取材

山内一典氏によるポリフォニーデジタル社内見学ツアー&グランツーリスモSPORT体験に行ってきました


日本生まれの超本格的ドライビングゲーム/リアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズの最新作「グランツーリスモSPORT」が、約4年の期間を経て2017年10月19日に発売されます。その発売に先駆け、開発元である「ポリフォニー・デジタル」が実際に開発を行っている現場「東京スタジオ」のスタジオツアーがメディアを対象に開催されたので、いったいどんな場所で世界に名だたるタイトルが作られているのか見てきました。

グランツーリスモ・ドットコム
http://www.gran-turismo.com/jp/products/gtsport/

都内にある「ポリフォニー・デジタル 東京スタジオ」にやってきました。スタジオ内に入り、開始時刻になると、GT生みの親でポリフォニー・デジタル代表取締役の山内一典氏がひょっこりと姿を表してプレゼンテーションが始まり、新しく「グランツーリスモSPORT」ではどのような変化があったのか、どのようなユーザー体験が新しく追加されたのかなどの説明がありました。このあたりの詳細については後述。


東京スタジオに入ってすぐのロビーには、これまでに贈られたトロフィーや記念品の数々が置かれています。山内氏が手にしているのは、レッドブル・レーシングチームとタッグを組んだプロジェクトで制作されたマシン「X2010 プロトタイプ」のモデル。レーシングカーデザイナーで「空力の奇才」と呼ばれるエイドリアン・ニューイ氏がテクニカル・アドバイザーとして本格的に参加して作られた「夢のレーシングカー」です。


開発エリアに入ってまず目に飛び込んできたのは、壁一面に並べられた撮影用機材のラック。これは、いつでも撮影が必要になった時に持ちだせるようにそろえられたもので、カメラ本体はもちろん三脚やレンズなどのエクイップメントがズラリと用意されています。山内氏の弁によれば、ポリフォニー・デジタルにおける仕事は「光を扱う仕事」であり、より正確で素晴らしい「光」を記録するために機材をそろえているとのこと。これは日本のスタジオだけでなく、海外に数か所ある開発拠点にも同じように準備されているそうです。


別の壁には、グランツーリスモの中で使われるデザインやUIが並べられています。デビュー当初から世界中で人気を博した国際的なタイトルであるグランツーリスモシリーズですが、実際の開発はほぼ全てが日本国内で行われているとのこと。これは、製品本体だけでなくポスターなどのデザインにおいても同じことがいえ、全てがこのスタジオで内製されています。そうすることで、グローバルに展開するタイトルであるながら、世界どこに行っても同じようなテイストのブランドイメージを確立するに至っています。


ゲーム内に登場する画面のデザインや……


コックピットビュー時に表示されるメーターまわりのレイアウトデザインなど。この他にも、さまざまなモードごとのメニュー画面や画面レイアウトなどが掲示されています。ちなみに、GT SPORTの製品パッケージなどに掲げられているドライバーのイラストは、スタッフの間で「ガッツ君」と呼ばれているとのこと。


こちらの壁には、先述した「X2010」の開発時に描かれたモチーフなどが掲示されています。


初期デザインから数々の手直しを受け、ニューイ氏のアイデアなどが盛り込まれて変化していく様は非常に興味深いものがありました。


興味深かったのがこのラック。なんとプラモデルの箱がビッシリと並べられています。聞くところによると、過去のGTシリーズではこれらのモデルを参考にしながら車体データの作成を行っていたこともあるとのこと。自動車メーカーから車体のCADデータを提供してもらえるようになった現在ではもうそのような手法は用いていないとのことですが、過去の歴史の1ページをそのまま残している空間となっています。


この棚には、ダイキャストのミニカーなども置かれていました。


実際に開発が行われているエリアも見学することができたのですが、ノウハウが詰まりまくっている場所なので、その詳細はお見せすることができない状態。実際の車体から取得した形状データからどのようにゲーム内の車体を作っていくのか、コースの路面や周辺の地形はどのようにしてデータ化しているのか、また、そのデータが正しいことをどのようにして検証しているのか、などの説明があったのですが、その中身は「そこまでするか」と思わされるものばかりでした。


