取材

世界初のVR長編アニメ「Project LUX」の生みの親、「狼と香辛料」の支倉凍砂トークショー


電撃文庫のライトノベル「狼と香辛料」の作者・支倉凍砂さんが個人サークル「Spicy Tails」にて製作したVRコンテンツ「Project LUX」。2017年春に発表された「Project LUX」は世界初の長編VRアニメーションということで、今やVRコンテンツクリエイターの第一人者となった支倉さんのトークショーがマチ★アソビ vol.19で行われ、VRのこと、「Project LUX」のこと、「狼と香辛料」を含めた作家業全体のことについて、とても明け透けなトークを聞くことができました。

マチ★アソビ
http://www.machiasobi.com/events/index.html

Spicy Tails
http://spicy-tails.net/index2.html


ufotable CINEMAエントランスで行われた「『狼と香辛料』支倉凍砂氏が挑む新世代VRとは!? トークショー」には、場を埋め尽くすほどの人だかりができていました。

現在トークショー中です!有野さんProject LUX体験中!#徳島VR映像祭 #マチアソビ pic.twitter.com/Uqd8RL4YFn

— 【公式】徳島VR映像祭 (@Tokushima_VRfes)


司会は徳島出身のオタク起業家、VRコンテンツを扱う「MyDearest」代表の岸上健人さんと、VR体験大好きであることとから揚げニストであることを自称する女性声優の有野いくさん。

トークショーのはじめには、スクリーンで「Project LUX」のPVが上映されました。ヒロインの声優である田中あいみさんによる主題歌「夏の境界」も流れ、会場は釘付けに。


「『狼と香辛料』支倉凍砂氏が挑む新世代VRとは!? トークショー」は西日本最熱のVRイベントを自称する「徳島VR映像祭」の一環として行われています。主催の岸上さんはVRのファンであるのはもちろん、支倉さんの大ファンでもあるということで、熱のこもった質問が繰り返されました。「『狼と香辛料』のヒットでお金あるのに、なぜ同人制作でVRを?」との質問に、支倉さんは「お金はない」と前置きしつつ、「TYPE-MOONが儲けているからああなりたい」とぶっちゃけるなど、ざっくばらんなトークもチラホラと。

「なぜVRの物語を作ることにしたのか」という質問には、プログラムは「Hello world」しかわからないと笑いを誘いつつ、理化学研究所の藤井直敬さんによるSR(代替現実)システムの本「拡張する脳」を読んで、その日のうちに研究所にメールし体験させてもらった際に、二次元に入ることができる装置だと感動したことが一因だと答えた支倉さん。2016年がVR元年だと喜んだのに、ゾンビやFPSのゲームばかりで萌えがなかったので「自分で作ってやろう」という気持ちになったそうです。


最初に「Project LUX」が販売されたタイミングで早速購入し体験したという岸上さんから、より詳細な質問が投げかけられました。「『Project LUX』の舞台である近未来の設定の着想はどこから?」という質問では、VRには視点の問題があり、主観だと「自分はだれだ?」となってしまうし、客観的なら疎外感がありしらけてしまうこと、入力の問題についても、コントローラを接続することはいくらでもできるけど、複雑になると家で簡単に体験できなくなる、という問題点を指摘。VRが常に抱えるそうした問題を順番に解決していこうとした結果、近未来の設定が細かいところまで完成していき、雰囲気を考えてファンタジーではなくSFにした、とのこと。

「今後エンタメとしてVRは流行するか?」という質問には、「現状は厳しい」と苦い顔。スマートフォンで満足できるような形ならば光明もあるものの、高価なデバイスはやはりハードルが高すぎるようです。ヘッドマウントディスプレイが重い、暑い、面倒の三重苦であることも難しい理由だと話されていました。


