「スパイダーマン:ホームカミング」レビュー、敵役のマイケル・キートンすごすぎ&「スーパーヒーローになる物語」を本当の意味で描ききっている


これまでのスパイダーマンを見たことがあるのであれば断言してもいい、今作はこれまでの欠陥のすべてを克服している。まず、妙な辛気くささがない。うっとうしい恋愛も青春も何もかも置き去りにしてしまう。要するに、「スーパーヒーローになる物語」として完成している。このレベルまで達したのは過去のマーベルの映画でもほとんど見受けられないぐらい、今作はめちゃくちゃよくできている。脚本の流れが過去作と比べて極めて「今風」になっており、そこかしこの不自然な点が、いかにも自然に感じられる。何がすごいと言われても、2時間以上あるのにまったく中だるみしない、と言えばわかってもらえるだろう。これは極めてレベルが高い証拠だ。この中だるみのなさが最初から最後、本当の意味でスタッフロールが終わるまで徹底的に続いていく。以下、ネタバレを可能な限り回避するが、以下の30秒の予告編だけは見る価値がある。冗談抜きで大体こんな感じだ。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』自撮り予告編 - YouTube


ちょっとデッドプールっぽい感じもする


全編自撮りというわけではないが、この「地に足の付いた感じ」というのが徹頭徹尾、最後まで一本の筋として通っていく。なので、「映画館に見に行くべきか否か?」と問われると、立場によって以下のようにわけられる。

パターンA:これまでのすべてのマーベル映画を見ている、しかしスパイダーマンは実は見ていない人

必見

パターンB:これまでのマーベル映画すべてに加えて、スパイダーマンも全部見ている(筆者はコレ)

必見

パターンC:今までマーベル映画もスパイダーマンも一切まったく見ていない、要するにマジで初見

危険すぎるが見に行くべきだろう。おそらく意味不明な点が多々あるはずだが、むしろ逆に「一体何がどうなってこういう風になったのだ?」というようにしてこれまでの展開が気になってしまい、過去作を一気に見てしまう危険性がある。そういう意味で非常に危険だ。加えて、今作以上に面白い作品は残念ながらマーベルの映画ではそんなに多く存在していない。「アベンジャーズ」「デッドプール」が今作に匹敵するだろうが、それでもなお今作に軍配を上げざるを得ない。

パターンD:その他のすべての組み合わせ

見るべき。できれば今まで見ていない一連の作品をできるだけ見るか、せめて過去作の予告編だけでもすべてYouTubeで再生してから見に行くべき。その価値はある。

名作の条件というのはいくつもあるだろうが、特に印象に残ったのは以下の点。

1:敵役のマイケル・キートンがマジですごい
2:主人公の友人のデブが超ナイス
3:音楽がめちゃくちゃよく合っている
4:要するにストーリーテリングがめちゃくちゃうまい

それぞれについて解説する。

◆1:敵役のマイケル・キートンがマジですごい
マイケル・キートンといえば、1989年の「バットマン」を演じた人で、バードマンを演じた人で、そして今作ではついに「敵」なのだが、この敵としての描き方が非常に秀逸。


決して極悪人ではなく、むしろ家族のために戦っているし、理由も同情できる。ぶっちゃけ、アイアンマンの方が根本的に「悪」に見えるほど。


なんというか、マフィアものの映画に出てくる「犯罪者ではあるが、冷血な人間ではなく、むしろ仲間と家族思い、どちらかというと人格者に近い、頼れる父であり、ボスである」というタイプ。


こういう役は言うのは簡単だが、実際に演じるのはめちゃくちゃ難しいのは自明の理。それをマイケル・キートンはいやらしくなく、非常に自然に演じている。「家庭を支えるいいお父さん」という顔と、「金のためなら殺しも辞さない極悪非道」の顔、この2つが交差するシーンがクライマックスに向けて存在するのだが、正直、圧巻すぎる。「うわーうわーうわー!」という感じだ。


ここ最近のマーベルの敵は「は?」みたいな拍子抜けが多かったが、彼は確実に「敵」で、しかもまったくしょぼくない。加えて、主人公の前に立ちはだかる存在であり、ストーリーの都合上、単なる敵ではなく、ありとあらゆる意味で立ちふさがる存在の象徴として描かれている。これが実に良い。ぶっちゃけ、マイケル・キートンのコスチュームデザインはそんなにかっこよくないように見えるのだが、マイケル・キートンが動かした途端に、やばいレベルに達する。


強そうではないのだが、とにかく強い。何を言っているのかわからないが、とにかく強そうに見えないのに実際には強いのだから仕方がない。これが徹底されており、マイケル・キートンが出る最後のシーンまで貫かれているのはすばらしい。特にマイケル・キートンのラストシーンは「ニヤリ」とできる。ある意味で王道だが、マイケル・キートンの演技力によって、ただ者ではない雰囲気を出すことに成功している。おかげで、ほかの敵の印象が全部かすんでしまうと言うか、記憶にまったく残らない。「スパイダーマン vs マイケル・キートン」というタイトルが実は正しい、断言できる。


◆2:主人公の友人のデブが超ナイス


主人公ピーター・パーカーの魅力のほとんどは、彼の友人であるデブによって成り立っている。


ロード・オブ・ザ・リング」を見たことがあるのであれば、例の彼に匹敵するぐらいだと言えば分かるはず。あるいは「鉄血のオルフェンズ」のでもいい。そういう意味での、由緒ある「よいデブ」だ。