例えば、車体のデータを作る場合には、現在主流であるレーザースキャナーを用いて車体の現物の形状を詳細にデータ化します。しかしこれでデータ取得完了と言うわけにはいきません。レーザースキャナーで取得したデータは「点群」、つまり「細かい点の集合体」であり、それらの点が「たまたまクルマの形に並んでいるだけ」であるため、構造として存在していない状態。そこでまず行われるのが、専門のアーティストによる構造としても面の作成です。

ここで実際に、ランボルギーニ・カウンタックをデータ化する作業をタイムラプスムービーで見せてもらったのですが、その工程には「自動化」と呼べそうなものはほとんどなく、実際には一人でCADをゴリゴリ使って緻密に面を構成してつなげていく、という作業になっていました。外観ができたら次は内装、という風に作業は進み、1台分のデータが完成するまでには、なんと6カ月もの時間を有するとのこと。最初の3カ月でほぼ完成の状態に持っていき、次の3カ月で細かいブラッシュアップを繰り返して、完成に近づけていくそうなのですが、この時には参考となる実物の車体を身近に置いておくわけにはいきません。そこで、事前に車体を取材し、5000枚にも及ぶ写真や、細部を捉えたムービーを大量に用意しておくそうです。


そして車体のデータができると、今度は「本当に正しく形状が再現されているのか」を検証する工程に入ります。クルマの外観は置かれている状況や光源の強さ、向き、数、色などによってさまざまに表情を変えます。その変化を正しく再現するためには、ボディパネルの曲面のつながり具合や素材、反射率、塗装の種類などの条件を正しく設定しておく必要があります。その再現度が求めるレベルに達しているのかどうかを確認するのですが、この時は実写を撮影した画像とコンピューター上で再現した3Dデータを同じ画面に表示させるという、ガチンコの比較を行います。実際にその画面を見せてもらいましたが、外観からは本物のクルマとCGのクルマを見分けることはほぼ無理なレベル。いかにも「CGくさい」と感じさせる要素をまったく感じさせない様子に驚きを隠せないほどでした。

この後、サーキットの路面や地形を再現する工程を見せてもらったのですが、その中でもビックリさせられたのが、コースサイドの樹木を再現する様子。土地が変われば生えている木も当然違う、とのことで、現地取材する際にはコースだけでなく、周辺の植物などの取材も実施すること。いわば、「これはドイツのニュルブルクリンクに生えている木」をきちんと画面に再現することで、見る人がみてもちゃんと納得できる風景を作るというわけです。さらに、取材の際には葉っぱの表面の反射率や透過性を測定するために、取材拠点に暗室を作って葉っぱを持ち込んでデータ計測する、というから、もう開いた口がふさがらないレベル。取材陣からも「ははは……(まじか)」とあっけにとられたような笑い声が上がるほどでした。

唯一、コンピューターで「生成」しているのが、コースサイドに生える芝生だとのこと。ポリフォニー・デジタルでは、芝生を自然に生やすための独自のアルゴリズムを開発することで、コースを埋め尽くす芝生でも切れ目なく自然に再現する手法を取り入れているとのこと。さすがに、実際のゲーム中ではあらかじめレンダリングされたテクスチャを貼っている状態なのですが、実際に芝生を生成しているアルゴリズムの画面にはおびただしい数のノードが並び、それらを複雑にパッチングされている状態。ごく自然に見える芝生の裏には、こんな作業が隠されていたのか、と驚きの連続でした。

次に見せてもらったのが、山内氏の執務室。50平方メートルぐらいはありそうな広い執務室には大きなテーブルが置かれ、その上に巨大な4Kディスプレイ、そしてハンドルコントローラーが据え付けられています。その手前にあるのは、山内氏のコレクションというカメラのレンズ。しかしこれは単なる趣味の道具ではなく、実際に社内で使うためのレンズをまず山内氏が自費で購入して検証するためのもの。ここで「OK」となったら、会社用に大量に購入して使用することになるそうです。


こっちのテーブルがメインの作業机。テーブルの上には88鍵のフルサイズキーボードやモニタースピーカーなどが置かれており、これを使って山内氏自ら作曲を行うこともあるとのこと。


そして次の部屋に移動。ここはスタッフの休憩スペースとなっており、雑誌やソファ-、そしてもちろんゲーム機などが置かれています。ゲーム機はPlayStationだけでなく、XboXなど他社製のコンソールも置かれているそうです。


