インタビュー

今この時代に作る意味がある「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」シリーズ構成の福井晴敏さんにインタビュー


2016年9月に「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」が全七章構成で劇場上映されることが発表されました。副題としてついている「愛の戦士たち」は1978年に公開された劇場用映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」と共通のもの。「宇宙戦艦ヤマト2199」の続編として、この「愛の戦士たち」はどのような作品になっていくのか、そして子どものころにヤマトに触れていた人としての思いなどを、シリーズ構成として作品に携わる福井晴敏さんに伺ってきました。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち
http://yamato2202.net/

GIGAZINE(以下、G):
前作にあたる「宇宙戦艦ヤマト2199」(以降、「2199」)は全七章構成で劇場上映されたあとテレビアニメとして放送され、Blu-rayとDVDが50万枚越えというヒットシリーズになりました。プラモまで含めると「100億円経済圏」とまで言われるそうですが、続編である「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」(以降、「2202」)から参加する福井さんは、前作の盛り上がりをどうご覧になっていましたか?

福井晴敏(以下、福井):
ちょうど同時期に「機動戦士ガンダムUC」(以降、ガンダムUC)をやっており、私たちの世代からすると、この「ガンダム」と「ヤマト」という2つの作品はなかなかマニア層から飛び出していけない部分があったのですが、そこを飛び出した商売ができるようになったな、という感じはありました。

G:
「2199」が始まったときは、こんなにヒットするとお考えになっていましたか?

福井:
この点についていうと、今回の「2202」のもとになった「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」(以降、「さらば」)は観客動員数が400万人を突破しているんですよね。

G:
確かに、同年公開の邦画の中で2位だったと。

福井:
そう考えると「実はまだ潜在顧客の10分の1も取れていない」という考え方もあるわけで、そこを掘っていかないといけないな、というのが今回の作品です。


G:
特報公開時、「この『愛』は宇宙を壊す―――」というキャッチコピーがつけられていて、福井さんが書かれた企画書にも「愛を主題に掲げる」と書かれていたと聞きました。この「愛」という言葉、流行させたのは「ヤマト」だったという話なのですが本当ですか?

福井:
もちろん「愛」という言葉自体は、それまでにも「愛と死を見つめて」という書籍がありましたし、映画では定番であったのですが、たとえば「テーマは『愛』です」や、24時間テレビの「愛が地球を救う」といった使い方を思いつかせるもとになったのは、間違いなくヤマトでした。

G:
今や珍しくない使い方ですね。

福井:
使われるようになって盛り上がったんですが、1980年代の初頭ぐらいには「愛」という言葉が陳腐化して、「今さら感」が出てきてしまったんですよ。だから、「愛」という言葉を「哀」という言葉に変えた「ガンダム」の「哀 戦士」のように、「変化球で、もう少しドライに行った方がいい、今はそういう時代だよね」へと転換していくことになったんです。おそらく、その転換の理由を作ったのも「ヤマト」なんです。本来なら「さらば」で美しく去って行って、「愛」という言葉が伝説化して綺麗に収まれば良かったのですが、現実はそれから1年と経たずに「ヤマト」は帰ってくるんですから(笑)。そうすると「あんなに感動したのは何だったんだ」と思う人も当然いたわけで、そういうところから「愛」という言葉の陳腐化が始まったと。ただ、これは私よりも上の世代の人が感じ取った話で、私はむしろ復活した後の「ヤマト」からリアルタイムで見るようになった世代なので、そこはまた少し受け止め方が違うと思います。

G:
「ヤマト」を知るきっかけは初代TVシリーズの総集編である劇場版(第1作)が地上波放送されたのを見たことだとうかがいました。それで「さらば」を見に行こうとしたら、親御さんに「キタキツネ物語にしなさい」と言われてしまったと。再放送などではなくて、この劇場版で「ヤマト」の存在を初めて知ったのですか?

