女性が男性との競争に負けるのは「女性の意識」が原因か?


会社の出世競争では男性に比べて女性に不利なことが多いという「性に基づく格差」が厳然として残っており、これを解消すべきという意見が出されています。しかし、「競争」においては女性は男性に劣るという考えは根強く残っており、これを裏付ける数々の研究も出されています。そんな中、女性が男性よりも競争に向かないのは生まれてついての先天的な特性が原因ではなく、環境が作り出している「女性の意識」という後天的な原因にあるのではないかということを示唆する研究が発表されています。

What a game of chess can tell us about the gender gap | World Economic Forum
https://www.weforum.org/agenda/2017/01/what-a-game-of-chess-can-tell-us-about-the-gender-gap

「競争」において男性が女性よりも優位であるという研究は多くあり、これらの研究では競争に対する男性と女性の「反応」の違いが原因として挙げられています。スタンフォード大学の2003年の研究(PDFファイル)では、環境の競争圧力を高めれば高めるほど男性のパフォーマンスが向上したのに対して、女性のパフォーマンスは向上しないことが指摘されており、2007年の研究(PDFファイル)では女性は非競争環境であっても男性と一緒に作業を行うことを嫌がるということも報告されています。これらの競争における男女差の研究には、女性が生来的に競争を嫌っていたり、競争が苦手であると結論づけているものが多々あります。

しかし、女性が競争において男性よりも不利なのは先天的なものではなく、後天的な要因に基づくものかもしれないという研究報告も出されています。

Gender, Competition and Performance: Evidence from Real Tournaments by Peter Backus, Maria Cubel, Matej Guid, Santiago Sanchez-Pages, Enrique Mañas :: SSRN
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=2858984

ワーウィック大学のピーター・バッカス博士たちの研究グループは、チェスの世界での男女の実力の違いから、男性と女性の競争における優位性の原因を探りました。チェスのゲームは男女がまったく平等の立場で競える点、勝敗に運が与える影響がなく実力や能力が正確に反映される点、さらに実力を客観的に測れる指標であるレーティングが存在するという点で、競争に対する純粋な特性を推測するのにもってこいだと研究者は考えたわけです。


もっとも、チェスの世界にも男女間の格差は厳然として存在します。例えば、チェスの世界大会で戦う女性プレイヤーはわずか2%で、トップ100の中に入る女性は中国人チェスプレイヤーのホウ・イーファン選手のみだとのこと。アメリカに女性大統領が誕生するのが夢ではないとしても、女性のチェス王者が誕生するのは夢物語だというのが一般的な見解です。

チェス競技における男女間に存在する実力差を平均化して数値にすると「イロレーティングで15%低い」という評価になるとのこと。この差は歴然であり、1960年代に活躍したチェスプレイヤーのボビー・フィッシャーが「彼女たちは全員弱い。男と比べると愚かだ。女性はチェスをすべきでないね。まるで初心者のようだ」と言い放ったり、イギリスのチェスプレイヤーのナイジェル・ショート選手が「女の子たちはチェスをプレイする脳を持っていない」という女性蔑視の発言をしたりという状況を生み出してきました。


しかし、このような「チェスの世界で女性は男性に劣る」という固定観念こそが女性がチェスで上位に食い込めない原因であるとバッカス博士たちは指摘しています。バッカス博士たちの研究では、女性と男性の対戦者の性別によるパフォーマンスの違いに着目しました。ほとんど同じイロレーティングスコアを持つ女性同士の対戦では、それぞれのプレイヤーが勝つ確率は50%だったのに対して、相手が男性の場合、女性プレイヤーは相手がレーティングスコアが同じで同等の能力を持つにもかかわらず勝率は46%にとどまったとのこと。この勝敗結果はイロレーティングで30ポイント分のハンディキャップを女性が背負っていることに相当するそうです。

さらに、研究者たちは、世界トップの選手よりも能力が高いイロレーティング3000点のチェスマシンを使って、各試合における最も創造的な手が求められる試合中盤の要所でのミス(悪手)の割合を分析しました。その結果、女性は相手が男性の場合の方がミスを犯す割合が高いことがわかったとのこと。これに対して男性の場合、プレイの質は相手の性別に影響されなかったそうです。


この結果を受けて、研究者たちは「チェスの世界にはびこる、男性優位の固定観念が影響を与えている」という可能性を指摘しています。否定的な固定観念に苦しむ者はそれを避けようとする不安を抱いたり、固定観念を受け入れ追随したりすることが多いことが知られており、「男性の方が強い」という固定観念に女性が縛られてしまうことで、本当の能力を発揮できていない可能性があるとバッカス博士たちは考えています。

なお、男性のプレイの質が「ミスの割合」とは別のところで対戦相手によって変化することも研究者たちは発見しています。チェスの試合では負けが濃厚になった状況でギブアップをすることは潔く「紳士的」な振る舞いとして評価されるものですが、女性が相手の場合、男性は負けを認めるのを遅らせる傾向にあるそうです。

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