空気の泡に覆われた鉄球が水に沈むと水の抵抗が激減することを科学者が実証


水を張ったプールの中に鉄の玉を落とした時、普通は水の抵抗の力を受けることで鉄球は一気に沈まず、ある程度の速度で底へと落ちていきます。しかし、ある研究チームが行った研究では、特殊な表面処理を施した鉄球を一定の条件の下で水の中に落とすと、鉄球が泡のような空気の層に包まれることで、水の抵抗がほとんどなくなって速いスピードで沈んでいくことが実証されました。

Hydrodynamics researchers demonstrate objects sinking in water with zero drag
https://phys.org/news/2017-09-hydrodynamics.html

この研究は、メルボルン大学とサウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学などの科学者らによって行われています。実施された実験は一見すると単純なもので、直径2cmの鉄球を水を満たした深さのあるプールに落とすというものですが、ある条件を満たした場合には空気の泡に包まれた鉄球がそのままプールの底へと沈んでしまい、その速度は通常の計算値に比べて10倍にも及んでいたとのこと。つまり、普通はあるはずの「水の抵抗」が鉄球を包む空気の泡によって大きく軽減されるという現象が確認されました。

単に水の中に鉄球を落とすだけなら簡単な実験ですが、実際に研究チームはこの現象を確認するまでに何年もの時間を費やしたとのこと。その難しさは、この現象を生みだす条件を見いだすところにあったようです。研究チームは「あらかじめ過熱して高温にしておいたもの」と、「表面に超疎水処理を施しておくもの」の2種類の鉄球を用意して、実験をスタートしたとのこと。

研究チームは、鉄球をまずセ氏400度という高温に加熱し、さらに、鉄球を沈める水を沸騰寸前のセ氏95度にまで温めておきました。この状態で鉄球が水に落とされると、400度の鉄球が95度の水に触れ、一瞬で接触面の水が沸騰して気体に変化して水蒸気が発生。すると、この水蒸気が水と鉄球の間に薄い層を作り、水と鉄球が触れることを防ぎます。そして、鉄球が落ちると同時にこの現象が連続的に起こることで、水の抵抗が大きく減少することが確認されたとのこと。


この現象は、高温に加熱したフライパンの上に水を落とすと、発生した水蒸気によって水滴が浮かび上がり、水がなかなか蒸発してしまわないようになるライデンフロスト効果が水の中で起こっているもの。鉄球によって水は過熱されますが、それによって一瞬で生じた水蒸気によって水と鉄球がほとんど接触しない状態がおこるという連鎖反応が続いているというものです。

By Jesús GR

もう一つの鉄球は、表面に水をはじく「超疎水処理」を施してあります。これは、いわゆる「はっ水加工」と呼ばれるものと同じで、この処理を施された物体は表面に水が付いても留まらずに滑り落ちてしまいます。研究チームは、自動車のサイドミラーの水滴防止用品として販売されているガラコ ミラーコートZEROを鉄球にスプレーしてはっ水加工を施すことで、低抵抗状態を生みだしています。研究チームの一員であるデレク・チャン博士は「この方法の優れている点は、水が室温と同じ常温にあっても効果が生まれる点にあります」と語っています。

キング・アブドゥッラー科学技術大学のイワン・バカレルスキ博士とシーグルドゥル・トーロッドセン博士は、水の抵抗を減らす方法はほかにもあると語ります。たとえば、ゴルフボールの表面にある凹み「ディンプル」が空気抵抗を減らす効果を持つことはよく知られているほか、水中を進む物体の前から細かな空気の泡を放つことで、水の抵抗が減ることも知られています。これらの方法によって抵抗が減少する現象は、水や空気などの「流体」が物体のまわりを流れる様子を変化させることで実現されるとのこと。ここで重要になってくるのが、物体と流体の間に存在する「境界層」の存在です。

By Peter Drach (aka PeteDragomir)

研究チームが最初に行った鉄球による実験では、1mm程度の水蒸気による「境界層」を作り出すことができましたが、これによって軽減される水の抵抗は10~20%程度にしかならないとのこと。さらに多くの抵抗軽減を実現するため、研究チームはこの方法を突き進めることにしました。次に研究チームが進めたのが、鉄球を落とす高さによる空気層の変化。すると、最もうまく大きな空気の泡を作り、しかもその泡がより長く維持される高さの領域が存在することが明らかになってきました。

物理学の世界には、「静止している理想流体中に物体を等速直線運動させたときに、物体には抵抗力が働かない」というダランベールのパラドックスと呼ばれる有名なパラドックスが存在しています。これまで、ゴルフボールのような複雑な形状を持つ物体に対する流体の流れを数式で証明することは非常に困難だったのですが、今回の実験によって、より単純な形状を持つ球体に対する流体の動きをシンプルな数式の理論的モデルで表現することが可能になるとのこと。これにより、船舶の水による抵抗を軽減する研究がより進むことが期待されています。

現在でも、船舶の表面に沿って微小な空気の泡を流すことで境界層を作り、抵抗力を軽減する技術は開発されていますが、船底の表面を超疎水処理することで表面に薄い空気の膜を作り、さらなる抵抗軽減を狙うことも可能になってくるようです。

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in サイエンス, Posted by logx_tm