小説の主人公たちが食べた一皿を再現した写真集「ひと皿の小説案内」レビュー


ハイジの食べるチーズ焼き、ぐりとぐらの食べるホットケーキ、ラピュタのパンなど、物語の中で主人公たちが食べる食べ物は「どんな味がするのだろう?」と読み手の頭に強い印象を残すこともしばしば。そんな小説の主人公たちの食事風景を再現したのがダイナ・フリードさんの「ひと皿の小説案内(Fictitious Dishes)」です。ある日突然害虫になった「変身」の主人公ザムザの「ひと皿」など、必ずしも「おいしそう」な食べ物ではないのですが、まるで小説を読んでいるように物語が感じられ、じっくり読んでみたくなる1冊になっています。

ひと皿の小説案内 - マール社


これがひと皿の小説案内の表紙。


全136ページで、分厚さはこのくらい。


148×210mmのA5を横にした形です。


ページをめくると、「アルプスの少女ハイジ」「不思議の国のアリス」「ピーターラビット」「グレート・ギャツビー」など、本の中で扱われている作品のタイトルが並んでいました。


どのように撮影が進められていったのかが語られる「はじめに」の部分もメイキング写真などがあり、見応えあり。


目次ページ。本の中で扱われている作品は以下の通りです。

白鯨/オン・ザ・ロード/失われた時を求めて―スワン家のほうへ/若草物語/秘密の花園/ガリヴァー旅行記/コレクションズ/ロリータ/レベッカ/青い眼がほしい/ハックルベリ・フィンの冒険/その名にちなんで/太陽がいっぱい/石蹴り遊び/風と共に去りぬ/ライ麦畑でつかまえて/ビーザスといたずらラモーナ/ロビンソン・クルーソー/五次元世界のぼうけん/百年の孤独/ザ・ロード/ボヴァリー夫人/サリーのこけももつみ/アラバマ物語/ゴルディロックスと三びきのクマ/ラスベガスをやっつけろ!/ハイジ/ミドルセックス/エデンの東/変身/二つの心臓の大きな川/ミレニアム―ドラゴン・タトゥーの女/アメリカン・サイコ/赤毛のアン/ベル・ジャー/オリバー・ツイスト/不思議の国のアリス/カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険/ジャムつきパンとフランシス/ハートバーン/グレート・ギャツビー/重力の虹/まぬけ同盟/灯台へ/ピーターラビットのおはなし/ライオンと魔女/マザーレス・ブルックリン/エマ/人形の谷間/ユリシーズ


ということで、食事シーンの一例をを見ていきます。まずは青春小説の「オン・ザ・ロード」。見開き左ページに解説、右ページに食事シーンの写真がのっています。


写真はアイスクリーム、アップルパイとブラックコーヒー。少しざらっとしたレトロさのある質感の写真が使われています。


左ページ上部には作品タイトル、作者、出版年、そして写真のもととなったシーンが記載されています。オン・ザ・ロードは作者であるジャック・ケルアックの自伝的小説で、作中、ケルアックは「サル・パラダイス」として登場します。パラダイスは酒飲みですが甘党でもあり、アメリカ横断の旅行中、ずっとアイスクリームとアップルパイを食べていました。


写真からも、なんとなく、アメリカのダイナーで出されるパイの手作り感が伝わってきますが、フリードさんは、オン・ザ・ロードのために「生まれてはじめてアップルパイを焼いた」と、ひと皿の小説案内の「はじめに」のページに記されていました。


左ページ下部にはテーマとなった作品の解説や、アイスクリーム&アップルパイの豆知識が書かれていました。


ガリヴァー旅行記」から抜き出されたワンシーンは、平均身長約22メートルのブロブディンナグ(大人国)の人々の食事と、その隣に用意されたガリヴァーの食事。「大きく成長した七面鳥の九倍もあろうという大きさ」の雲雀の手羽が、ミニチュアの食事と比較されることで再現されています。


