「Airbnbがもたらす負の影響」と戦い続けるデータ・アクティビストの話


旅行プラットフォームのAirbnbはこれまでになかった旅の方法を可能とするツールである一方で、商業目的でAirbnbを利用してアパートを運用する人々の影響によって都市部でアパートが不足したり家賃が上昇している、という問題が報告されています。これらの問題と関連して、「Airbnbが公開しているデータが自身の集めているデータと矛盾する」という点に気づき、「Airbnbはデータを隠している」と告発したデータ・アクティビストが、いかにAirbnbとそれを取り巻く周囲を変化させたのかについて、Backchannelがまとめています。

A Lone Data Whiz Is Fighting Airbnb — and Winning
https://backchannel.com/a-lone-data-whiz-is-fighting-airbnb-and-winning-7fd49513266e

2015年11月にAirbnbは「ニューヨークにおけるAirbnbコミュニティーのデータ」を発表。この発表の中で述べられているのは「ニューヨークにいる78%のAirbnbホストはAirbnbによる収入が低いか、適度か、中程度である」「ニューヨークにいる72%のAirbnbホストは稼いだお金を部屋をシェアするために使う」「ニューヨークにいる36%のAirbnbホストはAirbnbによる収入が安定しておらず、多くはフリーランスやパートタイムで働く人、もしくは学生である」ということが記されています。これらの公開されたデータから判断すると、一見、ニューヨークのAirbnbホストの多くは1つのアパートメントしか持っていないかのように見えます。

Data on the Airbnb Community in NYC - New York City
https://new-york-city.airbnbcitizen.com/economic-impact-reports/data-on-the-airbnb-community-in-nyc/

このデータに疑問を持ったのが、アクティビストのMurray Coxさん。Coxさんはドキュメンタリー写真を撮る写真家ですが、一方で、世界各都市におけるAirbnbの物件情報を集め、インタラクティブなマップに表示させるという活動を行っています。以下がCoxさんの運営するAirbnbの物件情報をマップ化した「Inside Airbnb」です。

Inside Airbnb. Adding Data to the Debate.
http://insideairbnb.com/


例えば以下はカナダ・モントリオールのマップ。赤い点が「まるまる貸切」、緑の点が「個室」、青い点が「シェアルーム」を示しており、「Airbnbを使ってホテルのような形で部屋が運用されることによって、都市で家を持つことが難しくなる」ということが指摘されています。

Inside Airbnb: Montréal. Adding Data to the Debate.
http://insideairbnb.com/montreal/


Inside Airbnbの数字を定期的にアップデートし、Airbnbが発表するデータと自身のデータを比較していたCoxさんは、2015年11月に行われたニューヨークに関するAirbnbの発表を見て、自身のデータと食い違いがあることに気づきました。Airbnbが発表する前と後で、多くの物件が姿を消していたのです。

また、2013年からAirbnbやUberのデータを集めてウェブサイトで公開していたTom Sleeさんも、Coxさんと同じことに気づきました。そこで、以前からやりとりがあった2人が自分たちが持っている情報を比較したところ、Airbnbが2015年11月に3万6000件の物件のデータを公開する直前に、何千という物件が姿を消していたことが明らかになったとのこと。そしてすぐに、この「姿を消した物件」が、Airbnb上で複数のアパートを運用するホストであったことが判明します。ニューヨークでは2010年に「アパートなど複数の世帯が住む建物において、ホストがいない状態で部屋を短期的に貸し出すことを禁止する」という法律が施行されました。Coxさんらは、Airbnbがこの法律に違反していた物件を削除して隠し、イメージ操作を行ったのだろうと考えました。