休憩スペースの一番奥には、かつては「喫煙スペース」だったはずの音楽制作スペースとなっています。当初は普通の喫煙場所だったのですが、いつの間にか音楽クリエーターが住み着いてしまい、いまやスタジオ同然になってしまったとのこと。夜の0時を過ぎた頃から、メンバーが集まってセッションが始まるそうです。


◆実際に「グランツーリスモSPORT」をプレイしてみた
ツアーが終わると、「発売寸前状態」というグランツーリスモSPORTを実際にプレイすることができました。この日は社内の一角が試遊スペースになっており、心ゆくまでゲームの感触を確かめることができます。


新作は4K+HDR対応ということで、実際にそのスペックを実現できる巨大なソニー・ブラビアも置かれています。


いくつかの試遊台には、Thrustmaster製のハイエンドステアリング型コントローラー「T-GT」が設置されていました。ハンドルの中には4つのロータリーセレクターが配置され、実際のレース中にブレーキバランスやトラクションコントロールを変更できるほか、エンジンに燃料を送り込む割合「空燃比」を変更することも可能。耐久レースなどで使うことになりそうです。


ペダルはABCペダル式。ただし、いちばん左のクラッチペダルを使わずに走ることは可能なので、実際に使うケースはあまりないかも。


本体内にはパワフルなブラシレスモーターを内蔵し、よりリアルなフィードバックを可能にしているとのこと。


実際にプレイしてみると、なるほどリアルなタイヤの感触が伝わってくる様子がわかります。実際にはモーターによるフィードバックなのですが、縁石に乗り上げた時の「ガツン」という感じや、コーナリング中に前輪がグリップを失って「スコン」と手応えが抜ける感じなど、実際に自動車でスポーツ走行を行ったことがある人なら「おお!」と感じられるほどリアリティのある感触が伝わってきました。


走り始めてまず最初のコーナーをクリアしようとした時、実は曲がりきれずにコースアウトしてしまいました。「あれ?こんなだったかな?」と最初は困惑したのですが、しばらく走っていると「ああ、これはよりリアルなシミュレーションに進化しているわ」と納得。ブレーキングの際には「タイヤを真っすぐにする」という基本を守らないと途端にグリップが失われてしまうのですが、これは実車ならば当たり前の挙動。逆に、これまでのGTシリーズでは、ある程度ハンドルを切りながらのブレーキングを許容していた部分はありましたが、今作においてはそのリアリティがさらに向上したといえそう。これまでのノリでプレイすると最初は「曲がらない・スピンする」という状態に陥ること必至ですが、いざこのリアルな感覚になれると、これまで以上に感触を確かめながらのドライブを楽しむことができそう。これはすごい。

そして、今作からはPlaystation VRにも対応。実際にプレイしてみたのが以下のムービーですが、頭の動きに画面が追従している様子がよくわかるはず。実際にゴーグルをつけた状態だと、本当のクルマやサーキットがそこにあるような感覚を味わうことができ、掛け値なしに「次世代のドライビングシミュレーター」がこういうものだ、ということを感じることができます。

「グランツーリスモSPORT」をPlaystation VRでプレイしてみた - YouTube


VRが何よりもすごいのが、運転中に見たい方向を直感的に見ることができるという点。そのため、ドアのガラス越しにコーナーの先を確認することができます。VR対応のドライブゲームとしてはPlaystationでも「DRIVECLUB」などがあり、そちらでもVR体験を存分に味わうことはできるのですが、GTシリーズならではの感触のようなものが感じられます。


2台でバトルする時も、真横にいる相手の動きを見ながら走ることが可能でした。


◆グランツーリスモSPORTで登場した新しい楽しみから「スケープス」
今作からは、新しい写真フォーマットを用いることで、実際の世界をそのまま再現できる「スケープス」と呼ばれるモードが用意されています。


これは、True HDRワークフローと物理ベースレンダリング技術を活かしたもので、撮影された実際の風景のデータに、光のエネルギーの情報をそのまま持たせているもの。圧倒的な明るさを持つ太陽の光でさえ、正確な物理量、ライティング情報を保持しているだけでなく、そのイメージの中に空間情報も持っているため、「写真の中に、クルマを配置する」ことが可能になっているとのこと。


