一部の自転車乗りが街中でブレーキを持たない自転車に乗る理由

By Mark Jensen

自転車の前後輪にブレーキを付けずに公道で走行することは違反行為であるうえに、止まりきれずに衝突することで自分以外の人や物に危害を加えるということで日本でも問題になっています。イギリスでも、ブレーキなしの自転車にはねられた女性が死亡したことをきっかけにブレーキなし自転車への批判が沸き上がっているのですが、なぜ一部のサイクリストはそのような自転車に危険を冒してまで乗ろうとするのか、BBCが取材をもとに報じています。

'Why I ride a bike without a brake' - BBC News
http://www.bbc.com/news/uk-41036581

イギリスでは2017年、二児の母親であるキム・ブリッグスさんがブレーキ未装着の自転車に横断歩道ではねられ、頭部へのけがが原因で事故から一週間後に亡くなるという事件が起こりました。自転車を運転していたのはチャーリー・アリストンという20歳の男性で、「わがまま、または激しい運転」で被害者の身体にけがを与えたことで有罪となっています。アリストン氏は事故直後、自分が起こした事故を正当化する内容をSNSに書き込んでいましたが、後にこれを削除したとのこと。

事故当時のアリストン氏が乗っていたのが、自転車の後輪が空回りせず、ペダルを止めると後輪も止まるタイプの「フィクシー」、または日本では「ピスト」としてよく知られる自転車。さらに、前輪にはブレーキが装着されていなかったことがわかっています。事故直後から、ブレーキのない自転車に乗っていたことでアリストン氏を批判する声が殺到。ブリッグスさんは、ランチ休憩で外出するために横断歩道を渡ろうとしていたのですが、どうやらその時はスマートフォンを操作していた模様。そこに、アリストン氏がブレーキなしのピストに乗って走ってきて、ブリッグスさんをはね飛ばしました。ブリッグスさんにもスマートフォンを触って安全確認を怠ったという落ち度はあると見られていますが、もしブレーキが付いていれば衝突は避けられたはずだとして、アリストン氏の行動には批判が集まりました。

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BBCは、同様の自転車に乗る人物に取材を行い、なぜそのような自転車に乗っているのかをインタビューしています。匿名を条件にインタビューに応じた「マイケル」と名乗る27歳の男性は、自転車で文書などを配達する「メッセンジャー」と呼ばれる仕事をしており、自身もブレーキなしのピストに乗って毎日の業務を行っているとのこと。マイケルさんは、この事件を境に、自転車乗りに対する街じゅうの空気が一気に厳しいものになったと語っています。

マイケルさんは「他のメッセンジャーに聞いても、みんなピリピリした空気を感じているし、歩行者からの見られかたが変わった、と言っている。ここ数週間というもの、どのメッセンジャーに会ってもまずこのことについて話すようになった」と語っています。マイケルさんは毎日9時間から10時間にわたってメッセンジャー業務をすることで生計を立てており、街じゅうをすり抜けていち早く荷物を届けることが彼にとって最も重要な作業となっています。

前述の通りマイケルさんはブレーキなしのピストに乗っていますが、これはやはりイギリスでも違法行為にあたるとのこと。ピストそのものは違法車両ではありませんが、2つの車輪にブレーキが備わっていない自転車は違法なものとなります。しかしマイケルさんは、この事件が起こるまで自分の行為が違法であるとは認識していなかったとのこと。主に若者がブレーキなしのピストに乗ることについてマイケルさんは「慣れるまでに時間がかかる」としながらも、「そのような自転車に乗る理由は、自転車をコントロールできることに対する感動がある。ロンドンじゃ、ピストに乗ってもすごいスピードで走れるわけでもないし。自転車の乗り方じゃないんだよ。毎日何時間も乗っているメッセンジャーには、その能力があると思う」と語ります。

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しかし、そんなマイケルさんですらも「前輪ブレーキがあれば、もっと早く止まることができると思う」と認めています。

妻を失ったマシュー・ブリッグスさんは、なぜ彼らは他人の命を危険にさらしてまでそのような自転車に乗るのか、と疑問を呈しています。しかし一方のマイケルさんはそのような危険はないと考えており、「もし誰かを危険にさらすのなら、そんな自転車には乗らない」と答えたとのこと。マイケルさんはブレーキなしのピストに乗ることは「エキサイティング」で「楽しい」とし、彼の同業者たちのメッセンジャーはロンドンで最も鍛えられたサイクリストだ、と語ったとのこと。

マイケルさんはこの事件を機に、自転車にブレーキを付けることを考えているとのこと。しかしその理由は「危ないから」ではなく「警察に見つかると厄介だから」というもの。マシューさんは、メッセンジャー会社は社員にブレーキの装着を義務付けさせるべきだと訴えていますが、マイケルさんは「メッセンジャーの多くは個人事業主だから、効果は薄い」と話しています。

平行線をたどる両者の言い分ですが、イギリスの自転車界はブレーキなしのピストについて厳しい見方を示しています。自転車団体「Cycling UK」のダンカン・ドリモア氏は、前輪ブレーキなしで混雑した市街地を走ることを「バカがすること」と批判しているほか、ロンドン市内にある自転車乗りが集まるカフェ兼ワークショップ「Look Mum No Hands!」のジョシュ・レーン氏はBBCラジオ4の取材に対し、ピスト乗りは他人のことよりも「自分の安全のことしか考えていない」と厳しい意見を語っています。

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レーン氏も自らピストに乗っていますが、そのバイクには前輪ブレーキが取り付けられているとのこと。そんなレーン氏は、ちょうど日本の車検制度のように、自転車を定期的に点検する仕組みを備えるべきだと指摘しています。しかしマイケルさんは、世間がブレーキにばかり執着していると語ります。

マイケルさんは「もし、アリストン氏がブリッグスさんに当たらないように自ら倒れたとして、その後に後ろから来たバスにひかれてしまっていたらどうなっていただろうか。恐るべき事故だ。歩行者はいつも、私たちの目の前に飛び出してきておきながら、私たちが止まることを期待する。もっと歩行者に対し、自転車とどう対応するか教育が行われるべきだ。法律の面からも、サイクリストに対してもっと良い環境を整えるべきだ」と、サイクリスト目線からの問題点を挙げています。

そう語るマイケルさんですが、一方では「たとえ間違った行動をしていたとしても、歩行者には道路上で優先される権利がある」とも認めているとのこと。ブリッグスさんの事故を分析した担当者によると、もしアリストン氏のピストにブレーキが備えられていたら、事故を起こさずに停車できていただろうと判断しています。アリストン氏に対する判決は、2017年9月18日に言い渡されることになっています。

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in 乗り物, Posted by logx_tm