福井:
はい、当時の私は小学3年生ぐらいで、視聴対象からは全く外れていたので、劇場版で初めて「宇宙戦艦ヤマト」の存在を知りました。見た時は「何かすごいものを見た、こんなに真面目なまんががあるんだ」と思いました。当時、「アニメ」という言葉自体がまだ怪しかった時代で、「テレビまんが」と言われていました。

G:
「東映まんがまつり」みたいな感じですね。

福井:
劇場版で衝撃を受けたまではよかったのですが、見たのが親戚の家だったのが敗因ですね……。

G:
敗因(笑)

福井:
あの内容なら、親が一緒に見ていたら「なるほど、これなら大丈夫だな」と思ってくれたかもしれないんです。でも、親戚の家で見たものだから、親は見ていなかったんです。

G:
伝聞の形になってしまったと。

福井:
そうなんです。見ていない親に「『宇宙戦艦ヤマト』という作品がすごく面白いから見に行こう」と言っても「何だそれ、まんがだろう?」となってしまうわけです。当時はそういう時代でしたから。それで「代わりに、お前のためになる映画に連れて行ってやる」と言われて「キタキツネ物語」を見に行ったんです。いまだに、「ヤマト」が放送されるたびに「キタキツネ物語」でキタキツネが流氷に乗っていく姿が頭にちらつきますよ(笑)

G:
印象が強い(笑) なるほど、そういうことだったんですね。当時の親御さんでも、もし劇場版を見ていたら「ヤマト、行ってもいいよ」と言っていたかもしれなかったのに。

福井:
そういう感じがしました。でも、当時は「大人がアニメを見る」というのはありえないことで、子どもの付き合いで見る以外の理由がありませんでした。これは、「ヤマト」以降のアニメシーンで大人もアニメを見ていて、作品を追いかけていくファンもいるというのが当たり前の世の中になったので想像しにくいことだと思います。

G:
まさにおっしゃるとおりで、完全に別物という感じがします。

福井:
例えるなら……小さい子ども向けの番組である「おかあさんといっしょ」の中で大人でも泣けるミニドラマをやっていると、そういう情報が伝聞で耳に入ってきたら、最初は「そんな、まさか」と思いますよね。ミニドラマといっても、手を入れて動かすパペットのミニドラマで、しかも感動しているのは40代や50代の大人たちだと。それがニュースとして広まっていたら「なんだそれは!?」と思うし、同時に「見ている人たちがなにかおかしいのではないか……?」とも思われてしまう。

G:
「またまた、ご冗談を」という感じで、話半分に聞きそうではありますね。

福井:
「アニメの中でドラマをやる」というのは、それぐらいに特別なことだということです。もちろん、それまでに一切なかったというわけではないのだと思いますが、子どもの目にはそういうことは判別できるものではありませんし、アニメファンだって「ヤマト」以前からぼんやりとはいたらしいのですが、「俺には全然分からない世界」みたいな感じでした。

G:
なるほど……。

福井:
「アニメでお話を作る」というのは、今なら当たり前ですよね。「お話を作るから、それをアニメで表現する」と。でも、当時はそうではなかった。「おもちゃを売る」が目的だったり、「チューイングガムを売るとき、単にガムだけで売るよりも、テレビでやっているまんがのキャラクターがいるほうが子どもに受けるから」という理由でおかし会社がお金を出して作品を作っていたという世界だったので、極端な話、内容なんてどうだっていいわけです。でも、それを逆手にとってというのか、そんな環境の中でちゃんとした話をやってのけた。しかもその内容は、当時の日本の実写も含めて手つかずだったところに手を伸ばしたもので、上手く作ってしまったというのが「ヤマト」のすごいところです。

G:
「社会現象になったアニメ」にはそれだけの理由があったわけですね。

福井:
先ほどのたとえは我ながら上手いことを言ったと思います。人形劇のミニドラマがもとで、2時間30分の人形劇映画ができたと言われたら「ええ……本当に?」って思いますよね。しかも、それを10代の若者たちが見に行って、みんな泣いて帰ってくる。そりゃ「一体なにがおきたんだ!?」と思います。それぐらいの衝撃でした。

G:
「2202」の製作発表会が行われる前、2016年3月に制作に関するメッセージが発表されました。そこで福井さんは「自らが語り、自らが壊してしまったメッセージを再び語り得た時、『ヤマト』の真の復権が為されるものと確信します」と書かれていました。「2199」は昨今のアニメ作品としてはかなりのヒットだったと思いますが、メッセージの中で「真の復権」と書かれているということは、復権はなっていないとお考えということでしょうか。

福井:
また例え話になりますが……合コンに行ったとしましょう。アニメとは全く関係のない、地域コミュニティで行われる街コンみたいなものでもいいです。その場で「宇宙戦艦ヤマト」を話題にできますか?

