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SpaceXのロケット再打ち上げは「従来の半分以下のコスト」で実施されたと社長が公表

By SpaceX

民間のロケット開発・打ち上げ企業であるSpaceXは2017年3月30日、同社の再利用可能ロケット「Falcon 9」の第1段ブースターを実際に再利用した打ち上げを成功させました。この際にかかった費用について、同社のグウィン・ショットウェル社長は「従来のおよそ半額以下」であることを明かしました。

SpaceX gaining substantial cost savings from reused Falcon 9 - SpaceNews.com
http://spacenews.com/spacex-gaining-substantial-cost-savings-from-reused-falcon-9/

SpaceX spent ‘less than half’ the cost of a new first stage on Falcon 9 relaunch | TechCrunch
https://techcrunch.com/2017/04/05/spacex-spent-less-than-half-the-cost-of-a-new-first-stage-on-falcon-9-relaunch/

ショットウェル氏は2017年4月5日、コロラド州で開催された第33回スペース・シンポジウムで講演を行い、Falcon 9ロケットが実現可能なロケット打ち上げ技術について語りました。

その中でショットウェル氏は、今回のSES-10ミッションの打ち上げに際してかかった費用について、従来どおり新規にロケットを建造して打ち上げる時のおよそ半額以下である、と語ったとのこと。具体的な数値や金額は明かされていませんが、2016年4月の打ち上げ・帰還後にSpaceXはFalcon 9ロケット第1段ブースターを詳細に調査しており、その際のコストを差し引いても「半額以下」であることは今後の民間ロケット開発において非常に大きな意味を持つといえます。

以下のムービーは、SES-10ミッションで使われた第1段ブースターがドローン船の艀(はしけ)に着艦した様子を収めたもの。上空7万メートルまで上昇したものが自動操縦で海面にある20メートル四方程度の標的をめがけて戻り、ショックを和らげて「フワッ」と着艦する一連の様子は「すごい。」という言葉しか出てきません。着艦時には、9基搭載されている「マーリンエンジン」の1基だけが使われているようです。

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今回は初の再打ち上げだったこともあり、2016年4月8日の初回打ち上げからほぼ1年後の再打ち上げとなったFalcon 9ロケットですが、以下のツイートでイーロン・マスクCEOが語っているとおり、SpaceXではこのターンアラウンド(折り返し)時間を最終的にはなんと24時間に短縮することを目標としています。

Incredibly proud of the SpaceX team for achieving this milestone in space! Next goal is reflight within 24 hours.

— Elon Musk (@elonmusk)


これについてはショットウェル氏も同様の目標を示しています。シンポジウムでショットウェル氏は「今回は、将来考えているよりも多くの時間をかけました」と語り、「リユーザビリティ(再利用性)について考えると、本当に短い時間での再打ち上げ、例えば飛行機が着陸して折り返して飛んで行くのと同じぐらい短いターンアラウンド時間での再打ち上げを行うことが重要だと考えています」と、従来のロケット技術における常識を打ち破る展望を述べています。


ただし、これは単なる「前向きな希望」を示しているというわけではなく、SpaceXが企業として存続するために必要な経営上の課題でもあります。マスク氏は2017年3月30日の記者会見で、SpaceXはこれまでに再利用可能ロケットの開発に10億ドル(約1100億円)の費用を投じてきたことを明らかにしており、今後はこの費用を順調に回収することが極めて重要といえます。

また、打ち上げ費用が大幅に圧縮されたとしても、実際に顧客に請求する打ち上げ代金がどこまで圧縮可能なのかはまだまだ不透明な段階とも見られています。現在のSpaceXは、実際の打ち上げを通じてどの程度の費用削減が可能かを検証している段階であり、「開発にかかった費用を回収するためには、顧客に提案する費用の値下げ幅が実際の削減分と同じになることはありえない」とマスク氏は語っています。

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SpaceXでは第1段ブースターに加えて、ロケットの先端をカバーする「フェアリング」と呼ばれる部品の回収・再利用についても開発を行っています。フェアリングは全長およそ13メートル・幅5.2メートルという巨大なもので、2枚を組み合わせてロケット先端の貨物を保護する役目を担っています。アルミハニカムと複合炭素素材でできた1枚600万ドル(約7億円)もする大きなパーツで、それぞれに噴射装置を搭載することで狙った軌道にのって地球に帰還できるようになっています。

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3月30日のSES-10ミッションでは、1枚のフェアリングが地上に帰還して海に着水したと見られており、SpaceXでは初のフェアリング回収ということになりそう。この「1枚7億円」というコストはロケット打ち上げ費用において大きく意味を持つものとなるため、フェアリングの回収技術もSpaceXの計画を大きく左右する要因の一つということになると見られています。ショットウェル氏はこの技術については前向きな見方を示しており、2017年に打ち上げられるロケットでは、さらに多くのフェアリングの回収が行われるだろうと述べています。

フェアリングの回収についてマスク氏は、「フェアリング回収を行うべきかどうかが議論に上がったこともありました。しかし考えてみてください、もし手元に7億円の現金があって、それが空に飛んで行って、海に墜落するとします。取りに行こうと思いませんか?もちろん思いますよね」と語っています。

SpaceXにとって、実際の費用の問題を今後は明らかにすることが不可欠といえる状況。しかしショットウェル氏は、これまでロケット業界が示してきた懐疑的な視線が、徐々に確信に変わってきていると見ています。SF作家のアーサー・C・クラーク氏が示した「革新的なことに対して人が示す3つのステージ」を使ってショットウェル氏は、「これまでの15年は『そんなの絶対に無理だ』と言われ続けてきました。そして今でも『可能だけど、やる価値はない』と言う声も聞きます。しかし一方で、『良い考えだとずっと思っていた』という反応を耳にすることも増えてきました」と、周囲の反応の変化を語っています。

SpaceXでは、第1段ブースターとフェアリングに加え、第2段ブースターの回収も視野に入れているとも言われており、いわば「ロケットの完全回収」が最終的な究極の姿としている可能性も。はたして、「ショットウェル (うまく打ち上げる)」という社長の名前のように、SpaceXがうまく成長できるかどうか嫌が応にも関心が集まりそうです。

◆一方、同じ民間ロケット開発企業の「Blue Origin」は
Amazonのジェフ・ベゾスCEOが設立したBlue Originでもロケットの開発は進められています。2017年3月初頭には、Falcon 9ロケットを上回る大きさを持つ「New Glenn」に搭載される予定の大型ロケットエンジン「BE-4」の組み立てが完了したことが報じられています。続く2基め、3基めも組み立て段階にあり、今後は実際にエンジンに火を入れての検査や性能評価が行われるはず。

ジェフ・ベゾス氏のBlue Originがついに大型ロケットエンジンを組み立て完了、「月へのAmazon計画」も浮上 - GIGAZINE


SpaceXと比較すると数歩遅れた感もあるBlue Originですが、ベゾス氏は今後、1年ごとにAmazonの株式を年間1000億円分ずつ売却することで開発資金を捻出する展望を語ったとのこと。世界有数の資産家であるベゾス氏だからこそできる計画であるわけですが、はたしてSpaceXとの間にあると見られる差を取り戻し、超巨大ロケット「New Glenn」を火星に送り届けることはできるのか、そちらからも目が離せません。

Jeff Bezos will sell Amazon stock every year to fund Blue Origin - The Verge
http://www.theverge.com/2017/4/5/15200102/jeff-bezos-amazon-stock-blue-origin-space-travel-funding

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