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IBMがクラウドを通じて量子コンピューターにアクセスできる商業サービス「IBM Q」を発表


量子コンピューターは2017年に「研究」から「開発」の段階に移行するとNatureが予測している中、IBMは量子コンピューターを「商業化」の段階に移行する準備を進めており、2017年内に「IBM Q」という量子コンピューターを使ったクラウドサービスを企業向けに提供すると発表しました。

IBM Q - US
http://research.ibm.com/ibm-q/

IBM Will Unleash Commercial "Universal" Quantum Computers This Year - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/ibm-will-unleash-commercial-universal-quantum-computers-this-year/

IBM is launching the "IBM Q" division to turn quantum computing into an actual business — Quartz
https://qz.com/924433/ibm-thinks-its-ready-to-turn-quantum-computing-into-an-actual-business/

IBMが発表した量子コンピューティングクラウドサービス「IBM Q」は、IBMが2016年5月から提供している無料クラウドサービス「Quantum Experience」を基に開発されているもの。Quantum Experienceと同様に、量子コンピューターを持たない研究者でも、クラウドを通じて量子アルゴリズムを構築できるサービスとなります。

IBM Qは量子コンピューターを使ったサービスといっても、既存のコンピューターより性能に優れているわけではないそうですが、従来より難しい複雑な計算をこなすことができ、将来的な量子コンピューター市場の発展を促す上で重要なシステムになると考えられています。IBMはIBM Qのサービス開始日、性能、コストなど一切の詳細を明らかにしていませんが、コストは有料で、2017年内にサービスを開始することだけ予告しています。


量子コンピューティングにはMicrosoftが研究を進めている「トポロジカル量子コンピューター」と、GoogleやIBMが実現を目指している「超伝導を用いた量子コンピューター」があります。IBMを除く企業はいずれも研究および開発の段階にありますが、IBMは「IBM Q」のスタートによって一歩リードすることとなります。量子コンピューターはいずれも従来の「0と1」という計算を、量子ビットにより複数同時に行うことができるのが特徴で、詳しい仕組みについては以下の記事を読むとよくわかります。

従来のPCの1億倍高速な量子コンピューターはどのような仕組みで動いて物理的限界を突破しているのかがわかるムービー「Quantum Computers Explained」 - GIGAZINE


IBMが提供している無料の5つの超伝導量子ビットで動作する「Quantum Experience」が発表された時、「量子コンピューターをオンラインで利用する」ために多くの課題を課題をクリアする必要がありました。メリーランド大学のイオントラップ研究所の所長であるクリストファー・モンロー氏は、「量子マシンをクラウドで実行できるようにすることは、間違いなくやる価値のあることです。しかし、システムが正常に動くレベルまで持っていくには、多くの作業が必要になります」と話しており、多くの研究者たちがQuantum Experienceを「単なる宣伝活動」と見なしていたとのこと。

IBM QはQuantum Experienceより多くの量子ビットを持つサービスになると見られており、正確な量子ビット数はわかっていないものの、Quantum Experienceが抱えていた問題を解決していることが期待されます。なお、クラウド上で量子コンピューターにアクセスすることは、プログラマーが「物理的な量子ビットの限界」を理解する必要性も生じます。IBM Qのウェブサイトでは、従来のプログラミングとどのような違いがあるのかを体験できる「量子カードゲーム」も公開されています。

Quantum Card Test - IBM Q - US
http://research.ibm.com/ibm-q/quantum-card-test/


問題が多いとされていたQuantum Experienceですが、これまで100カ国以上から4万人のユーザーを獲得しており、マサチューセッツ工科大学の大学院では量子コンピューターのプログラミングの練習にも使われたそうです。ほかにもQuantum Experienceのユーザーは合計で27万5000回の実験を実施済みで、Quantum Experienceを使った15個の研究論文も公開されています。メリーランド大学のイオントラップ研究所のモンロー所長は「IonQ」というクラウドベースのイオン量子サービスの展開を目指しており、Googleも超伝導量子コンピューターで同様の構想を描いています。IBM Qの登場を皮切りに、刻一刻と「量子クラウド」の時代が近づいているようです。

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in ネットサービス,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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