G:
……いやー、よほど趣味が合えば別かもしれませんが……。

福井:
もちろん、その話題に食いつく人だけを釣り上げるという使い方もありますが、まあ、できませんよね。でも、当時の「宇宙戦艦ヤマト」というのは、知っている人なら「見た?」「見た!」という感じだったんです。それこそが「社会現象」ということだし、「さらば」の観客動員数400万人という数字なんです。

G:
「今日のジャンプ読んだ?」とかのノリですね。

福井:
そうやって考えてみると、「さらば」以降に作られた完結編などを含めて、復権はされているでしょうか。一度上った高みまで再び上り詰めて、そこを越えなければ。少なくとも、同じところまで達しなければ「復権」とは言えません。

G:
「見た?」「見た見た!よかったよね」というレベルまで持っていかなければいけないと。

福井:
そうそう。ちょうど「君の名は。」といういい例がありますね。あれに匹敵する状態だと思っていただけたらと思います。

G:
「『実は』まだ見ていないんだよね」とこっそり白状するような人が出てくるぐらいですね……。

福井:
そして「見てみてどうだった?」というところで、合コンの中でカップリングが自ずとできていく様な話題が提供できるというレベルだったんです。

G:
うーむ、なんというパワー……。

福井:
「2199」で生まれ変わったとはいっても、「『ヤマト』って古い作品だよね」と思っている人は少なからずいると思います。でも、「昔、『ヤマト』の映画は『君の名は。』みたいに大ヒットした」と聞いたら、少しは見てもいいという気になるでしょう? 実際、若い人たちには、原点である「さらば」を見てみてもらいたいです。今見たらどう感じるのか、そして、それを見た上で今作り直したことにどんな意義があるのか、改めて「2202」を見て確認してもらえればと思います。

G:
なるほど。

福井:
もちろん、「2199」を見ていたから続きも見ようという方についても「さぁいらっしゃい!」という感じで、決して期待は裏切らないことは断言できます。でも、それ以外の「そっちの方にはまるで不案内です」や「『ガンダムUC』は見たけど、さすがに『ヤマト』まではなぁ」という人たちについても、だまされたと思って「さらば」の方を少し見てみて、それから「2202」を見てもらうと、「なるほど、今これを作る理由があるんだな」ということが分かってもらえるんじゃないかなと思います。

G:
「2202」の「2」という数字には「宇宙戦艦ヤマト2」(以下、「2」)の意味合いを込めたと伺いましたが、副題には「さらば」と同じ「愛の戦士たち」がついています。基本的には「さらば」がベースで作られているのでしょうか。

福井:
「さらば」がベースですということになると、終わりがどうなるかも自ずと決まってしまいますが、そこはまだ分かりませんよ!(笑) 「さらば」と「2」、どっちを見た人でも……どちらかしか見ていないという人はそういないと思いますが(笑)、どっちを見た人でも「この絵、知っている!」という部分が完全再現されています。

G:
「2199」や2009年公開の映画「宇宙戦艦ヤマト 復活篇」から入ってきたような、「さらば」や「2」を知らない新しい世代のファンもいると思いますが、そういったファンへのアピールについてはいかがですか。

福井:
新しい世代の方々だと、もう単純に「愛の戦士たち」という言葉に興味がないでしょう?(笑) でも当時、そのタイトルと同じ副題を冠した作品が今の「君の名は。」のように大ヒットしたのだから、「このタイトルに恥じない現在の作品」を作ればいいと考えてやっています。「愛の戦士たち」を変えてしまうと、そもそもこの作品をやる理由がないということですから。

G:
単に「宇宙戦艦ヤマト2202」だけでは意味がない?

