メモ

フランス革命時代に描かれた「稲妻」に隠された意味とは?

by Max LaRochelle

歴史の流れは単に年号や出来事を追うだけではなく、額縁の変化といった芸術や流行の移り変わりからも見て取れます。絵画などにおける「雷」の扱いからも権力や時代がどのように移り変わっていったかがわかるということで、アートや文学の歴史についてのメディア・The Public Domain Reviewがその変遷について解説しています。

Flash Mob: Revolution, Lightning, and the People’s Will – The Public Domain Review
http://publicdomainreview.org/2017/11/09/revolution-lightning-and-the-peoples-will/

雷は長い間、統治のシンボルとして描かれており、専制君主制の中では王室のシンボルとして使われることも。トマス・ホッブズが1651年に出版したリヴァイアサンでは、雷は王冠や大砲など専制君主制のシンボルと併せて描かれています。


しかし、フランス革命において「雷」はこれまでとは別の扱われ方をしています。1792年12月3日、革命指導者であり政治家のマクシミリアン・ロベスピエールは「民衆は判事のように法的な裁判によって審理しない。刑の宣告はない。雷のように落ちるのだ」と表明し、1793年1月21日にはルイ16世を処刑しています。つまり、これまでは「王が権力を示す象徴」であった雷が、王そのものを貫いた表現となっています。このことからもわかるように、雷は民意の表れとして使われるようになったのです。

また、「自由」を女性の姿で擬人化したイラストを見ても、雷を落とそうと拳を振り上げた女性の姿が描かれています。女性は、君主制を表現するよどんだ雲を散らして背後に光を背負っています。


同様の表現は以下のイラストでも見て取れます。このイラストは、1792年8月10日に民衆と軍隊がテュルリー宮殿を襲撃してルイ16世やマリー・アントワネット国王一家を幽閉した8月10日事件を寓話化しているものですが、雷はジャコバン派の別名である「山岳」から、雲を引き裂いて落ちています。


そして、自由に解き放たれていた雷は、その後、カエルやヘビに向かう形で描かれだします。これらの生き物は、侮蔑的に「沼地」と呼ばれることがあったジロンド派を表しているもの。以下のイラストではジャコバン派が天国から得た雷を、山のふもとにいるカエルやヘビに向けています。


上記のイラストからもわかるように、革命派は民意を雷、つまり「自然の力」だと捉えていました。雷は、実際に解き放たれるまで見ることはできませんが、一度放たれれば、劇的・絶対的である光が現れます。

そして時が経るにつれ、雷というモチーフは、次第に革命の推進を行ったジャコバン派への批判においても使われるようになります。以下のイラストではジャコバン派が生きた人々を死へと導くゾンビとして描かれていますが、人物の向こう側にはバスティーユ牢獄に降り注ぐ雷が描かれています。王から革命派の人々の手に渡った雷が、今度は反革命派のメッセージとして使われるようになったわけです。


雷が民意のシンボルとして選ばれたのは偶然ではありません。当時は科学が急速に発展しており、フランス革命は「科学者の革命」と呼ばれるほど、科学と縁の深いものでした。革命指導者であり医師でもあったジャン=ポール・マラーもまた、電気に関する論文を発表した科学者です。1783年、マラーは家に避雷針を取り付けたのですが、避雷針があるせいで自分たちの家に雷が落ちることを心配した村人たちがマラーに避雷針の撤去を依頼。最終的に裁判にまで発展し、科学の名のもとにロベスピエールが弁護を行うことで、勝利を収めています。この勝利によってロベスピエールは弁護士としての評判を上げました。

また、ロベスピエールは、凧を用いた実験で雷が電気であることを明らかにしたベンジャミン・フランクリンともつながりがありました。酸素の発見者でもあり雷についての研究を行っていたジョゼフ・プリーストリーも革命で多忙な国民公会が時間をやりくりして関わりを持った人物の1人です。

フランスの革命派は、自由への戦いと科学の間に深い関係があると見なしていたからこそ、フランクリンやプリーストリーという科学者に心酔しました。プリーストリーは、イギリスにいながらフランス革命を支持したことで政治的疑惑を引き起こし、アメリカへの移住を余儀なくされたほど。革命・暴動・科学・啓発がそれぞれ同時に進行したからこそ、上記のように「雷」というモチーフの意味が時代とともに変化していったわけです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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