動画

「ゲイの遺伝子」は存在するのか?

by NASA's Marshall Space Flight Center

アメリカでは2015年に同性婚が認められ、2017年5月にはアジアで初めて台湾でも同性婚が容認されました。一方で宗教的、あるいはその他の理由から同性愛そのものに反対する人もいます。では科学の側面から見た時に、「ゲイであること」には遺伝子上の理由があるのか、そして「ゲイの遺伝子」は誰しもが持っているものなのか、YouTubeの科学チャンネルAsapSCIENCEが解説しています。

Does Everybody Have A Gay Gene? - YouTube


1993年にScience誌で「同性愛者は異性愛者に比べて、同性愛者の親戚が多いこと」「兄弟ともにゲイである場合、両者のX染色体に類似の関係が見られた」という内容が発表されました。ディーン・H・ヘイマー氏らによって発表されたこの研究は「ゲイの遺伝子」として話題になりましたが、ヘイマー氏らは「同性愛の遺伝子が見つかったわけではない」と注意を促しています。


また、2015年には両者ともにゲイである兄弟409組を対象に研究を行ったところ、 染色体Xq28および8染色体に類似の関係が見つかり、男性の性的指向の発達に遺伝子が影響を及ぼしていると結論づけられました


さらに2014年には過去50年間に行われた研究結果の分析が行われ、ゲイの男性はストレートの男性に比べてゲイの兄弟がいることが多く、レズビアンの女性はレズビアンの姉妹がいることが多いという内容が発表されています。


しかし、「ゲイの遺伝子」が実際に存在するのであれば、そこにはパラドックスが存在します。子どもを持つ同性愛者も存在しますが、同性愛者の80%は異性愛者に比べて子どもが少ないので、子どもに遺伝子が受け継がれずに同性愛者は絶滅してしまっているはずでは?というわけです。


この点に関連して、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ではエピジェネティクスの研究で、「全ての人はゲイの遺伝子を持っているが、メチル基が特定の場所のDNAにくっついて遺伝子が『オン』になるかどうかで同性愛が発現するかが変わる」という内容を発表


エピジェネティクスとは「遺伝子が表現型を作るために周辺環境とどのように相互作用するのか」ということを言い表した用語で、研究者によって定義が異なることもあります。例えば女王アリが卵に与える餌やフェロモンの量によって、幼虫の遺伝子が変化して働きアリになるか兵隊アリになるのかが変わるのが、エピジェネティクスの例。


UCLAの研究は同性愛者の双子と異性愛者の双子を対象にしたもので、特定のメチル化パターンと性的指向との関連性が高いことが分かりました。唾液から採取したエピジェネティックマーカーと呼ばれる遺伝子情報を分析することで、その男性がゲイなのかストレートなのかを70%の正確性で予測できるとのこと。ただし、この研究は「被験者が少なかった」という点が指摘されており、発表された内容は議論を呼んでいます。


つまり、ここまでの研究から言えるのは、特定の「ゲイの遺伝子」はいまだ発見されていないということ。一方で、人間の性的指向が遺伝子と強く結びついていることを示す証拠はいくつかあり、性的指向に関する遺伝子は分子レベルで制御されていると多くの科学者が考えています。


たとえば、すでに男の子を産んだ経験のある母親が次に男の子を産んだとき、この次男が同性愛者になる確率は人口全体のベースラインよりも33%高いとも言われています。ただし、長男が別の母親の子どもだった時、このような傾向は見られません。


上記の事実から研究者は、男の子を妊娠することが生物学上のメカニズムのトリガーになり、母親の次の出産に影響を与えているのではないかと考えています。メタアナリシスによっても統計的に同性愛者の男性は異性愛者の男性よりも兄を持つ確率が高いとわかっています。


さらに、子宮の中で高いレベルのテストステロンにさらされた女性は、異性愛者ではなくなる可能性が高いとのこと


また「ゲイの叔父さん仮説」では、同性愛者は自身では子どもを作らないものの、次世代の子どもたちに食べ物や安全な場所、守りの目などを提供することで、間接的に家族の遺伝子が繁栄することの助けになっているのではないか?ということが説かれています。


ゲイの男性は敵意のレベルが低く、協力性・思いやり・感情的知性のレベルが高いという研究結果も出ています。これらの要素はグループ内の利他主義傾向を増し、生存レベルを上げるとも言われています。


また、ゲイの男性と遺伝子を共有する親戚の女性は男性により強く魅力を感じ、これが進化上のアドバンテージになるとする仮説も存在します。ゲイ男性を親戚に持つ女性は平均よりも子どもの数が多いとする研究も存在するとのこと。このことはレズビアンの女性を親戚に持つ異性愛者の男性にも言えるそうです。


社会生物学と生物多様性の研究者であるエドワード・オズボーン・ウィルソン氏は、「同性愛はグループにアドバンテージを与えます。同性愛を非難する社会は、社会そのものを非難しているのです」と語っています。


歴史的には、科学はクィアのコミュニティーに親和的ではありませんでした。過去には同性愛者の脳や体はステイタスが低いものだと考えられ、同性愛的な行動は発達上の欠陥によって引き起こされるという考えが多数派を占めていました。


ゆえにLGBTQ2を自認する人々の中には科学を自分たちとは違うコミュニティに属するものだと考えたり、人々を傷つけたり搾取するために使われると考える人も。また、多くの科学研究は男性の同性愛者を研究対象としており、それ以外の人々は研究の対象から省かれていることも問題とされています。


しかし、遺伝子研究やエピジェネティクス研究が進めば、同性愛者嫌悪を示す法律が減少することも考えられるとのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
95歳でゲイであることをカミングアウトしたおじいさんにインタビュー - GIGAZINE

同性婚を合法化すると10代の若者の自殺率が減少するとの調査結果 - GIGAZINE

「ゲイであることは、神が私に与えた最高の賜物の一つだと考えている」、Appleのティム・クックCEOがゲイであることを明らかに - GIGAZINE

「同性と裸でベッドに入る」行為が性的関係以外を意味した中世ヨーロッパの価値観とは? - GIGAZINE

ゲイ・バイセクシャルの男性からの献血が世界的に解禁傾向 - GIGAZINE

ロシア語版のSiriが同性愛嫌悪の返答をしていたことが判明 - GIGAZINE

in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.