福井:
意味がないし、それでは「宇宙戦艦ヤマト2199」の8割掛けになっていくだけのことだと思っています。もし50年後、「君の名は。」をリメイクするとしたら、きっとタイトルは「君の名は。」のままか近いものになるはずで、全く別の名前に変えてしまう人はいないと思います。それと同じことです。「『君の名は。』ってあり得ないタイトルだな……もっと今っぽいものにしよう」というのなら「だったら作るな」という話ですよ。今はあり得ないと思うような言葉でも、「今だからこそ必要なんだ」に転換していくことができてこそ、初めてやる意味があります。

G:
「ガンダムUC」制作のときに福井さんは「コンテンツがおかゆ化している」ということを仰っていて、「2202」でも作品資料の中で触れられていました。「2202」はおかゆではない、噛み応えのある作品になっていますか?

福井:
今のアニメは、とひとくくりにすると乱暴ですが、何も考えないで「つるつる飲めちゃいました」という作品が多いように見受けられます。でも、「他になにか食べ応えのあるものはないかな」と思っている人たちに向けて、あるいは、今いるアニメファン層とは別に、今迷っていることや悩んでいることがある人に向けて、何らかの道筋が見えるような作品になっていると思います。「さらば」当時のお客さんはそれを求めてきていましたから。フィクションは「現実を忘れるためのもの」という面がありますが、同時に「現実とどう折り合っていくか、乗り越えていくか」という考えを養う時間であってもらいたいとも思っています。

今のアニメは、えてして「現実逃避」に重きが置かれている部分があります。しかし本来、実写でやったら地獄絵図になってしまうものや角が立ちすぎるということを、うまく批評精神を含めて表現できる媒体なので、その機能はちゃんと使っていきたいと思っています。これは「ガンダム」のときもそうでしたし、「ヤマト」だってもともとがそういう作品ですから、その精神はしっかりと受け継いでいきたいと考えています。

G:
なるほど。

福井:
噛まないといけないものは喉につっかえてしまうかもしれないから、それに対応したもの作りを、ということでは語るべきことも語れません。そこで、ある程度咀嚼することができるお客さんたちが来ることが見込めるコンテンツである「ガンダム」や「ヤマト」に関してはしっかりとやります。今、多くの海外ドラマがネット配信されていますよね。あれはお客さんがお金を払ってみることが前提で「この時間にはこれを消費しよう」と覚悟して見ています。この人たちと、「YouTubeで何か面白いものがあったら見よう」という人たちとでは層が違うんです。YouTubeばかり見ている人にはたぶんお金を出してコンテンツを買うという習慣がないので、「見てもらおう、買ってもらおう」と思っても無駄なんです。でも、一方では「より面白いものを見たい、それを見るためなら時間も投資も惜しまない」という人たちもいる。であれば、その人たちにしっかり訴求できるものにしようと考えました。これをすると、反対側の層の人たちには「そんなものは要らない」と敬遠されてしまうんですが。

G:
ふーむ……。

福井:
でも、この「確実に買ってくれる人」のところにしっかり狙って球を打っていこうと、そういうことをしているアニメーションは意外と少ないです。みんな、どうしても「若者にアピールしなきゃ」「ネット時代に対応しなきゃ」と、「こちら側」にしたがるんですが、そこにはいくら球を打っても返ってこないよという思いがあります。それよりも、お金を払う意志がある人のところにしっかりと持っていくことです。情報伝播力、いわゆる「バズる力」でいうと騒ぎになったほうが瞬間的には盛り上がりますが、売り上げとしてはそんなに上がるわけではありません。反対側の層だと、急に伸びることはありませんが、確実な売り上げの蓄積があります。「2199」はBD・DVDが50万本売れているとおっしゃいましたよね。

G:
はい。

福井:
「ガンダムUC」は190万本でした。一方で「機動戦士ガンダム」、いわゆる「ファーストガンダム」の映画3部作は、「ヤマト」には最後まで勝てませんでした。ということは、「ヤマト」の方がパイが大きいということです。「ガンダムUC」が200万本近く売れているということは、「『2199』の50万本では足りないのではないか、もっと伸びしろがあるのではないか?」と、我々は考えているわけです。

G:
確かにおっしゃるとおり、「さらば」の数字なども含めて考えれば、考えられるパイはとんでもない大きさのはずです。「ガンダム」の映画3部作は「ヤマト」にかなわなかったというお話がちょうど出たところで、この2作品、福井さんの周辺では当時どんな扱いだったかお伺いしたいのですが、「ヤマト」の方が話題になることが多かったですか?