時間が半分過ぎたところで質疑応答コーナーにうつり、「Project LUX」やVRのことに限らず、作家・支倉凍砂に対する質問がひっきりなしに交わされました。「狼と香辛料」は貨幣を中心に舞台設定がかなり詳細であることを指摘し、どのように細かい着想を得ているのかと質問がされました。支倉さんの答えでは、「Project LUX」の近未来設定と同じように、詳細な設定は後から詰めていくことがほとんどとのこと。まずキャラクターを動かして、たとえば「馬車に乗せたい」というイメージが先行してから、馬車が通るための道だとか、街と街の間にある検問だとか、手に触れるところから世界観を構築していくのだそうです。

また同様に「あそこまで詳細な世界設定を作ってあるのが驚きです」と感嘆を交えた質問がなされると、支倉さんは「普通です。書くんです」と答えたのち、「狼と香辛料」がどのように執筆できたのか今考えてもわからないとぶっちゃけました。いわく、ネットゲームにはまって大学をサボり続けていたころに小説を1月に1本という驚異的なペースで書き続けたそうで、「後がなかったから」というのが源流とのこと。「小説を書き続ける辛さは、大学をサボって引きこもる精神的な辛さに比べたら平気」「久々に実家に帰ったら親が引きこもり対策の本を購入していた」などの開けっぴろげなトークで会場は笑いに包まれました。

「Project LUX」と同じく個人サークル「Spicy Tails」で製作されたノベルゲーム「WORLD END ECONOMiCA」についても質問がありました。「WORLD END ECONOMiCA」は株式市場の話をガッツリとテーマにした作品なのですが、「なぜ株をテーマに」との疑問が投げかけられます。支倉さんは「お金を持っている人の破天荒な話が好き」と言いつつも、「狼と香辛料」の賞金で株をはじめ、家賃以外全部つっこんでいたという過去を暴露。リーマンショックの後に1500万円の損をしそうになった時、「これはいつか物語にしなくては」と思ったそうです。体験してみたいとわからない感覚というものがあったとか。


観客からの質問に支倉さんが一通り答えたのち、岸上さんから「どうしても聞いておきたい」と熱意のこもった前振りの後、「『狼と香辛料』はVRにしないのか」という質問がなされました。支倉さんが「既に考えている」と答え会場は「おおっ」と期待にざわつきます。しかしそこは大人の事情があるようで、アニメの制作委員会にお金を払えばいけるとのことながら、解決しなければならない問題は多いとのこと。とはいえ、やる意思も実現可能性もあるようで、さらに「やるからにはちゃんとしたアニメーションを」という夢のある言葉もあり、集まったファンが期待に胸を膨らませたところでトークショーは終了しました。

最後に撮影された集合写真。左から岸上さん、有野さん、支倉さん。有野さんと支倉さんが抱えているぬいぐるみは、徳島VR映像祭に協賛するひかりTVのマスコットキャラクター・ひかりカエサルです。

#徳島VR映像祭 フルダイブトークショー公演終了(⑅˃∀˂⑅)/
『Project LUX』ステージ
左から→徳島が産んだオタク経営者 岸上健人さん、有野いく、狼と香辛料の作家でもある支倉凍砂さん VRの制約の中で世界観を産み出したとか、自身の株の体験か文字数 #マチアソビ pic.twitter.com/Qp582VWe6x

— 有野いく@北海道上士幌 (@iku_arino)


「Project LUX」は以下のリンクにあるSteamのページで購入できます。そのほかネットカフェなどでVR体験ができる施設設置型VRコンテンツプラットフォーム「VIRTUAL GATE」でも気軽に体験できるほか、PSVRにも配信する予定とのことです。

http://store.steampowered.com/app/574140/Project_LUX/


また、マチ★アソビ vol.19で一連のVRイベントを主催されたMyDearestのFullDive novel「Innocent Forest」もVIRTUAL GATEおよびスマートフォン向けVRデバイスGear VRで配信中です。「Project LUX」と「Innocent Forest」は、VRに興味がある人もアニメ・ビジュアルノベルが好きな人も、一度は体験してみるのもアリなはずです。

FullDive novel: Innocent Forest

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in 取材,   アニメ,   ゲーム, Posted by log1e_dh

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