVブームのピーク

イラストだけではなくパッケージとして発売されるに至ったMSVについて、バンダイがどのような経緯で製品を出すに至ったか、なぜあのようなボックスアートが描かれたのか、発売後の各メディアでの扱いはどのようなものだったのか、という部分が、当時高校生で模型情報やホビージャパンを読んでいた「モデラー少年」だったあさのさんの目線も交えつつ書かれています。

第四章は「生じるべくして生じた『弾切れ』」


章内見出しはこんな感じ。
・月に2日間のみオープンする「ガンプラサロン」という存在
・衝撃の1/30 06R「※このキットに小田さんはついていません」
・快進撃の中からほのかに滲み出はじめるまさかの「疲弊感」
・「わずか10ヶ月のあいだに新製品が21点」という驚異の83年
・「ノーマルガンプラシリーズのリメイク」という裏ワザ的展開
・人気が出るべくして出た「ジョニー・ライデン少佐」という存在
・MSVの弾切れがバンダイを決断させた「禁断の企画」
・「MS-X」「逆襲のシャア・ガンダム」というふたつの新作ガンダム
・最後の輝きを見せた「ジョニー・ライデン専用機祭り」

見出しを追っていくだけでも、MSVという企画が猛烈な勢いですり減り、MSVに代わる「新たなポストガンダム」が求められたことが伝わってきます。

第五章「『ガンプラ革命』終焉の刻」


章内見出しはこんな感じ。
・MSVの終了とZガンダムの放映開始、そして……
・「MSVがZガンダム劇中に登場した」ことの意味と意義
・オレたちのオレたちの手によるオレたちのための「ガンプラ革命」

1985年春から「機動戦士Zガンダム」が放送されることが決定すると、ガンプラの世界でMSVの役割は終わりを迎えました。Zガンダムでは、GUNDAM CENTURYで創作され、MSVの設定として繰り返し使用されたジオニック社の設定が「正史」に組み込まれ、作中にMSVが登場しました。


末尾には特別企画としてインタビューが2つ掲載されています、1つは「GUNDAM CENTURY」編集長の大徳哲雄さんへのインタビュー。MSVが「GUNDAM CENTURY」で作られたMS開発史に乗っかったことについても触れられています。

「OUT増刊『宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY』編集長 大徳哲雄インタビュー」


もう1つは「MS-06R ザクII」を設計した村松正敏さんへのインタビュー。村松さんも「HOW TO BUILD GUNDAM 2」を読み、小田さんのザクの頭部を格好いいと思ったそうです。

「1/144 MS-06R 黒い三連星仕様ザクII 設計担当 元バンダイ 村松正敏インタビュー」


巻末には、発売されたMSVの全リストと……


ボックスアート、作例が掲載されています。


振り返ると、MSVの展開は1983年3月から1984年12月までのわずか1年9カ月。その間、映像作品のソースなしで34作品がリリースされたというのは驚きに値します。プラモの企画側・作り手側が相当大変だったであろうことは想像に難くありませんが、そういった苦労の証言を取り上げるのではなく、俯瞰と消費者目線、そして身の回りの反応で追った書籍として、本書は当時のガンプラ界隈を読み解く資料の1つとなるはずです。

MSVジェネレーション ぼくたちのぼくたちによるぼくたちのための「ガンプラ革命」 | あさの まさひこ |本 | 通販 | Amazon

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in レビュー,   アニメ, Posted by logc_nt