◆自分のクルマに好きなデザインを施せる「リバリーエディター」
ゲーム内で保有しているクルマを自分の好みにデザインする機能が「リバリーエディター」です。ボディ色を実際にはない色に変えたり、ロゴをラッピングしたり、ホイール交換、各部パーツごとの色変更などが可能。例えば、ベースとなるポルシェ・GT3に……


まずはボディ色を黄色に変更。


そして、いろいろなメーカーやブランドのロゴを貼り付けることができます。ここには実際に存在するメーカーのロゴに加え、架空のブランドのものが用意されているほか、オリジナルの画像データを読み込めるようにもなる予定。ストイックなレーシングカーらしいデザインから、アニメキャラを前面に押し出した「痛車」を自分で作ってドライブして、ネットワーク対戦で世界に発信する、ということもできるようになります。


ホイールを変え、ペッタペタの薄いタイヤを履かせてロゴをレイアウトしたらこんな感じ。自分の好みに仕立てたクルマで走ればテンションも上がる、というわけです。


それを可能にしているのも、先述の緻密なモデリングによる正確な車両データがあるからこそ。車両選択画面では、車体寸法までが表示されるという徹底っぷり。


ホイールの再現1つとっても……


まるで、金属の素材感が感じられるよう。


シートの素材や……


ハンドル周りの質感もこの再現度。


ホンダ・NSXのカーボンセラミックマテリアルを用いたブレーキディスクもリアルに表現されています。


今作では「次の10年」を見据えたゲームシステムが投入されており、その技術はボディ塗装の再現度にまで影響が現れています。パール塗装に含まれるフレーク、いわゆる「ラメ」の大きさを変えることで、きらめき感の表情を変えることすら可能になっています。


ソーシャル機能が強化されているのもポイント。自分の戦績や走行距離、獲得したトロフィーの種類や数、そしてバトルの際の「フェアさ」の評価などを、ゲーム内のネットワーク上にあるソーシャル機能で配信することが可能。そして、自分の能力に見合った人とオンラインでバトルを楽しめるようにもなります。


今回取材に訪れた筆者は、初代「グランツーリスモ」からほぼ全てに接してきており、新しいタイトルが出るたびにその進化に驚かされていたのですが、さすがにここ数作は「もう行くところまで行ったな」という風に感じていました。今回も実際に触れるまでは、「これ以上どう進化するんだろうか」という気持ちを抱えていたのですが、実際に見て触れてみると、「まだ進化するとこあったとは」と驚かされてしまうという結果に。マシンスペックの向上による再現度の高さや、4K+HDR対応によるグラフィック性能の向上などが主な要因といえそうですが、それよりも強く印象に残ったのが、「質感の向上」という部分かも。


これまで、どこか匂ってきた「CGっぽさ」「ゲームっぽさ」が全くといっていいほど感じられず、まるで本当にゴムでできたタイヤがアスファルトにかみついてクルマの重量を受け止め、曲がりたい方向に曲がっていく、という様子がリプレイ画面を見ても実車とほとんど変わらないように見えます。GTシリーズに限らず、CGで描かれたクルマの動きにはどこかグリップ感がウソっぽい感じがぬぐえなかったのですが、グランツーリスモSPORTではついにその感じが見られなくなったという印象でした。


「グランツーリスモSPORT」は2017年10月19日発売で、通常版の希望小売価格は税抜6900円。ボーナスカーパック(3台)やスペシャルブックレットなどが同梱された初回限定版「グランツーリスモSPORTリミテッドエディション」が税抜9900円で同日発売されるほか、ゲーム内で使える1億クレジットやボーナスカーパック、ゲーム内で使える特別デザインのヘルメットをゲットできる「デジタルリミテッドエディション」が税抜7900円でラインナップされています。

販売情報・予約特典 - グランツーリスモ・ドットコム
http://www.gran-turismo.com/jp/products/gtsport/preorder/

なお、取材当日は山内氏にグランツーリスモSPORTで実現したかったことや、「音」に対するこだわり、そして今後のグランツーリスモシリーズの進むべき道などについていろいろインタビューを実施済み。近日中に公開予定なのでお楽しみに。


◆つづき
「グランツーリスモSPORT」で実現したかったこと、そして今後の進む先について山内一典プレジデントにインタビュー - GIGAZINE

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in レビュー,   取材,   動画,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

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