福井:
これは世代差もあるかもしれませんが、私の周囲だと完全に「順番にやってきた」という印象です。数字で見ると、両者が併走している時期が確かにあるんですが、子どものブームとしてはまず「ヤマト」があり、次に「ガンダム」が来たときには「ヤマト」はきれいに終わっていました。本当にスルッと次に移行したという感じでした。

G:
「『ヤマト』だ」「いや『ガンダム』だ」という戦いではなく、子どもたちの中での立場が引き継がれたような。

福井:
そうですね、「どっちが良い」とかいう議論ではなくて、「次はこれか」という感じでしたね。「ガンダム」に関しては私の世代が上限だと思います。「ガンダム」ブームが始まったのは小学校5年か6年のときで、たぶん中学生になっていたら私も「ガンダム」ブームには乗っていなかったと思います。小学生と中学生って1年違いでも意識としては違いますからね。反対に、「キン肉マン」は中学生のときだったので「さすがにないよな」と思っていました。

G:
絶妙な時期だったんですね。

福井:
絶妙な時期に「ガンダム」がかすめていって、それに掴まっていきました(笑)。私より1歳上になると、とたんに「『ガンダム』を見ていない」という人が増え始めます。その人たちは反対に「ヤマト」で卒業して終わっているんです。

G:
「卒業」ですか。

福井:
当時、ある程度の年齢の人には「ロボットはないよ」という感覚があったので、「ヤマト」ファンの中核だった人たちが明確なロボットアニメである「ガンダム」できれいさっぱり卒業して、アニメを見ることすらやめてしまったと。

G:
ははあ、なるほど。

福井;
そういった人たちがヤマト以降、近々見たアニメといえばスタジオジブリの作品だったりして、「『となりのトトロ』がキネマ旬報のベスト10に入ったらしいよ」という話を聞いて「えっ!?」と思って見てみたというような世代ではないかと思います。ここで卒業していると、1983年に劇場公開された「宇宙戦艦ヤマト 完結編」などは見ていないのではないでしょうか。

G:
そういうことがあるんですね。

福井:
つまり「さらば」で止まっているような休眠層が相当数いるわけです。この人たちはこれから軽佻浮薄の時代の1980年になっていくというときに、「そうあってはならぬ」という最後の楔として打ち込まれたこの作品に涙した人たちなので、当然噛み応えのある話を求めているはずです。ただ、そういう人たちはPCの使用頻度などからしても我々のような少し下の世代とはかなり違っていたりするので、作品の存在をどう浸透させるかなかなか難しいところですが、まずは「2199」で軽く粉はかけてあるので、少しでも届いてくれたらと思います。

G:
先ほどから「さらば」と対比して名前の出ている「君の名は。」だと、「すごく話題になっているから見に来た」という中年から壮年の方々の姿も見かけます。

福井:
あれだけの騒ぎになると見に行きましょうという人も出てきますよね。あの人たちがそうやって足を運ぶようになったのは、近々でいうと宮崎駿さんを筆頭にスタジオジブリ作品が定期的に公開されて、映画館でアニメを見るということに抵抗がなくなっているというのがありますが、その原点はまさに「ヤマト」にあると思います。彼らがティーンエイジャー、当時だと「ヤング」といった言葉でくくられていた時代、熱狂しているものの1つが「ヤマト」でした。

G:
そういった話を聞くと、こうして「愛の戦士たち」という言葉が入っていることの重さを感じます。「あの『愛の戦士たち』」ということですね。

福井:
そうなんです、全然違ってきます。ただし、1本目の「ヤマト」に対して2本目の「さらば」は裏切りであると捉える人もいるのは事実ですし、「あれだけ『愛が大事』と言っておきながら、結局最後には命を武器にして特攻したりとかして矛盾じゃないか」という意見もあります。もちろん、その意見も確かにそうなのですが、「さらば」はそういった偏見を取り払って見てみると、もっと大きなことを描こうとしているお話だったので、今回はそこもしっかり狙ったつもりです。