2010年に施行された法律では「ホストがいない状態で部屋を短期的に貸し出すこと」が禁じられていますが、複数の物件を所有するホストは、一度に複数の物件に滞在することができません。つまり、複数の部屋の所有者は法律に違反していた可能性が考えられます。また、物件を1つしか持っていなくとも、アパートを短期間「まるまる貸出」にしていたホストは同様の理由で法律に違反していたはず。2015年11月にレポートが公開された直前と直後で数千の物件が姿を消しましたが、Coxさんらが調査すると、その時姿を消したもの以外の物件の中にも、「まるまる貸出」のアパートの部屋が見つかったそうです。

2016年2月10日、CoxさんとSleeさんはInside Airbnbの中で「How Airbnb hid the Facts in New York City(Airbnbはいかにしてニューヨークの事実を隠したのか)」という記事を公開。Airbnbがレポートの直前に物件を削除することで、自社のビジネスをより好ましいものに見せ、メディアや世論に影響を与えたと主張しました。

How Airbnb hid the Facts in New York City - Inside Airbnb. Adding data to the debate.
http://insideairbnb.com/how-airbnb-hid-the-facts-in-nyc/

2人のレポートを受けて、大手ニュースサイトも「よりよいポートレートを作り出すためにAirbnbが物件を削除した」と報道します。

Airbnb Purged New York Listings to Create a Rosier Portrait, Report Says - The New York Times
https://www.nytimes.com/2016/02/12/business/airbnb-purged-new-york-listings-to-create-a-rosier-portrait-report-says.html


Airbnb purged more than 1,000 New York listings to rig survey – report | Technology | The Guardian
https://www.theguardian.com/technology/2016/feb/10/airbnb-new-york-city-listings-purge-multiple-apartment-listings


これらの報道に対してAirbnbは当初、「10月終わりはハロウィーンのためニューヨークやマンハッタンは来訪者が増え、宿泊可能な物件が減少します」と説明。Sleeさんらは記事の公開に際して注意深くデータを分析しましたが、もしかしたら自分たちに見過ごしがあったのかもしれない、と心配を募らせました。

しかし、CoxさんとSleeさんがレポートを公開してから数週間後、Airbnbはニューヨーク州とユーザーに向けて2人の主張を認める旨の(PDFファイル)発表を行いました。この中でAirbnbは「昨年度11月にニューヨークの物件約1500件をプラットフォームから削除しました。これらは商業目的で運営がされており、Airbnbのコミュニティのビジョンを反映するものではありませんでした」と記しています。

そして、Airbnbが発表した数カ月後に短期滞在レンタルの広告をAirbnbに掲載することを違法とする条例が可決。その後、Airbnbが部屋の貸出を登録制にする法律は違法だとして市を訴え、2016年12月に、破った違法な民泊に対しては、AirbnbではなくAirbnbを通じて違法に民泊を運用しているホストに対して直接罰金を課すことで合意しました。この法律の違反者は、1回目の違反では最高1000ドル(約10万円)、3回目には最高で7500ドル(約78万円)の罰金が科せられます。なお、Coxさんらのレポートを受けた報道に際して、ニューヨーク州の司法長官であるエリック・シュナイダーマン氏の広報担当者は、「我々が会社と対面した2014年に2000件の物件が削除されたように、Airbnbは違法な活動を隠すために再度データの操作を行ったように見える」とコメントしており、レポートが条例の可決に影響を与える一因となったとも見られています。

現在、Airbnbは「1ホスト1ホーム」というルールを掲げ、複数の家を借りて民泊を行っているホストを取り締まる意向を示すとともに、毎月に削除した物件の件数といった情報も公開しています。これらの方向性は、Coxさんらが発表したレポートを始めとする経験からAirbnbが学んだ結果であるとBackchannelは示唆しています。

個人の力はそれ単体としては小さく見えても、Uberのアカウント削除を促す「#DeleteUber」が社会に影響をもたらしたように、時に大きな力をもたらします。ニューヨークでは規制が生まれましたが、その他の都市ではAirbnbが問題として取り上げられることは多々あります。Coxさんは今後もInside Airbnbを続けていく予定であり、「Airbnbが適切に取り締まられるようになったら活動をやめたいと思います」と語っています。

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