ゲーム

インディーズゲームの開発者が初めてゲームをリリースした1年間を振り返る

by Eddie Kopp

ウェブ開発者としての仕事を捨て、独立系のゲーム開発者としてゲーム開発に取り組んできたケビン・ジゲーレさんが、ゲーム開発者として過ごした2017年を振り返っています。

Gamasutra: Kevin Giguere's Blog - Year 1: My full time indie developer life
https://www.gamasutra.com/blogs/KevinGiguere/20180313/315392/Year_1_My_full_time_indie_developer_life.php

35歳のカナダ人プログラマーであるケビン・ジゲーレさんは、大学でコンピューターサイエンスの学位を取得し、13年間にわたってプログラミング関連の職に就いてきました。仕事のほとんどはウェブアプリの開発だったそうですが、2000年代半ばにはFlashゲームのプログラマーとして3年間働いた経歴もあります。ただし、仕事と平行してインディーズゲームの開発を始めるまで、ジゲーレさんはプロジェクトマネージャーというポストで働いたことがなかったそうで、自分でゲームを開発した経験もなかったそうです。

ジゲーレさんは常勤のウェブ開発者としての仕事をしながら、独立系のゲーム開発者として独立するために必要なタスクや、初めて作ったゲームの開発を進めていたそうです。この初めてのゲーム開発はなんと約5年にもおよびます。初めてのインディーズゲーム開発がうまくいかないということはよくある話ですが、ジゲーレさんの初めてのゲーム開発も同じように悲惨な結果に終わったとのこと。「Stardew ValleyやUndertaleのようなインディーズタイトルが数百万部売れるのに対して、平均的なものは最初の1か月で1000部も売れれば幸いです」とジゲーレさんは語っています。

by Caspar Rubin

そして2017年1月、ジゲーレさんはウェブ開発者としての仕事を辞め、独立系ゲーム開発者として生きていくことを決意します。その2017年に、ジゲーレさんはゲーム配信プラットフォームのSteam上で2つのゲームをリリースしました。

最初にリリースしたゲームは、「Arelite Core」という王道ファンタジーRPG。どんなゲームかは以下のムービーを見ればよくわかります。

Arelite Core 2017 Launch Trailer - YouTube


Arelite CoreはJRPGにインスパイアされたRPGで、ジゲーレさんが初めて作った「約5年間にわたって開発が続けられてきたゲーム」です。ゲーム中のBGMを依頼したアーティストや作曲家に支払った金額などを考慮すると、製作費は8万5000ドル(約900万円)以上になるそうですが、Windows向けにリリースされたこのゲームはこれまでのところ、すべてのディストリビューションプラットフォーム上で5000ドル(約53万円)未満の売上しか記録していないとのこと。

ジゲーレさんが2017年にリリースした2つ目のゲームは、レーシングゲームの「Astral Traveler」です。レトロなドット絵が特徴的だったArelite Coreとは打って変わって、3Dグラフィックでレーシングゲームが楽しめるというもの。実際のゲーム画面などは以下のムービーを見ればわかります。

Astral Traveler Announcement Trailer - YouTube


Astral Travelerの開発期間は7か月で、3Dアーティストとの契約や生活費、他の開発者への給料などで約1万5000ドル(約160万円)の製作費がかかったとのこと。Astral Travelerは9月13日にリリースされ、Arelite Coreとは異なりWindows以外のOS向けにもゲームを配信することに成功したそうです。Astral Travelerはリリース以降なんとわずか1000ドル(約11万円)以下の売上しかあげておらず、売上比率はMac向けが約12%、Linux向けが約8%で、残りがWindows向けとなっています。

なお、Arelite Coreの価格が20ドル(約2100円)で、Astral Travelerは5ドル(約530円)です。ゲームの売上とは別にTwitchでの配信で約2000ドル(約21万円)の寄付を受け取ったというジゲーレさん。これにより、2017年の収入は約7000ドル(約74万円)となったそうですが、支出は年間で約1万3000ドル(約140万円)だったそうです。


収支的には大赤字となってしまったわけですが、ジゲーレさんは「販売数は悲惨なものではありませんでした。ありがたいことに、私はゲーム開発者となる前に最悪のケースを想定していたのです。しかし、2つの商業的にリリースされたゲームの開発コストの6%しか(ゲームの売上で)カバーできなかったことは予想外のことだったと言わざるを得ません」と語っています。

