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仮想通貨マイニング最前線をマイニング用ASIC開発者の視点で検証する


空きストレージ活用型の仮想通貨「Siacoin」の技術者が、マイニング用ASICマシンを開発・製造した経験から得られた仮想通貨マイニングの現状に関する知見をブログで報告しています。そこには、仮想通貨マイニングの世界を支配する中国のマイニングASIC製造兼マイナーとしてのBitmainの強大さが記されています。

The State of Cryptocurrency Mining – Sia Blog
https://blog.sia.tech/the-state-of-cryptocurrency-mining-538004a37f9b

Siaの開発をリードする技術者のデビッド・ボリック氏が、仮想通貨マイニングASICの製造企業Obeliskを立ち上げたことで得た、仮想通貨マイニングの現状に関する洞察をブログで公開しています。多くの仮想通貨開発者にとって仮想通貨マイニング業界の動きは分かりにくいと感じるものだそうで、理解する最良の方法は実際にASICを開発してマイナーに提供することだろうとボリック氏は考えて、仮想通貨Siacoinの開発に並行して、ASIC開発事業をスタートさせたそうです。その経験から、仮想通貨マイニングで理解しておくべきことを、いくつかのキーワードでまとめています。


◆ASIC耐性
効率的に仮想通貨をマイニングするためにはマイニングに特化した演算を行うASICが不可欠になっています。しかし、大規模なASICシステムだけを持つ一部のマイナーがマイニング収益を独占することはマイナーによる中央集権化を招いてしまい、仮想通貨の特長の一つである中央集権組織から解放された分散システムという理念を損ねてしまいます。そこで、仮想通貨開発者は、ASICによる効率的かつ独占的なマイニングを防ごうと仮想通貨システムにASICでマイニングしづらい仕組みを導入して「ASIC耐性」を持たせることがあります。例えば、仮想通貨Ethereum(イーサリアム)はASIC耐性があることから、ASICツールではなくグラフィックボードを使ったマイニングが一般的になっています。

しかし、ASIC耐性を過度に期待すべきではないとボリック氏は述べています。CPUやGPUなどの汎用ハードウェアよりも優れた用途特化型のカスタムハードウェアは、必ずアルゴリズムによる制約を打ち破るものだとのこと。ASIC耐性を持つことで知られるマイニングアルゴリズム「Equihash」用のASICをBitmainがリリースしたことをボリック氏は驚かなかったそうです。むしろ、Bitmainが発表したASICはSiaの想定より5倍から10倍もパフォーマンスが劣っているので、今後数カ月のうちにより強力なEquihash用ASICが登場するかもしれないとボリック氏は述べています。

◆ハードフォーク耐性
多くの人はコンピューティングは「CPU」「GPU」「ASIC」の3種類に分けられると考えていますが、ボリック氏に言わせればこれは間違いだとのこと。正しくしくは、「ASIC」ただ一つがあるだけで、その柔軟性に違いを持たせられるだけだとのこと。汎用性の最も高いCPUが「1」、一般人が考えるASICが「10」だとすれば、GPUはせいぜい「2」ということになります。GPUとASICの間の製品がほとんど見られない理由は、柔軟性のないASICの設計にはほとんど費用がかからないからだそうです。

特定のマイニング用ASICを実質的に無意味にするために仮想通貨をハードフォークするという戦略も、柔軟性という観点からすぐに克服するASICが登場することを避けられない以上、良い戦略とはいえないようです。


◆Monero用の秘密ASIC
数カ月前に、仮想通貨Moneroを採掘する専用ASICの存在が明らかになりました。このMonero用ASICは存在を知られることなく約1年間、こっそりと大量にMoneroをマイニングしており、50%を超えるマイニング能力を独占するマイナーの存在により不正なトランザクションさえ承認可能になるいわゆる「51%攻撃」が起こり得る状態だったという情報もあるとのこと。

その後、MoneroはPoWを変更するハードフォークを行っており、今後もハードフォークを計画中なので、近い将来再び「秘密のASIC」の存在があぶり出される可能性をボリック氏は指摘しています。