準備風景はこんな感じ。


中年の大学教授が少女に夢中になる「ロリータ」からは、ジンとパイナップルジュースを合わせた飲み物。ロリータはあまりに性的に倒錯しすぎているという理由でどの出版社からも出版を断られ、やっと1955年に出版されてからも難解な内容からなかなか注目が集まらなかった作品。写真からは暑い午後、ロリータに思いを馳せながら冷たく甘いカクテルを飲むハンバート・ハンバートのイメージがわきあがります。


大人に反発したった1人でニューヨークの街をさまよい続ける16歳の少年を描いた青春小説「ライ麦畑でつかまえて」は、「どっか外で食事するときには、たいてい、スイス・チーズのサンドイッチに麦芽乳ですましてしまう」という主人公の食事風景が再現されています。飾りっ気のないフォーク・スプーンに、お皿。甘そうなシェーキとブラックコーヒー、アルコールが一緒に並んでいるのが、大人と子ども間で揺れる主人公ならではの食卓と言えます。なお、作者であるサリンジャーの父親はハムとチーズの輸入業者だったとのこと。


ロビンソン・クルーソー」は船が難破して島で生き延びるという物語の型となった小説。島に転がっていたメロンやブドウが砂浜に広げられていますが……


実際の撮影中は500羽ほどのお腹をすかせたカモメに囲まれたそうです。


誰もが一度は憧れる「アルプスの少女ハイジ」のおじいさんが用意してくれたチーズのせパン。


料理写真のように完璧な仕上がりなのではなく、少し焦げているのが、「おじいさんが作ってくれたからかな……」と不思議な説得力を加えています。


そして、フランツ・カフカの「変身」。ある日突然害虫になってしまった兄のために、妹はさまざまな食べ物を用意しますが、主人公のザムザが食べられるのは新鮮な食品ではなく腐りかけた食べ物でした。フリードさんは写真を撮影するために何週間分もの残飯を集めたとのこと。


作中に書かれる「白いソースのこわばりついた夕食の残りの骨」「乾ぶどうに巴旦杏が少々」といった文章に忠実な写真となっています。


うって変わって華やかなのは「グレート・ギャツビー」。豪奢な邸宅に住み、絢爛たる栄華に生きる謎の男ギャツビーの物語からは、華やかな食卓が再現されています。ナイフ・フォークといったカトラリーから塩コショウ入れまで、ライ麦畑で捕まえてとは全く違う豪華なのものが使われています。主人公のギャツビーは禁酒法時代のアメリカで密造酒を販売することで億万長者になりました。食卓にも、ニューヨーク生まれのカクテル「マティーニ」が並んでいます。


ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり」で女王がくれたターキッシュ・ディライトは「どれも甘くてふわふわして、エドマンドがこれまでに食べたどんなものよりもおいしく感じられた」と、読んでいたら空想が広がってしまう食べ物。「食べたらどんな味がするのだろう?」と思ってしまう、かわいらしい仕上がりで再現されています。


もちろんこれもフリードさんの手作り。作品作りを経てフリードさんはターキッシュ・ディライトを一から作れるようになったそうです。


ピーターラビットのおはなし」があったので、まさか、パイになったお父さんが……と思って見てみたところ……


おなかの具合がよくないピーター以外の姉妹たちに用意されたパンとミルク、くろいちごがお皿にのっていました。植物柄のテーブルクロスに、金で縁取られたお皿など、豪華ではないかわいらしいアイテムが使われています。



この他にも「不思議の国のアリス」「ミレニアム―ドラゴン・タトゥーの女」「アメリカン・サイコ」「赤毛のアン」「太陽がいっぱい」「ボヴァリー夫人」など、古典から最近の作品まで、さまざまな小説の食事シーンが再現されていますが、実際に食卓で撮影されることは少なく、以下のように床で撮影していたそうです。


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