ジゲーレさんは開発費を少しでも抑えるためにかなり質素な生活を送っているとのこと。ジゲーレさんは配偶者も子どももおらず、自動車も持っておらず、喫煙者でもなくアルコールも飲まず、安アパートで映画を鑑賞したり喫茶店に行くなどのぜいたくを完全に排除した生活を送っているそうです。食料品は安いブランドのものを選び、ゲームの購入もできず、毎週70~80時間もゲーム開発に時間を注いでいるとのこと。

ジゲーレさんは2017年が自分の人生の中で最も難しい年のひとつだったことを認め、自身の抱いていた間違った前提を他のゲーム開発者たちに伝えるためのこのエントリーを作成したとしています。


1作目のArelite Coreは、RPGツクールを使って作られた安価なゲームタイトルが多数Steam上に登場したタイミングで発売されました。Arelite Coreは独自性を示すためにレトロなJRPG風のグラフィックにしていたものの、RPGツクールを使った似たような2DのRPG作品が多数発売されるといタイミングの悪さの他に、Steamの販売ページ上にRPGツクールで作成されたゲームであることを示すタグ付けまでされてしまい(記事作成時点では削除済み)、「これは販売数を減らすことにつながった」とジゲーレさん。

ジゲーレさんはArelite Core用にカスタムエンジンを作成しており、これにより開発期間は6か月から12か月ほど延びたそうです。開発の途中、ジゲーレさんはXbox 360と互換性のあるMicrosoftのXNAフレームワークを利用することに決めますが、これが2014年に終了したためフレームワークの変更を余儀なくされており、これも製作の遅れにつながったとのこと。それでも、ジゲーレさんが作成したカスタムエンジンはRPGツクールなどのものよりも高性能でずっと多くのことが可能だったそうです。また、武器などを作り出すクラフトシステムや画面上での動的な敵との遭遇、独自のUIなどこだわりポイントは複数ある模様。

ジゲーレさんは多くのゲーム開発初心者と同じように、ゲーム中で探検するさまざまな場所や、遭遇するキャラクターやモンスターの多様性を生み出そうとしました。まるでファイナルファンタジーシリーズの作品を作っているかのようにノスタルジックな気持ちを現代のゲーマーたちに与えるべく奮闘したそうですが、その結果、製作期間だけでなくゲーム本編の内容も長くなります。そして開発費は8万5000ドルという想定外のものに膨れあがるわけですが、これにはゲームのプロデューサーとして働いた自身のスキル不足も大きく関わっているとジゲーレさん。


ゲーム開発中、ジゲーレさんはグラフィックを担当するグループやサウンドを担当するグループなど、少なくとも5つの異なるグループと連絡を取り合っていたそうです。キャラクター・モンスター・視覚効果のための静的な背景やアニメーションを製作するグループには、設定を伝えたり参考資料を提供したりし、仕上がったデータをまとめてゲームに組み込みテストするのがジゲーレさんの仕事でした。また、Arelite Coreの開発期間でジゲーレさんはなんと20人以上の候補となるアーティストと打ち合わせを行い、誰にゲームのサウンドを担当してもらうか熟考してきたそうです。これらの仕事は全て、ジゲーレさんが常勤のウェブ開発者としての仕事のかたわらにこなしていたものであることも注目すべき点。

これらの経験を通し、「チームを管理するために必要な作業を過小評価するのは簡単で、金銭による報酬が発生するとしても、信頼できる仕事をこなしてくれる相手を見つけることは難しいということがよくわかった」とジゲーレさんは記しています。ジゲーレさんが契約したアーティストの多くはパートタイムの愛好家だったので、サウンドデータの更新が散発的だったり、生産時間を過小評価するケースが多かったとのこと。また、もともと2015年に自身のゲームをリリースする予定だったそうですが、発注先から最終的なアートデータを受け取ったのは2016年中頃で、「自分の作品製作にかかる時間の見積もりが間違っていた」とも。


インディーズゲーム関連イベントのPAX East 2016で出展スペースを確保することに成功したジゲーレさんは、業界のさまざまな組織や人と出会うこととなります。このイベントでArelite Coreを展示したそうですが、あまり熱意を持って受け入れられることがなかったそうで、RPGなのでイベントの期間中にチラリと見た程度では作品の良さをすべて理解することはできないものの、イベントに参加するための移動費などは4000ドルを超えており、これに見合うようなものを得られなかったとジゲーレさんは記しています。

