サイエンス

記憶を利用することで偽薬でも本当の薬以上の効果が期待できると科学者が指摘


ウソの薬などを使用して、体内に本当の薬と同じような効果をもたらすプラシーボ(偽薬)効果は非常に強力で、実際に手術を行う以上に有益な副作用をもたらすこともありますが、治療方式が確立されていないため、現実の医療現場で偽薬を利用した治療を施すことは難しいとされています。ドイツの研究者によると、脳に薬を服用したことを強烈に印象づけたあとに偽薬を飲んで同じ刺激を与えると、薬と同等の効果が期待できると報告されています。

Learned immunosuppressive placebo responses in renal transplant patients | PNAS
http://www.pnas.org/content/early/2018/03/27/1720548115

Training plus a placebo may make a drug more effective | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2018/04/training-plus-a-placebo-may-make-a-drug-more-effective/

デュースブルク・エッセン大学のジュリア・キルヒホフ氏らの研究では、通常の薬物治療の効果を高めるためにプラシーボ効果を利用する治療について述べています。研究で示された手順によると、まず、被験者が劇薬を服用する時に特徴的な味のする飲み物などで味を印象づけさせます。その後は、「劇薬」と「偽薬」とを異なるタイミングで、最初に飲んだ飲み物と共に服用させました。すると被験者が服用した薬の量が減らしたときも、薬の効果が生じることがわかったとのこと。なお、被験者たちは事前に実験の内容を全て正確に把握していたそうですが、それでも効果があったと報告されています。

例えば、免疫抑制薬のシクロスポリンAはは免疫システムを抑制する強力な薬物で、臓器移植を受けた患者や強い自己免疫障害を有する患者に有用です。しかし、シクロスポリンAは免疫システムに影響を与えるだけでなく、腎機能の悪化や高血圧などを引き起こす副作用を併発させる恐れがあります。この腎機能や高血圧などの副作用は、免疫システムの抑制とは無関係とされていますが、記事作成時点で体内の免疫細胞のみに効果をもたらす手段は発見されていません。このため、シクロスポリンAなどの免疫抑制薬を服用する場合は、効果と毒性のバランスを慎重に考慮する必要があります。

キルヒホフ氏らの論文によると、実験は8日間かけて行われており、腎臓移植を受けた患者30名(男性24名、女性6名)に対し、1日目は通常量の免疫抑制薬を午前、午後の2回投与し、11時、15時、19時のタイミングで血液を採取しました。その後3日間は、特徴的な味がする飲み物と合わせて通常の量の免疫抑制薬を投与します。2日間の休息のあと、7日目に「飲み物と薬」と「飲み物と偽薬」を2回ずつ投与し、最終日の午前に一度だけ「飲み物と薬」を投与したあと、以降は「飲み物と偽薬」を2回投与し、1日目と同様のタイミングで患者の血液を採取します。その後、1日目と8日目の血液サンプルを比較しました。


すると、1日目の血液と比較して、8日目に偽薬を摂取した人々は、半分の量の免疫抑制薬のみしか服用していないにもかかわらず、体内に入った異物に反応する細胞であるT細胞の増殖を約30%低下させていたようです。また、シグナル伝達分子であるγ型インターフェロンの量もわずかに減少したことを確認されています。

患者たちはこの実験中どのタイミングで偽薬が投与されるかを認識していましたが、脳が飲み物の味に反応してしまうのか、免疫抑制薬の効果はプラシーボ効果によって増強されたことが示されています。また、被験者の性別による有意性の違いは特になかったとのことです。

キルヒホフ氏ら研究チームは過去の研究から、プラシーボ効果はノルアドレナリンと呼ばれるシグナル伝達分子の放出によって引き起こされると理解していました。しかし、被験者たちのノルアドレナリンに変化はなく、一部の患者に至ってはノルアドレナリンを抑制するβ遮断薬を服用していたことがわかっています。さらに、β遮断薬を服用している患者と服用していない患者を比較しても、実験の効果は変化がなかったことがわかっており、今回の実験で示された効果は、人体でどのようなメカニズムで働くことによって生み出されているのかはわかっていません。

また、今回の方法をプラシーボ効果を用いた治療法として確立するには「効果はどれくらい維持できるのか?」「プラシーボ効果を長期にわたって持続させる方法があるのか?」など解決すべき問題が数多く残っています。しかし、今回示された結果は、劇薬による副作用の発症を抑えることが期待できる有用な方式であるため、長期的な試験による治療方式の確立が望まれています。

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in サイエンス, Posted by log1j_ty