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映画界の巨匠スタンリー・キューブリック監督が繰り返し映画に織り込んだメッセージとは?


アメリカの映画監督であるスタンリー・キューブリックは、「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」「フルメタル・ジャケット」など、数々の有名作品を監督してきました。そんなキューブリックが「映画に込めたメッセージ」について解説したムービーが、YouTubeで公開されています。

You Know It's Stanley Kubrick IF...


キューブリックの映画は一枚の写真としても通用するような、非常に美しくインパクトのある映像が印象的です。しかし、それだけではありません。映画とは、画面を通して観客にさまざまなメッセージを伝えるもの。しかし、キューブリックの映画は他の映画とは一風違ったメッセージを、映画ならではの手法で観客に伝えます。


たとえば「バリー・リンドン」では、キューブリックはカメラを動かさないままズームインとズームアウトする手法を多用。登場人物が18世紀の絵画の中に閉じ込められているかのような効果を生み出し、バリーが閉塞した社会から抜け出せないというイメージを観客に与えます。


また、「シャイニング」でウェンディがジャックを閉じ込めたシーンで、カメラはジャックを下から見上げるように設定され、狂気に侵されたジャックを地獄の底から見上げるようなイメージを与えます。ジャックを下から見上げる観客は、ウェンディと同じく「ジャックに恐怖する側」の立場に置かれます。


「2001年宇宙の旅」のあまりにも印象的な、投げ上げた骨が宇宙船にオーバーラップするシーンは、ほぼ猿と同じ状態にあった人類最初の武器である「骨」が「宇宙船」に通じ、文明の結晶である宇宙船もまた武器であるというイメージを与えます。


かつてキューブリックはインタビューで「あなたがこの映画で伝えたかったことは?」と質問された時、「それが口で言えるなら、映画で伝えたりしない」と答えたといいます。キューブリックが映画に込めたメッセージは、キューブリック自身「映画でしか表現できない」と考えていたのであり、私たちは映画を見ることでメッセージを読み取るほかないのです。


「キューブリックは最も洗練された技法を使いこなす映画監督であり、同時に思想家でもありました。私たちはキューブリックの映画を見るとき、映画に込められたメッセージを読み取るために、一生懸命考えなくてはなりません」と語ったのは、エール大学の映画学教授であるMarc Lapadura氏。


キューブリックの映画は言語ではなく、映像によって伝える情報が多いのも特徴です。「2001年宇宙の旅」では、作中でフロイド博士は「月面クラビウス基地」へ向かったにも関わらず、博士の「クラビウスへ向かっている」というセリフに影響され「惑星クラビウスに向かっている」と誤解する人が現れました。この一件は、キューブリック自身がモーリス・ラブスとの対談で話題に出しているとことが書籍「メイキング・オブ・2001年宇宙の旅」に収録されています。


キューブリックは見る者があまりにも言語情報に頼りすぎていると批判しており、「2001年宇宙の旅」を見た子どもはフロイド博士が月へ行ったのだと正しく認識したと述べています。キューブリックが「なぜフロイド博士が月へ行ったと思ったの?」と子どもに尋ねたところ、子どもは「だって、月が出てきたから」と答えたとのこと。


キューブリックは映像の他、音楽によってもさまざまなメッセージを伝達しますが、「言葉は登場人物の主観に属する」というスタンスを取っていました。そのため、キューブリックの映画を読み解くには、映像を見て考えるというのが基本です。


また、キューブリックは映画の中で一点透視図法と……


左右対称なイメージを多用しています。これは観客に対し、人工的な不気味さと恐怖を強く感じさせます。


しかし、キューブリックの映画は非常に画面が美しいというのも特徴。「シャイニング」や「時計じかけのオレンジ」では非常に恐ろしいストーリーが描かれるのに対して、映像は感動を覚えるような美しさなので、観客はどこか非道徳的な感覚に襲われることになります。


「2001年宇宙の旅」で描かれる真円のイメージは、宇宙の神秘と発展しすぎた文明に対する恐ろしい感情を喚起します。


また、キューブリック作品に頻出する異質なコスチュームの登場人物は、非現実的な印象を強め、観客の脳を幻惑します。


キューブリックの映画は非常に寒色的なイメージが強く、美しい画面からも温かいイメージは排除されています。これは、人工的で野生の対極にある美を感じさせるものです。


親近感にもつながる「温もり」を排除しているのは、観客に対して不必要に温かい感情を与えず、あくまでも客観的に映画を鑑賞できるように配慮しているとも考えられます。


広角レンズにより広い画面を映し出す技法も、キューブリック作品にしばしば見られます。広い画面は私たちが実際にその光景を見ているかのような印象を与え、たくさんの情報を伝えるのに適しているとキューブリックは計算したのです。


