ジャズのように即興で複雑な歌を歌うクジラが報告される

By Bering Land Bridge National Preserve

水中は光が制限されるため、視界が悪くなってしまいますが、音は遠くまで響かせることが可能です。そこで、ザトウクジラなどの一部のクジラは、歌うことで仲間とコミュニケーションを取ることが知られています。また、クジラの歌には規則性があり、集団の中で共通の歌を歌うことがわかっていました。しかし、ワシントン大学のケイト・スタッフォード教授によると、スヴァールバル諸島周辺に生息するホッキョククジラは集団内で異なる歌を歌っており、また短期間のうちに歌の内容が変化していることが明らかになっています。スタッフォード教授によると「ホッキョククジラの歌はジャズの即興に近いレベルで多様性があります」と語っています。

Diversity in bowhead song | Biology Letters
http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/14/4/20180056

Scientists discover a whale species’ mating songs are as complex as jazz - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2018/04/04/scientists-discover-a-whale-species-mating-songs-are-as-complex-as-jazz/

The whales who love to sing in the dark - BBC News
http://www.bbc.com/news/science-environment-43630716

研究ではスヴァールバル諸島周辺の海中にハイドロホンを投下し、ホッキョククジラの歌を解析したところ、クジラたちが3年間で184の歌を歌ったことが確認されました。スタッフォード教授は「ホッキョククジラはコミュニケーションを取るためのアルファベットが何千文字もあるようです」と語っており、ホッキョククジラのコミュニケーションは、想像以上にバラエティーに富んでいる可能性があることを示唆しています。

スタッフォード教授は「ザトウクジラの歌は1曲あたり20～30分ほどかかりますが、1シーズン通して同じ曲を歌い、集団内でも同じ曲を共有することがわかっています。しかし、ホッキョククジラの歌は1曲あたり45秒～2分ほどと短く、数時間～数日の短いスパンで楽曲を変更し、集団内で同じ曲を共有することもありません。人間の我々には、何の規則性もないように感じられます」と話しており、ホッキョククジラのコミュニケーションが何を意図しているのかは、わかっていないそうです。

By UW News

クジラをはじめ、多くの哺乳類は同じ音を繰り返し使用することで、仲間を呼んだりするコミュニケーションを行いますが、ホッキョククジラのように、複雑なパターンの音声を発することは珍しいとのことです。

スタッフォード教授は「調査したホッキョククジラの集団の個体数は把握していないものの、11月～4月の時期になると、1日中歌っていることがわかっています。おそらく、オスがメスに対して行う求愛行動として歌っているのではないかと考えています」と語っており、ザトウクジラのオスが繁殖期に歌うことから、ホッキョククジラも同じ理由で歌うのではないかと見ています。なお、これまでの研究で、スヴァールバル諸島周辺には343頭以上のホッキョククジラの群れが存在すると報告されています。

スタッフォード教授は「ホッキョククジラが異なる歌を歌っていることがわかっています。しかし、個々のホッキョククジラが独自の歌を生涯にわたって歌っているのか、それともシーズン毎に変化するのかなど詳細は不明です。今後は音声データから個体を特定し、誰が何のために発声しているのかの理由の調査を進めていきます」と話しています。

ホッキョククジラが実際に歌っている様子は、以下のムービーで確認することができます。

The whales who love to sing in the dark - BBC News