その後、少しでも多くの開発費を得るため、ジゲーレさんはArelite Coreの開発の様子をTwitch上で配信してユーザーからの寄付を募ります。ストーリーの核となる部分を巧みに隠しながら開発の様子を配信し、チャンネルの成長は遅かったもののそれなりのコミュニティが形成されたとのこと。ただし、Arelite CoreについてはTwitchで配信するには「あまりにも遅すぎた」とのことで、タイミングを逃してしまったことを悔いています。

Arelite Coreの失敗を予期していたジゲーレさんは、次のゲーム開発プロジェクトではよりうまくさまざまな物事を進めていけると考えていたそうです。そして、次のプロジェクトを実行するのに十分なリソースもあると考えていたとのこと。そして、これまでのウェブ開発者としてのキャリアで昇進した経験がなかったことから、12年間過ごした職場に別れを告げ、「ゲーム開発者としての未来に賭けることにした」とジゲーレさん。

もちろん退職前には可能な限り貯金し、ぜいたく品を取り払い、丸1年間はゲーム開発に専念できるように備えていたそうです。そして、トルコのインディーズゲーム開発者であるBora Genel氏と新しいゲームのプリプロダクションをスタートします。ジゲーレさんはArelite Coreのリリース日を2017年2月8日に設定しており、この日からGenel氏は新しいゲームの開発をUnityを使ってスタートする運びとなります。そして年が明け、ジゲーレさんは無事退職し独立系ゲーム開発者としての生活がスタートするわけですが、ジゲーレさんは「物語が本当に始まるのはここから」と意味深な文章を記しています。


2017年1月からついに完全な独立系ゲーム開発者となったジゲーレさん。ゲームをリリースしたあとはしばらくの間バグの修正などに時間をとられたそうですが、その間に次のゲーム開発プロジェクトはスタートします。実際にArelite Coreを遊んだプレイヤーはゲームを気に入ってくれたそうですが、売上は予想通り壊滅的でした。しかし、これもジゲーレさんの予想の範囲内だったので、次のゲームを開発するモチベーションにはさほど影響がなかったそうです。

そして、ジゲーレさんは2つ目に開発したゲームの「Astral Traveler」で、Arelite Coreで苦しんだ問題に直接対処しようとします。まず、開発コストを最小限に抑えるために開発期間を予定よりも3~4か月短縮。ゲームプレイに焦点を当てることなく、資産をそれほど必要としないよう設計します。そして、開発パートナーのGenel氏とタスクを分割することで、プロジェクトをよりスムーズに進めていけるよう計画。開発費を抑えたこともあり最終的に販売価格は5ドルに設定されます。

また、Arelite Coreでは開発メンバーやゲーマーたちがプロジェクトへの関心を深められるような情報共有がされていなかったので、Astral Travelerの開発ではTwitter上で素早く情報共有が成されます。また、業界関係者などに会う機会を設けるためにコミュニティなどに参加し、コミュニケーション部分を改善するために多くの時間を費やしたとのこと。Twitterでの情報共有の他に、DiscordやTwitchなどを使ってゲーマーなどの生の声を取り入れることで、プロジェクト全体の作業が改善され、「新しい機会が生まれた」とジゲーレさんは記しています。また、Twitchにはジゲーレさんの年収の25%以上を占める寄付を行ってくれたパトロンなどもおり、これは「運が良かった」と記しています。


ジゲーレさんはAstral Travelerの開発でリスクを抱えることをおそれ、ゲーム開発の初期段階にトレーラームービーとスクリーンショットを用意しました。しかし、実際にはゲームの開発中にゲームが進化していき、必然的に変更点も増加することとなります。ジゲーレさんによると、当初はトロンのような抽象的で派手なサイバー感のあるレースゲームを目指していたそうです。

ゲーム中に登場する敵やレーシング用の宇宙船を作成するため、プロジェクトでは3Dモデラーを雇うことを決めます。3Dモデラーの仕事は見事なものでしたが、製作にはまたもや予想以上の時間がかかり、必然的にコストも膨らみます。ジゲーレさんによると、「このエントリーを書いている段階ではゲームの売上では開発費をカバーしきれていない」とのことです。そして予定よりも数か月も開発が遅れている時点で、当初のイメージからゲームデザインが大きくかけ離れてしまっていることも発覚。これは開発パートナーのGenel氏とイメージ共有がしきれていなかったせいだそうです。

