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肉眼で確認できないレベルで文書内に秘密のメッセージを隠すことができる「FontCode」


特殊な処理を施さないと目に見えないインクとして知られる「不可視インク」など、人類は他人に見られてはならない秘密情報をやり取りするための手段を数多く開発してきました。コロンビア大学のチャンシ・ズン准教授らの研究チームは、文書中に肉眼では確認できない秘密のメッセージを埋め込む技術「FontCode」の開発に成功しています。

[1707.09418] FontCode: Embedding Information in Text Documents using Glyph Perturbation
https://arxiv.org/abs/1707.09418

Researchers hide information in plain text
https://techxplore.com/news/2018-05-plain-text.html

FontCodeが役に立ちそうな分野についてズン氏は、「スパイ活動に関連する使い道はもちろんのこと、文書の改ざん防止や著作権保護を望む企業、そして小売業者やアーティストが文書の外観やレイアウトを変更せずにQRコードやメタデータを埋め込むような場合が考えられます」と語っています。研究チームはこれらのニーズを実現するため、ステガノグラフィーの研究に着手し、文書中にテキストデータやメタデータなどの情報を埋め込む「FontCode」の実現に成功しました。

FontCodeは、以下のようにフォントに使われている線の太さやハネ、曲がり具合などの部分を変化させ、それぞれに対して「1」「2」「3」などの数字を割り当てます。この変化は1つの文字に対して複数のパターンを用意しておくことが可能なので、たとえば「a」という一つの文字に対して複数の数字を持たせることが可能です。


フォントの違いを肉眼で捉えることは困難ですが……


コンピューターであれば認識することが可能で、文書内に隠されたメッセージを簡単に取り出すことができます。


また、秘密のメッセージを文書中に埋め込む場合は、ユーザーが入力したメッセージをFontCodeが数字に変換。その後、文書中からフォントを変化させる場所(ピンク色)を取り出し、数字に合わせたフォントに変換することで、情報を埋め込むことが可能となります。


さらにFontCodeはメッセージを暗号化して、特定の人物以外に読み取られないようにすることも可能です。数字とフォントは、以下のように1対1で紐付いていますが、この対応付けを入れ替えることで、暗号化された状態で情報を埋め込むことが可能になります。


このため、秘密のメッセージを読み取るには、メッセージを埋め込んだ人物と同じ「フォントと数字」の対応表(共通鍵)を持っておく必要があり、第三者に読み取られる可能性は低くなります。


FontCodeによって埋め込まれたメッセージは、変化されたフォントの文字さえ認識できれば、読み取ることが可能です。このため、FontCodeを埋め込んだ文書は、紙媒体、画像ファイル、PDFファイルなどの保存形態に依存しないという特徴があります。また、暗号化に利用可能なフォントとして「Times Roman」「Helvetica」「Calibri」など一般的なものに対応していることから、ズン氏は「汎用性が高い」と語っています。

ズン氏らの研究チームは、FontCodeでURLなどのテキストが埋め込まれたポスターや文書などから、QRコードのようにスマートフォンのカメラで撮影して利用することを想定しています。しかし、撮影する角度や照明などによってはフォントの細かな変化を読み取れなくなり、埋め込まれた情報を正確に読み出せなくなるケースがあることが問題点として指摘されていました。


そこで、ズン氏は読み取れない文字を救済するため、中国の剰余定理を使って推測する方法を考案しています。これは、「ある値を3で割った剰余、5で割った剰余、7で割った剰余から元の値を特定する」というように、複数の剰余の値から元の値を導出できるというもので、FontCodeではこの定理を用いて欠損した文字を導き出す仕組みを実装し、最大で25%の文字が認識できない状態であっても元のメッセージを抽出することを可能にしました。

ズン氏は「FontCodeは英数字のみの対応となっていますが、今後は中国語を含めた他の言語に対応するように拡張する予定です」と語っています。

なお、「FontCode」の仕組みは、YouTubeで公開されているムービーでも解説されています。

FontCode: Embedding Information in Text Documents using Glyph Perturbation - YouTube

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in ソフトウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

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