G:
拒否反応を示した人も今度はちょっと見て欲しいと。

福井:
「ヤング」たちも今は50代半ば、そろそろリタイアが視野に入ってくるけれど、リタイア先もよく分からない、年金がもらえるかも分からない。「勝ち逃げ世代」なんて言葉がありますが、目の前で勝ち逃げされていく、まさにそこから下が「ヤマト世代」だと思います。「2202」は、思っていた未来と全く違うことになってしまって、そこからどう巻き返して行くか、脱却していくか。脱却した先にはこんな苦労があったけれども、その苦労を乗り越える意味があっただろうか、というお話になっているので、「ヤマト世代」の人たちには響く話だと思いますし、同時に、これから高齢化社会の流れがしばらく止まりそうになく、暗い未来しか用意されていないと感じてしまっているような20代、10代の人たちが見ても響くものになっているのではないかと思います。

G:
こうしてお話を伺っていると、制作のタイミングはまさに今だったという感じがします。「君の名は。」をはじめ「聲の形」「この世界の片隅に」、CGですが「GANTZ:O」など、2016年はアニメ映画で話題になる作品が多々あり、波が来ていますね。

福井:
制作している時には、こんな状況になるとは思っていなかったですけれど(笑)、アニメを見るということについて波が来ているというのはそうかもしれません。

G:
「宇宙戦艦ヤマト」のリメイクが「2199」で、その続編にあたる「2202」についてはベースとなる部分が「さらば」と「2」の2作品となりますが、これもリメイクという呼び方でいいでしょうか。

福井:
あくまでもリメイクはリメイクです。しかし、同じ道筋をたどって同じ結論に行くという保証はありません。当時それを見た人たちがどう感じたかということを今風に読み解いて作っているので、「さらば」に触れた人が「懐かしい」と思うのではなく、「もう一度体験する」という感じです。

G:
新鮮なものなんですね。

福井:
新鮮であると同時に、「あのときに泣いたのはこういう意味だったか」ということを再確認してもらうようなものです。なんだかじじ臭いことばっかり言ってしまっている気がしますが(笑)、「さらば」を見た今は40代や50代の人が当時と何が違うかといえば、大半の人が家庭を持っているということです。家庭があると「さらば」のように簡単に特攻してはいけないと思うはずです。自分のほかに命と同じぐらい大事なものがあるという状況ができたとき、人が「さらば」みたいな状況に置かれると何をするだろうかということですね。当時は若者としてこれから大人社会に組み込まれていくのは何か嫌だとか、純粋な若者たちがそういうことに「否」を突きつけて特攻していったことに涙したという構造があったわけですが、今は自分たちが大人になってしまっています。もし自分がいなくなったら残されたものはどうあるのかと考えたとき、簡単に「ノー」と言って突っ込んでいくわけにはいかないんですよ。そういう面からも、人間はどこまで抵抗できるだろうということには興味を持っていただけるし、子どもの側から見た当時と、大人の側から見た状況が合わさってはじめて、当時「さらば」を見たことの意味が完成するのではないかと、そういう風に作っているつもりです。

G:
「こんな時代だから希望のないものはつくりません」というお話もありましたね。

福井:
今の自分の人生をどう捉えているかという部分とも関わってきますが、悲観的であれ楽観的であれ、それぞれが受け止めた上で、自分の人生を少し離れて客観視できるようになっているんじゃないかなと思います。

G:
なるほど。こうした「骨太」な作品を待ち望む人はもちろん、新しく「ヤマト」の世界に入ってくる人たち、そしてアニメからちょっと離れてしまっているかもしれないヤマト世代の人たちと、多くの人々に見て欲しい作品ですね。

福井:
だまされたと思って見てみて下さい(笑)

G:
本日はいろいろなお話をありがとうございました!


ちなみに「宇宙戦艦ヤマト2199」を見逃していたという人向けに、桐生美影役の中村繪里子さんによるナレーション付きで本編の内容をギュッと圧縮した「『宇宙戦艦ヤマト2199』総括PV」がYouTubeで公開されているので、これを見るだけで復習はバッチリです。

『宇宙戦艦ヤマト2199』総括PV【ナレーション:中村繪里子】 - YouTube


さらに「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第一章 嚆矢篇」の冒頭12分も公開されています。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第一章 嚆矢篇 冒頭12分(完全版) - YouTube


「『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第一章 嚆矢篇」の公開は明日・2017年2月25日(土)。ぜひ、新たなヤマトの伝説を見守ってください。

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in インタビュー,   動画,   映画,   アニメ,   ピックアップ, Posted by logc_nt

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