光源が画面内に登場する「プラクティカル・ライティング」も、観客に画面の中の映像により集中させるために必要だと、キューブリックは考えていました。


キューブリックは画面の中の物体の配置、運動、光、背景など全てを計算し、完璧な画面を作り出しているのです。


キューブリックは映画を通し、ストーリーに関わらないメッセージを伝えていたともいわれています。一例として、「シャイニング」は「アポロ11号の月面着陸」をイメージしているとのこと。ダニーの来ているセーターはアポロ11号が描かれていて……


床のカーペットはアポロ11号が打ち上げられたケネディ宇宙センター第39発射施設をイメージ。


部屋番号が月と地球の距離「23万7000マイル」を想起させる「237」になっている、などです。


キューブリックの映画は非常に多くの解釈を生み出すことを許容する、あまりにもオープンなものになっています。そのため、中には全くのこじつけと思われる解釈も存在しているとのこと。


また、キューブリックはニーチェの影響を強く受けているとのこと。


キューブリックは永劫回帰と無限のイメージを多用し、映画のあらゆるシーンに繰り返しの映像や……


無限を暗示するモチーフが登場します。


「シャイニング」ではジャックの生まれ変わりをイメージさせ、前世が何度も画面にフラッシュバック。


「2001年宇宙の旅」では、高度に発達した人類もまた、猿と同じ行動を繰り返すことが示唆されます。


マルク氏は、「多くの映画監督は、映画の中で登場人物を成長させます。つまり、物語の中で登場人物が成長し、始めと終わりでは別人になっていることが多いのです。しかし、キューブリック作品は物語を終えた時点で、登場人物はその起源にまでさかのぼり、一周して戻ってくるのです」と述べています。


キューブリック作品に共通のブラックなユーモアも、観客を強く引きつけます。


時には強く宗教的なタブーにも踏み入り……


「時計じかけのオレンジ」では、登場人物が歌いながら蛮行におよびます。


戦争もまた、キューブリックがユーモアを強く打ち出したテーマになっています。ありとあらゆる皮肉に満ちた「フルメタル・ジャケット」のラストは、戦場を行進する兵士たちが「ミッキーマウス・マーチ」を合唱するシーン。


また、キューブリック作品は社会や文明、そして人間という存在自体のダークな側面を強く描き出しています。「シャイニング」「博士の異常な愛情」「フルメタル・ジャケット」「バリー・リンドン」など、いくつかの作品には希望がほとんど差し出されず、不条理な暴力や性的描写によって悲惨なイメージを観客に植え付けます。


「『突撃」『2001年宇宙の旅』は自己破壊の物語でもあります」とマルク氏は語ります。


作中で人間の残酷な側面を描き出しているキューブリックですが、決して人間嫌いであったわけではありません。「私は人間の進歩と可能性の能力を信じている」というキューブリック自身の言葉が、それを物語っています。


キューブリックは人間嫌いであったのではなく、人間や社会に対する「虚偽であるが受け入れやすい回答」を出さなかっただけなのです。


キューブリック作品は私たちにとって「受け入れがたい」メッセージを伝えてきますが、そこから目を離さず、幻想ではなく現実を直視することで見えてくるものがあるはず。悲惨に思える作品の中からも、何かしらの希望が見えてくるはずなのです。


「シャイニング」では最終的にウェンディとダニーはジャックの手を逃れ……


「フルメタル・ジャケット」の冷笑的な結末は、かえって私たちの中にある人間的な感情を喚起します。


「広大な闇の中であっても、私たちは自ら光を発するべきだ」というキューブリックの言葉は、キューブリック作品全体に共通するテーマ。


マルク氏は「キューブリック作品は一つの作品であっても、いくつもの次元でメッセージを送ってきます。そのため、時には不可解とも感じられるキューブリック作品ですが、しっかりと分析してみると繰り返し繰り返し同じメッセージを発しており、その手段として非常に多くのジャンルの映画を作っていたのです」と語りました。

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