ハードウェア

ロボットに「皮膚の感覚」を与えて自己再生&再利用可能な「人工皮膚」が発表される

By University of Colorado Boulder

組織の自己治癒が可能で、圧力や温度などのセンサーを内蔵できる人工皮膚(電子人工皮膚)を開発したことをコロラド大学ボルダー校の研究チームが発表しました。この電子人工皮膚はロボットの表面や人間の皮膚に沿って柔軟に貼り付けることができるので、ロボットアームが物を持った時の圧力を感知できるほか、人間の体が感じるように空気の流れや温度などを感知して送信・記録することが可能です。

Rehealable, fully recyclable, and malleable electronic skin enabled by dynamic covalent thermoset nanocomposite | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/4/2/eaaq0508

New malleable'electronic skin'self-healable, recyclable | CU Boulder Today | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/today/2018/02/09/new-malleable-electronic-skin-self-healable-recyclable

コロラド大学の研究チームが開発した電子人工皮膚は、一定の処理を加えると皮膚自身が治癒する「治癒能力」と曲面にフィットする「柔軟性」、そしてコストを抑えて環境負荷への軽減が期待できる「完全なリサイクル性」の3つを他にない特徴として備えています。


電子人工皮膚とは、センサーなど電子機器や電気回路などを内蔵した、柔軟な素材による人工の皮膚です。

皮膚より薄く超柔軟な基板&LEDを搭載して肌にシールっぽく貼れる電子人工皮膚(E-skin)が開発される - GIGAZINE


その柔軟性により、手の形などの複雑な曲面に貼り付けることが可能になり、ロボットや人間の義手などに「皮膚の感覚」を与えて感覚を記録することが期待されています。

By Loz Pycock

この柔軟性は現在の電子回路の主流であるプリント基板(PCB)が持っていない特徴。PCBの多くは硬質で平らな素材に電子回路を作るのが前提の技術なので、手や腕のような曲面上に電子回路を作ることは難しいとされています。

By ddewaele2000_test

PCBと比べて良いことずくめに見える電子人工皮膚ですが、大きな問題が2つあります。それは「コスト」と「性能」です。電子人工皮膚はシリコンやナノ粒子、ナノワイヤ、ナノチューブ、グラフェンなど有機トランジスタを使うことにより、柔軟でありながら電子回路を構築することができます。しかし、発展途上途上ということもあり、コストと性能を両立して作成するのが難しいのが現状です。


2017年にヒューストン大学から発表された電子人工皮膚は材料にゴムとポリマーを使うことで伸縮性を持たせているのですが、大量生産の時はコストを抑えるために研究中に使われた高度なポリマーをの代わりに「低コストで普通に流通している代替品を用いる」という方法を選択する予定です。

By University of Houston

一方で、今回のコロラド大学ボルダー校が発表した電子人工皮膚にも高度なポリマーが使用されています。しかし、素材の中には低コストで普通に流通しているものも用いられているので低コストでの生産が期待できます。

By University of Colorado Boulder

そして、発表された電子人工皮膚には低コスト化を可能にする特徴が、あと2つあります。1つ目は「素材の100パーセントがリサイクルで再利用できる」というもの。壊れたら電子人工皮膚をセンサーも含めて破砕し、素材と共にエチルアルコールに入れて混ぜあわせると、素材のポリマーの結合が解かれて材料として再利用できるほか、電子回路などに使われているナノ粒子レベルの銀は、溶液の底に沈殿するのでこちらも再利用が可能。


2つ目の特徴は、「人工皮膚が自己治癒する」というものです。少し切れ目が入ったぐらいの損傷であれば、セ氏80度ほどの熱を加えてプレスすると、元通りに戻ります。これらの特徴を生み出している要因は、素材に新開発の「共有結合のポリマー」と「ナノ粒子レベルの銀」を用いている点にあります。ポリマーの共有結合は、前述した処理の熱とプレスを加えると再び結び付くので治癒を可能にします。また、ナノ粒子レベルの銀は、再利用できるのでコストを抑えることが可能です。


この電子人工皮膚の開発にメカニカルエンジニアの1人として携わった助教授のJianliang Xiao氏は、今回の電子人工皮膚開発の意義について、「電子人工皮膚のが持つ唯一無二の特徴は、ポリマーからできたポリイミン化学結合が室温で治癒が可能で、材料を100%再利用可能なところです。毎年、世界では数百万トンの電子廃棄物が生み出されています。私たちの電子人工皮膚のリサイクル性は経済的、環境的に意味があります」と語っています。

By manowar064

コロラド大学ボルダー校Department of Chemistry and Biochemistry(科学・生化学学部)のWei Zhang氏は、「電子人工皮膚は人気映画『ターミネーター』に登場する悪役のアンドロイドの人工皮膚のようです。アンドロイドが車にひかれたり、強く殴られ、そして銃で撃たれてもすぐにで自己再生する映画のシーンのようです」とコメントしました。

By Dick Thomas Johnson

電子人工皮膚の特徴は他にもあり、「複雑な形の曲面に装着が可能」というものです。自然な皮膚に匹敵する超伸縮性と柔軟性があり、これにより人間やロボットの腕など複雑な曲面に装着できます。

By Lisa Moffatt

Zhang氏は次のように将来像を語ります。「例えば、ロボットに赤ん坊の世話をさせたとしましょう。そのロボットは指に装着された電子人工皮膚で赤ん坊の体の感触を感じ取り、赤ん坊の体の柔らかさに合わせてロボット自身の指を調節できます。この電子人工皮膚のアイディアは、生物の皮膚を電子人工皮膚の機能で実現しようと挑戦したものです」。

By Jeena Paradies

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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