人間の給与計算部門をまるごとクビにして入れ替えたIBMのシステムが820億円の損失を生み出す

By Ken Teegardin

カナダ政府は2008年、部門の人員コストを削減するために給与計算部門を廃止し、IBMから給与計算システム「Phoenix Pay System」を導入しました。しかし稼働したシステムは正常に職員たちの給与を計算せず問題となり、事態を終息させるために現カナダ政府が約10億カナダドル(約820億円)を投入する事態にまで発展しています。

Canada to Scrap IBM Payroll Plan Gone Awry Costing C$1 Billion - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-03-01/canada-to-scrap-ibm-payroll-plan-gone-awry-costing-c-1-billion

IBMからPhoenix(フェニックス)を導入する事業、通称「フェニックス・プロジェクト」は、2008年にカナダ保守党政権時代に、政府の給与計算を中央でコンピューターで集中して行うために実施されました。IBMは、Oracleのソフトウェアを使った給与計算システムのインストールと運営サポートをするデリバリー契約を受注しました。

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2015年に政権与党がカナダ保守党からカナダ自由党に替わることでカナダ自由党のJustin Trudeau氏が首相に就任し、数カ月後の2016年にシステムは稼働しました。しかし、このシステムは最初から正常に動作しませんでした。何人もの職員の給与の支払い額が多くなったほか、逆に給与が限りなくゼロになってしまった職員がいるなどの問題が起き、さらにこの問題を修正するためのリクエストが大量に送りつけられることで、問題は雪だるま式に大きくなりました。

カナダ国中で働いている26万人以上の連邦公務員の給与が未払いになるという懸念は依然として解決しておらず、問題への対処としていくつかの主要な財務上の決定を延期せざるを得ない状況です。職員たちは、さらに多くの問題が発生して給与が変化することを恐れて、昇進や退職を辞退しました。稼働して2年が経過した2018年では、一部の職員たちの給与にまだ問題が発生しており、最新の未処理データは38万件以上にものぼります。

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IBMはこの件に関して「フェニックス・プロジェクトの契約の義務は果たしており、ソフトウェアは意図した通りに機能している」との見解を明らかにし、「プロジェクトの問題を解決しようとする政権の取り組みに引き続き協力し、プロジェクト全体の成功に努めている」と述べました。一方で、システムのソフトウェアメーカーであるOracleの代理人は、コメントを控えました。

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政府職員の主要な組合の代表であるDebi Daviau氏は、この問題の責任に大部分は、システムの準備が整っていない兆候が目立っていたにもかかわらず、プロジェクトを運営していた政府高官にあると述べました。Daviau氏は、問題があるにもかかわらずIBMがプロジェクトを進めた理由と、契約で定められたとおりにシステムが稼働していないプロジェクトから利益を得たのかについても疑問を投げかけています。

Daviau氏はインタビューで、「企業というものはスケジュールが行き詰まり、追加の製品試験を無視する必要が起きると、IBMのように準備が整うまでプロジェクトを遅らせることを断固として許しません。その兆候を政府高官たちは良く知っておくべきでした。IBMは政府とサポートを含めた契約を結んでいるために、IBMは所定の契約内容を履行できていないにもかかわらず、請負契約を延期する可能性が生まれます。これにより、IBMにとっては『大金が転がり込み続ける』ことを意味します」とコメントしてます。

By Ken Teegardin

財務省理事会のScott Brison氏はIBMについて、「洗練されたグローバル企業であるIBMは、カナダ政府が単なる重要な顧客の1つであるだけではなく、この問題の解決のサポートをしない場合には企業としての評判を落とすリスク(レピュテーショナル・リスク)を抱えるということを認識する必要があるでしょう」と、IBMは給与システムの修正をサポートするべきと述べました。

この大失敗は、IBMのような大量の受注を得ている企業から21世紀のテクノロジーを政府に導入することが、どのくらい困難で、業務への危険と妨げにあたるかということを証明しています。ニューヨーク州アーモンクに本拠地をおくIBMは、全収益のうち、政府契約の収益で占められている割合を明らかにしていません。

IBMが給与システムのトラブルの火中にいたことは今回が初めてではありません。オーストラリアのクイーンズランド州でも、同様のプロジェクトを廃止して契約が解除される一件が起こっており、政府は10億オーストラリアドル(約820億円)の費用を負うことになりました。公的調査は主にオーストラリア政府関係者に責任を迫りましたが、IBMを事業者に選定するべきではなかったと断定しました。IBMは、2013年に調査結果の一部に異議を唱えました。

カナダのBill Morneau財務大臣は、前政権がフェニックス・プロジェクトを実装するために必要な社員を解雇するというミスをしていたということを発表しましたが、「これは非難を行うためのものではなく、物事を正常な状態にするためのものです」とコメント。2018年2月27日(火)にカナダ政府は、フェニックス・プロジェクトの中止と予算を凍結し、新たな解決策を見つけるために予算を充てることを開始すると発表しました。

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フェニックス・プロジェクトはもともと、全国のさまざまな部門で給与計算を処理する1200人の従業員を解雇し、政府給与の大部分を処理するためにフェニックスを採用してシステムの運用人数を500人に抑えて集中管理し、コストを削減することが目的でした。カナダ政府の会計監査部門の調査により、この部門に新しく雇用された人材の多くが教育不足であり、しかもオーバーワーク状態で働かされていたことが判明しました。インストールされているソフトウェアは、OracleのPeopleSoftをベースにして大幅に改修されたものですが、他の沿岸警備官や刑務所護衛などの独自のシフトに合わせた複雑な給与計算ができるようには改修されていませんでした。

IT専門調査会社IDCカナダ副社長Nigel Wallis氏は「フェニックスの失敗は、高価な新技術プロジェクトで、従業員の数を削減して予算を節約したい政府の典型例です。しかし、それを通して、その人々が必要な人材だったことが後になって判明しました」とコメント。Wallis氏は、「この給与計算システムのプロジェクトは、IBMでない他の企業も検討した上で、『複雑すぎる』と判断したために入札に至りませんでしたが、IBMは実行しました」とコメント。Wallis氏は、「短期的に予算節約になる見込みのプロジェクトというのは多くが幻想です。政府だけでなく、大規模な技術転換をする場合の大きな問題です。この事例だけに起こる必然だったと思わずに、真摯に受け止める必要があると思います」と特別な事例ではないということを述べました。毎年何千何万ものプロジェクトを調査しているIT調査諮問会社Standish Groupによると、民間と公共の間でテクノロジーを転換するプロジェクトの大部分は、失敗するか重大な課題に直面するとのこと。

By PROSalFalko

2018年2月28日(水)にカナダの野党の新民主党の代表が議会に立ち首相に質問しました。自分の選挙区に1人給与が4万カナダドル(約330万円)足りない人がおり、首相は何をしてきたのかを尋ねました。

Trudeau首相は野党の前野党政権が作ったフェニックス・プロジェクトの問題について「私たちはこの混乱を生み出しませんでした。しかし、私たちはそれを修正するつもりです」と述べました。

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