サイエンス

塩は体に悪いのか?

by Jason Tuinstra

塩分の摂りすぎは高血圧につながることが知られていますが、「それでは塩の摂りすぎは体に悪いのか?」という疑問が湧きます。この疑問に対する答えが、刑務所での調査により明らかになるかも知れません。

Is Salt Bad? A Prison Study May Hold the Answer - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/health/archive/2018/05/is-salt-actually-bad-for-you/560468/


何十年にもわたって公衆衛生当局は人々に「塩分の摂取を控えるように」と促しています。塩分摂取を控えることは血圧低下につながり、その結果心臓病の発症率が低下すると考えられていますが、一部の研究者たちは公衆衛生当局によるガイドラインは非科学的なものであるとして、長きにわたって心臓病と塩分摂取の関係性を調べてきました。

そんな研究の中で、現在注目されているのが「何千人もの人々に無作為に低塩分または通常の食事を割り当てることで、短期間でどれだけ血圧が変化し、長期的に見た場合は心臓病の発症率がどの程度変化するかを調査する」というもの。調査はミシシッピ州のメディカルセンターで働く肥満研究者のダニエル・ジョーンズ氏が提案したもので、その理由は「既存のデータは塩と心臓病の関連を十分に示していると考えますが、より無作為なコントロールされた環境下で調査が行われるべき」だからだそうです。

しかし、長期にわたって被験者に低塩分の食事もしくは通常の食事を食べてもらうことで塩分摂取量と高血圧の関係性を調べるには、研究者が被験者の食事を長期にわたって準備し続けるという難しさがあるため、これまでは短期的な調査しか行われていませんでした。そもそも、ボランティアで調査に参加する被験者が、長期にわたって提供される食事だけを食べ続けるか?という疑問もあります。

そこで、研究チームは既に管理された食事をしている人たちを対象に調査を行うことを思い付き、最終的に「刑務所で調査を行う」という選択肢に思い至ったそうです。この提案は2018年になって高血圧に関する学術誌のHypertension上で発表されています。

by André Robillard

しかし、刑務所で研究を行うには、連邦政府から資金提供を受け、なおかつ以下の5つのいずれかに該当する必要があるそうです。ジョーンズ氏によると刑務所で長期にわたり追跡調査を行う場合は、5つ目のカテゴリに該当するとのことですが、そもそも「連邦政府から資金調達する」必要性も出てきます。

1:投獄または犯罪行為そのものの研究
2:施設としての刑務所の調査
3:麻薬中毒または肝炎のような囚人に不平等に影響を与える健康状態の調査
4:疾病の蔓延とリスク要因に関する疫学研究
5:囚人が調査の役に立つことができる研究

なお、研究が実現した場合、刑務所では「現在刑務所で提供されている食事」と「1日2300ミリグラム未満の低ナトリウム食」のいずれかを提供することで、塩分摂取量と心臓病の発症率の関係が調べられることとなります。個々の囚人はどちらの食事をとるか選択することはできませんが、調査のために健康データの収集を許可するかどうかは決めることが可能となる模様。

平均的なアメリカ人の1日のナトリウム摂取量は3400ミリグラムといわれており、ここから考えると「1日2300ミリグラム未満の低ナトリウム食」は味の薄い食事ということになります。よく言えば「健康的な食事」ですが、悪く言えば「味気ない食事」であり、実際刑務所では罰の一種として食欲の湧かない低ナトリウム食がふるまわれていたこともあります。そのため、低ナトリウム食に反対の囚人は調査対象から抜けることも可能とすべき、という提案も行われています。

by Stephanie McCabe

また、囚人の食事を正確に監視する方法もありません。南部人権センターの弁護士であるアーロン・リットマン氏が「囚人達は食べ物を分かち合うし、食事を捨てることだってある」と指摘するように、提供された食事をそのまま囚人達が食べているとは限りません。囚人の多くがポテトチップスのような塩分の多いスナック菓子などを購入して食べているとのことで、ジョーンズ氏らが刑務所で調査を行う場合は、まず囚人達の食生活を正しく把握することが必要です。

塩分の多いスナック菓子の販売を制限することでこれに対処することも可能ですが、カリフォルニア大学アーバイン校の犯罪学者であるケラメット・ライター氏は、「刑務所内ではスナック菓子が通貨として機能しており、ラーメンスナックやドリトス、ビーフスティックその他さまざまな食べ物以外に楽しみはありません」と語るように、囚人の唯一の楽しみであるスナック菓子を奪うことは刑務所での混乱を招く可能性が大いにあります。

他にも、囚人は一般人口からかけ離れた人々の集団であるため、刑務所で集めたデータを一般化することが難しくなるのではという指摘もあります。一般的に、囚人は一般人口と比べて薬物使用率および、HIVやC型肝炎の感染割合が高くなっています。これは「囚人は健康調査の被験者としては理想的な集団ではない」ということを示すデータでもありますが、長期にわたる塩分摂取調査を行うには刑務所は唯一の選択肢であると言っても差し支えなく、ジョーンズ氏は「我々のアイデアが非常識なものなのかどうかについて、広くアドバイスを求めています」と語っています。

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in サイエンス,   , Posted by logu_ii