ナチスに禁止されながらもアポロ11号と月面まで到達したフォント「Futura」
幾何学的なデザインが多かった初期のフォントデザインの中で、1920年代に、今なお世界中で使われている現代的で可読性の高いフォント「Futura(フーツラ)」がドイツ人デザイナーのパウル・レナーによって発表されました。フーツラがナチス・ドイツに使用を禁じられるなどの危機を乗り越え、結婚式の招待状から芸術家・映画監督にまで愛されるフォントとして広まった経緯がムービーにまとめられています。
The font that escaped the Nazis and landed on the moon - YouTube
「Futura(フーツラ)」というフォントは世界中で広く使われています。
フーツラのフォントはナイフで切ったような鋭さと……
大きく丸く描かれたカーブが特徴です。
フーツラは芸術家のバーバラ・クルーガーのポップアートに使われており……
バーバラ・クルーガーのパロディアートとして、ストリートブランド「Supreme」のロゴも生み出しています。
ウェス・アンダーソン監督の2001年の映画「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」でもこのフォントを採用。
身近なところでは結婚式の招待状などにも使われ、世界中で人気のフォントとなっています。
しかし、フーツラがこれほどの知名度を得るまでにはさまざまな壁があり、最も大きな壁となったのが、あのナチス・ドイツです。
フーツラを発表したのはデザイナーはパウル・レナー。
1920年代に起きたデザイン運動であるバウハウス運動とは直接関係がなかったものの、レナーはその考え方を強く支持しており、フォントに対しては機能美を求めました。
当時のドイツで主流だったフォントは「フラクトゥール」でしたが……
レナーはフラクトゥールを「時代遅れで古くさい『レーダーホーゼン』(革製の半ズボン)のようだ」と表現していました。
そこで1927年にレナーが作り出したフォント「フーツラ」が発表されました。「Futura」とはラテン語で「未来」を意味しており、「私たちの時代の書体」という触れ込みで販売されました。
当時のフォントは以下の画像に写っている「g」のようにひどく独特で幾何学的なものが多かった中、フーツラは当時としては非常に現代的なデザインでした。
1896年の「Akzidenz Grotesk」や、1916年の「Johnston」のようにフーツラが登場する以前にも、同じ雰囲気を持つフォントは存在していましたが、レナーはフーツラを「独特で極めてドイツらしい書体」と呼んでいました。
フーツラは図説のテキストやグラフを説明するキャプションなどで使われるようになり、ドイツだけでなく世界中に広まり始めました。
「未来のシンボル」として知名度を得ていたフーツラでしたが、当時のナチス・ドイツ軍に目を付けられることになります。
ナチス・ドイツはレナーが「時代遅れ」と呼んだフラクトゥールを1930年代から採用し、フラクトゥールはナチス・ドイツを表すフォントになりました。同時にナチス・ドイツはフーツラを含むフラクトゥール以外の現代的なフォントを排除しました。
さらにレナーは有名な反ナチス・ドイツのエッセイを出版したことで、ナチス・ドイツからスイスに追放されることになり、追放中に逮捕されたこともあったとのこと。
しかし、ナチス・ドイツの方針は一貫しておらず、ナチス・ドイツの制服規定書にはフラクトゥールが多用されていますが……
いくつかのチャートにはフーツラが使われていました。
1941年になると、ナチス・ドイツは方針を一転し、フラクトゥールを「ユダヤ人のスタイル」として使用を禁止し……
レナーの「将来のドイツ語の書籍は読みやすくならなければならない」という主張に耳を傾けるようになったとのこと。この頃までにフーツラは国際的フォントとして確立されています。
第二次世界大戦中は、NASAの前身であるアメリカ航空諮問委員会(NACA)でも、現代的なサンセリフ系のフォントがよく使われるようになりました。フーツラのようなサンセリフ系のフォントは可読性が高く、計器など物理的な場所で重宝されたわけです。
NASAがアポロ11号の中に設置する盾章を作る時も、フーツラのフォントが使われました。
その後有名な映画監督のスタンリー・キューブリックや……
ウェス・アンダーソンもフーツラを愛用していたことが知られています。
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