あらゆるシーンで彼が出現するのだが、まったく嫌な感じがしない。嫌な感じがしそうになるギリギリのところを低空飛行し、そして気がつくと猛烈な勢いで飛び立ち、最後には「彼が事実上の主人公ではないのか、むしろ彼がいないスパイダーマンなど考えられない」というぐらいになる超絶重要な役どころとなっている。


最初は「ああはいはい、よくあるピザデブね」という感じなのだが、ストーリーが進むにつれて、段々と「あれ?いいヤツだな?」となりはじめ、気付くと「完璧なイケメン」に見えてくる。「アバター」で真っ青な異星人が、気付くと超絶セクシーに見えてきたというあの感覚に近い。彼になら抱かれてもいいだろう。


◆3:音楽がめちゃくちゃよく合っている


これは意外にすごい。どれぐらい耳に残るかというと、エンディングのスタッフロールで流れるのだが、次にどういう音が来るのかわかるレベル。上映前から場内ではこのBGMがかかっていたのだが、「おいおい、大げさすぎるだろう……スパイダーマンはこんな曲の似合う話ではないぞ?」ということで最大級の警戒と対ショック姿勢だったのが失礼なレベル。特にものすごいアクションが繰り広げられるとき、そしてマイケル・キートンのシーンでの曲の威力が半端ない。重低音の使い方がめちゃくちゃうまい曲なので、映画館に見に行く最大の理由は音響とBGMの融合を体感するためと言っても過言ではない。あらゆるシーンで、感情に合わせた曲が鳴る、しかも自然に鳴るので「うまいな」と思わされてしまう。久々にサントラが欲しくなる曲であった。

◆4:要するにストーリーテリングがめちゃくちゃうまい
脚本がいくら良くても、「テンポ」とか「間」とか、どういう筋を採用するか、どういうシーンを持ってくるのか、そしてどう編集して見せていくのか、そういうのは監督の力が大きい。監督の「ジョン・ワッツ」の名前を聞いてもピンと来る人の方が圧倒的に少ないはずだが、出自の異様さを知れば認識が変わる。試写会でもらったパンフレットに彼の経歴が簡潔にまとめられていたので、そのうちの一部を以下に引用する。

「イーライ・ロス制作総指揮」と無断でクレジットを入れたフェイク予告編を製作。YouTubeで話題になり、イーライ・ロス本人から連絡を受け、彼のプロデュースで同予告の長編化が決定。ホラー映画『クラウン』(14)となり、これが長編監督デビュー作。ケヴィン・ベーコン主演を迎えた監督2作目『COP CAR/コップ・カー』(15)が高い評価を受け、『スパイダーマン:ホームカミング』の監督に抜擢された。


要するに今作が3作目、それでこの完成度の高さなので、恐るべき才能が出現したとしか言いようがない。

特にストーリーテリングというか脚本で「そう来たか、それはいい決断だ」と感じたのは、「どうやってスパイダーマンになったのか」という部分を映像としてごっそりカットしている点。これは英断だろう。おかげで最初からスパイダーマンのアクションがこれでもかこれでもかと繰り広げられることになっている。そして「シン・ゴジラ」ばりに余計な恋愛シーンがない。皆無と言うと語弊があるが、とにかく、ほぼゼロに等しい。青春しているような、恋愛展開のような、そういうのに突入しかける度に「スーパーヒーローとしての成長」が待っているという構造になっている。


これまでのスパイダーマンの何がダメだったのかが、今作を見るとよく分かる。なので、これまでのスパイダーマンを作っていくことで見えてきた「物語としての難しさ」をことごとく突破することに、ついに成功したのだ、というイメージでほぼ間違いない。過去作がなければ絶対にココまでの完成度にはなっていないだろう。


ただ、だからこその不安がある。過去のスパイダーマンも実は1作目はよくできている。ダメになり始めるのは2作目からで、猛烈に失速してしまうという恐るべき呪いがある。今作は間違いなくマーベルの映画シリーズの中では確実に「名作」の一つに入るが、ではその「次」は大丈夫なのか?という不安がぬぐえない。「デッドプールはものすごくよかったが、デッドプール2は大丈夫なのか?」というようなのと似た気分になってしまう。

とにかく、映画館へ見に行く価値はある。ついさっき試写会で見てきた勢いでこの原稿を書いているので少々正気を失っているが、それだけのパワーはある。「ローガン」が終わりへと向かう物語なのであれば、その完全な対比が今作「スパイダーマン:ホームカミング」となっており、「いかにして15歳の若者がスーパーヒーローになるのか」というのを描ききっている。久々にオススメできるスーパーヒーローの映画だろう。2017年8月11日(金)より公開開始だが、なぜ海外と同時に7月7日公開にしなかったのか、バカじゃないのか!

なお、直近の予告編は強烈なネタバレになっているので、最初に公開された以下の予告編がちょうどいい感じにまとまっているのに加え、今作ではほとんど出てこない「スパイダーマンがアベンジャーズの方の映画で出てきたシーン」を見ることができるので予習にちょうどいい。ぶっちゃけ、この記事に載せた以外の予告編はネタバレがひどすぎるので、見ない方がよいだろう。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』 特報 - YouTube

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in ピックアップ,  レビュー,  動画,  映画, Posted by darkhorse