◆秘密理に開発されるASIC
ボリック氏によると、極秘で特定の仮想通貨用のASICを開発するマイナーは多く存在するとのこと。特定の仮想通貨を独占支配するために数百万ドル(何億円)もの資金が投じられることはめずらしくないそうで、1年間のマイニング報酬の総額が2000万ドル(約22億円)を超える仮想通貨はすべて、少なくとも1つの秘密のASICグループがマイニングしているとボリック氏は予想しているそうです。


◆マイニング用ASICツール開発者の優越的地位
仮想通貨DecredをマイニングするASICをHalongは販売しましたが、1万ドル(約110万円)の値が付けられた性能不明のASICバッチはつねに「売り切れ」状態だったとのこと。その後、Decredマイニングの追跡調査によるとマイニング報酬の50%以上がHalongに紐づいたアドレスに送られていることが分かりました。つまり、Halongは自社で高性能なASICマシンを保有し大量のマイニングを行いつつ、性能の劣るASICマシンを他の仮想通貨マイナーに販売していたというわけです。ASIC製造業者とASICを購入するマイナーの間には情報格差があり、マイナーはASIC製造業者を信用するしかありません。しかし、ASIC製造業者自身によるマイニング行為を制限できない以上、マイニング競争で不利なことは明らかです。

BitcoinマイニングASIC製造で断トツのBitmainが「Antminer A3」を発売した直後は、小ロットのA3のみ「10日以内」という非常に短い納期が選べたため、個人向けに大量のA3が出荷されたとのこと。しばらくたつと「1日あたり800ドル(約8万8000円)を稼いでいる」という個人仮想通貨マイナーのYouTubeムービーがあふれるようになった結果、A3は良好な滑り出しを見せ、その後の改良版「バッチ2」の準備につなげることができました。

ボリッグ氏はBitmainがA3の販売数を明らかにしないため正確にはわからないものの、バッチ2の販売で得た利益率は、A3で得られるはずだったであろう利益率よりも高いはずだと指摘しています。つまり、たとえ電気代が無料だったと仮定してもA3が改良版のバッチ2にマイニング収益で及ばないことを知りながら、1億ドル(約110億円)以上のマイニングマシンを販売したとボリッグ氏は考えているとのこと。このような例は初めてではなく仮想通貨Dash用のマイニングマシンでも同様の行為を行っていたそうで、業界では「flooding」と呼ばれASIC製造業者とASICマシンを購入する仮想通貨マイナーとの間の「情報の非対称性」によって生み出される不都合だとボリッグ氏は述べています。


アメリカのゴールドラッシュで大儲けをしたのは金を採掘したゴールドマイナーではなく、マイナーにツルハシなどの道具を売った工具商などの、マイナーを狙ったビジネスマンだったという逸話がありますが、デジタルゴールドである仮想通貨のマイニングでは、工具商自身が超強力な採掘者を兼ねているという違いがあります。世界有数のビットコインマイナーであるBitmainが、マイニング行為とともにマイニングツールを販売する狙いは何かについて、マイナーはもう一度よく検討したほうがよいかもしれません。

◆規模の経済
ビジネスにおいては大量生産を行うことで得られる「スケールメリット」が通用しますが、仮想通貨マイニングでも同様です。非常に大雑把に言えば、仮想通貨マイニングでは10倍の費用ごとに約30%のコストダウンが可能だとボリッグ氏は述べています。例えば、マイニングマシンに1億ドル(約110億円)を投じている場合、1ユニットごとに1日に500ドル(約5万5000円)かかるコストは、10億ドル(約1100億円)を投じれば350ドル(約3万8000円)に、100億ドル(約1兆1000億円)投じられれば245ドル(約2万7000円)まで削減できるという感覚だとのこと。

そして、仮想通貨マイニングに巨額を投じてビッグビジネスを行っている代表格がBitmainであり、Bitmainは中国国内では他のASIC開発者の参入を妨害することさえ可能だという悪評が出るほどの優勢性を持つのは厳然たる事実だとのこと。巨額を投じる者ほど有利になるという仮想通貨マイニングシステムでは、いずれわずかな数の主要プレイヤーが市場を分け合うという集権的な形になるのは避けられないとボリッグ氏は考えています。

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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