シリコン半導体技術を活用して量子コンピューターのキュービットを作り出せる新技術「Flip-flop qubit」


古典的なコンピューターがビットからなるメモリを使っているのに対して、量子コンピューターでは「0」と「1」だけでなく、「0と1の重ね合わせ」も扱える「qubit(量子ビット)」を用いることで、理論的には古典コンピューターで数百万年かかる宇宙の進化のシミュレーションを数時間レベルに短縮できると考えられています。その量子コンピューターの鍵となる量子ビットを、従来の半導体技術を応用して容易に制御できる技術「Flip-flop qubit」をオーストラリアの研究者が科学誌Nature Cmoomunicationsで発表しました。

Silicon quantum processor with robust long-distance qubit couplings | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-017-00378-x

‘Flip-flop qubit’ could allow for mass manufacture of quantum computer chips | E&T Magazine
https://eandt.theiet.org/content/articles/2017/09/flip-flop-qubit-could-allow-for-mass-manufacture-of-quantum-computer-chips/

従来のシリコン半導体の製造システムを流用して量子コンピューターを製造可能な「Flip-flop qubit」のメカニズムがどのようなものなのかは、以下のムービーで解説されています。

Flip-flop qubits: a whole new quantum computing architecture - YouTube


「量子コンピューターは決して世界最速のコンピューターというわけではありませんが、コンピューター同士が双方向に作用できるコンピューターです」と述べ量子コンピューターの可能性を指摘するのは、「Flip-flop qubit」を開発したオーストラリアのサウスウェールズ大学(UNSW)のGuilherme Tosi博士。


量子コンピューターは「キュービット(量子ビット)」と呼ばれる、従来型のコンピューターとは異なる量子情報の最小単位を持ち、量子コンピューターでは複数のキュービットを用いて動作します。すべてのキュービットを個別に制御したり、互いに作用させたりするための巨大なアレイの構築は、量子コンピューターの実用化にとって大きな難題となっています。


「私たちのチームは、固体状態の単一キュービットとしては記録的な性能をもたらすキュービットの製造方法を確立させました」と、UNSWのAndrea Morello博士は述べています。


一般的な半導体はシリコンベースで製造されています。


UNSWの研究者は、一般的なキュービットの素材であるリン原子をシリコン内に打ち込んでキュービットを製造します。


リン原子をシリコン層に配置することで、キュービットを安定的に制御することが可能になるとのこと。


打ち込んだリン原子による原子核と電子によってキュービットが作り出されます。


キュービットを相互作用させて量子コンピューターとして機能させるためには、キュービットを原子サイズで配置するのが不可欠で、これが量子コンピューターの製造の難所となっています。


以下の図は、UNSWの研究者の開発した「Flip-flop qubit」におけるシリコン内に打ち込まれたリン原子と対となるゲートを示したもの。


Flip-flop qubitは従来型技術よりもはるかに長い距離の間でキュービット同士を相互作用させられるため、原子レベルでの配置は不要になります。


量子コンピューターのキュービットでは、電子を「ダウン」に、核を「アップ」にすることで、「0(ゼロ)」を表すというように、電子と核の状態を量子情報に符号化することが可能。


逆にすれば「1」を表現することもできます。


Morello博士によると、Flip-flop qubitではリン原子から電子だけをゲートで引き上げて原子核から引き離し、均衡する電子を振動させることができるとのこと。


すなわち、磁力ではなく電力を使うことでシリコン内でキュービットを制御することが可能になるというわけです。この制御自体は従来のシリコン半導体の制御方法と変わらないため、キュービット制御が従来の量子コンピューターよりもはるかに簡単だとのこと。


また、キュービット自体が、他のキュービットに影響を与えるレベルの電界(電場)を作ることが可能。


一般的なシリコン半導体回路のスケールで、相互作用するキュービットを生み出せるとTosi博士は述べています。


「原子レベルでの配置コントロールが不要になるFlip-flop qubitを使えば、従来のシリコン半導体技術を活用して量子コンピューターを作り出せるため、シリコン量子コンピューターにおける技術的なシフト(変革)になります」とMorello博士は述べています。


量子コンピューター研究で世界をリードするIBMの量子コンピューターは16キュービット、Googleの量子コンピューターは9キュービットですが、UNSWの研究チームは2022年までにFlip-flop qubitを使った10キュービットの量子コンピューターを試作する予定です。

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