紆余曲折の後、Astral Travelerのリリース日は2017年9月13日に設定されます。当初はVR版のリリースなど多数の提案がされていましたが、そのことごとくが却下されます。モバイル版のリリースも予定していたそうですが、PC向けに開発していたためモバイル版をリリースするには多くの修正が必要となることが明らかとなり、「ゲームが成功した場合にモバイル版にも取り組む」ということとなります。

また、Arelite Coreのように、Astral TravelerでもTwitchでの配信を行います。これによりゲームは一定の注目を集めたそうですが、これは「Arelite Coreよりもはるかに悪くなっていた」とジゲーレさん。


「Astral Travelerの失敗はArelite Core以上に自分を傷つけた」とジゲーレさんは記しています。Arelite Coreでは周囲の期待が高まっていないことをリリースの1年前から知っていたそうですが、Astral Travelerは前作よりもずっと良くなっていると感じていたそうです。しかし、実際にリリースされたところAstral Travelerは他のレースゲームの中でもさほど目立つことがありませんでした。

しかし、Steamで定期的にリリースされる安価なゲームや無料のゲームの流行を察知したジゲーレさんは、Astral Travelerをリリースした翌月にArelite Coreの無料ダウンロードコンテンツ(DLC)である「Arelite Core:Lleana's Journey」の開発風景をストリーミング配信します。このDLCには複数のレビューも付いたそうですが、結局開発コストをすべてカバーするには至りませんでした。

また、ジゲーレさんがリリースしたいずれのゲームもインフルエンサーの興味を引くことはなかったというのも注目すべき点。何人かのゲーム配信者やYouTuberにメールを送ったこともあるそうですが、返事が返ってきたことはないそうです。

こういった教訓から、ジゲーレさんは事前に確立されているゲームジャンルやテーマを避ける必要性を感じているそうです。


Astral Travelerのリリースから1か月後、ジゲーレさんは次なるゲーム「Tech Support:Error Unknown」をストリーミング配信しながら開発することを決めます。このゲームはWindowsのようなUIのもと、テクニカルサポートの専門家となって顧客とのチャットや企業への脅迫などの問題に挑むというもの。ゲームではチャットウインドウを利用して顧客と対話。ストーリーが進むにつれて多くのことが可能となり、コマンドプロンプトからシステムをハッキングすることもできるようになるそうです。


2017年は控えめに言ってもジゲーレさんの人生の中で最も難しい年だったそうです。収入はそれまでの20%にまで低下し、リリースしたゲームのために毎週30~80時間もゲーム開発を続けたとのこと。もちろん地面が凍った寒い冬の日に通勤することもなく、自分の好きなタイミングで仕事をこなせば良いので朝早起きする必要もないのですが、週7日間にわたって毎日12時間以上働くこともあり、次のゲームこそ大きなヒットとなることを切に望んでいるそうです。

それでもジゲーレさんは独立系ゲーム開発者となったことによる特権を感じており、自身の開発風景を配信したりする中で集まった視聴者やパトロン、さらには友人や家族からも多大なサポートを得られた事に感謝しています。こういった人々のサポートがあるからこそ3つ目のゲームの開発を行えているわけですが、それでも2017年と同じような悪い結果を迎えて周囲の人々を落胆させるような状況に再び陥るのではないかとジゲーレさんは心配しています。

失敗は多くのプロジェクトにとって、学び、成長するためのきっかけとなるものです。ジゲーレさんが多くの業界関係者からさまざまな知見を得たように、自身の経験が他のゲーム開発者にとっての参考になればとしています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ゲーム会社から独立してインディーズゲームに参入したある開発者の教訓 - GIGAZINE

22年で22本ものゲームを輩出したインディーズゲーム開発者が語る成功への道 - GIGAZINE

一夜にして大金を稼いだゲームクリエイターたちが抱える苦悩 - GIGAZINE

半年間無名だったのに突然爆発的大ヒットで1日500万円を得たが消滅した「Flappy Bird」とは?そして人気絶頂でアプリを削除した作者へのインタビュー - GIGAZINE

in ゲーム, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.