取材

「冬の花火会社って何をしているの?」花火の知りたい事が分かる動画を制作している花火師にインタビュー、花火工場も見学してきました


夏には全国各地で打ち上げられ夜空を彩る花火ですが、「花火ってどうやって作るの?」「どうやって打ち上げてるの?」など、花火についての疑問や花火大会を楽しく見る方法などを動画で解説している花火業者の加藤煙火株式会社を訪ね、花火工場の見学と花火師の加藤克典氏に動画の内容や花火についていろいろと聞いてきました。

加藤煙火株式会社
http://www.katoenka.jp/

◆加藤煙火株式会社が公開している花火関連動画
加藤煙火株式会社が公開しているYouTubeチャンネルは以下のとおりで、花火の仕組みや歴史がわかるムービーが40本以上公開されています。
加藤煙火株式会社 - YouTube



以下のムービーは花火の仕組みについて構造から解説しているもの。花火師の加藤克典氏自らが解説者となって花火の仕組みを説明しています。

【花火のしくみ編】#1花火の構造~3つの火薬~ - YouTube


本物の道具を使うことで、絵や写真だけで解説されるよりも具体的でわかりやすい内容です。


点火装置はどういうものか、どうやって花火に着火させているのかなど、「ここが知りたかった」というような一歩踏み込んだ内容や花火業者だから実演できる内容などもあります。

【花火のしくみ編】#8点火器 - YouTube


打ち上げの現場の様子も公開されていました。

【花火の現場から】#3下から見た花火 - YouTube


「花火大会の発数に注目しがちですが、同じ1発でも使われる花火玉の大きさによって迫力が全く違うので、どんな大きさの花火が上がるかにも注目するのといいです」と、花火大会を選ぶ方法を解説する動画もあります。

【花火の鑑賞編】#10花火大会の選び方1 花火の大きさで選ぶ - YouTube


冬の間に花火業者が何をしてるのか作業風景を交えて説明している動画もありました。

【花火のしくみ編】#5花火屋さーん、冬の間は何してるの?玉貼り編 - YouTube


◆実際に加藤煙火株式会社を訪ねてみました。

加藤煙火株式会社の花火工場に到着。倉庫の前に、何か作業をしている作業員が居ます。


打ち上げ用の筒のさびを削る作業が行われていました。


巨大な打ち上げ用の筒が置いてあります。銀色の大きな筒は直径約90cmの三尺玉を打ち上げるために使う筒で、高さは約4mほど。iPhone 6を置いて比べてみましたが、桁違いの大きさです。


花火師の加藤克典氏に、話を聞きました。


GIGAZINE(以下、G):
今回、冬の花火工場の様子がどのようなものなのか見学したかったのと、花火動画について聞きたい事があったのでお邪魔させて頂きました。まずは、加藤煙火株式会社についてお聞きします。加藤克典さんは、加藤煙火の五代目なのですね。

三河花火 最明流 加藤煙火株式会社 加藤克典(以下、加藤):
はい、系統で言うと分家にあたります。本家は今は廃業しており、この加藤煙火株式会社が花火製造を続けています。

GIGAZINE(以下、G):
加藤煙火では三河地方で見られる手筒花火も扱っていますか?

加藤:
はい、花火大会やテーマパークイベントなどの打ち上げ花火以外に、手筒花火やブライダルセレモニーなどで使われる演出用の花火も扱っています。


G:
早速ですが、公開されている動画についていくつか質問させて頂きます。なぜ、動画を作ろうと思われたのですか?

加藤:
一般的に「何発上がる」という発数が花火大会の価値基準と思われる人が多いかと思います。この話題の時によくする例えで、牛肉のA4・A5というランク表示は、昔は無かったと思うのですが、業者が「牛肉にはこのような基準がある」ということを周知させたことで、今では一般の人にも知られ、量だけではなく質も考慮できるようになっています。私たち花火業者も、「量だけではない花火の価値基準を知ってもらわないといけない」と思い動画制作を始めました。

G:
花火師自らが出演され動画制作されているというのがいいですね。

加藤:
自ら活動を始めないといけないということと、製造業者だからこそ、花火の制作過程や打ちあげ風景を自由に撮れるという強みがあるので、そこは意識しています。

G:
業者だからといってマニア向けの内容に偏らず、ごく一般の人向けにもわかりやすい内容となっています。

加藤:
一般の人に見てもらわないといけないので、できるだけわかりやすいように制作しています。

G:
「どうして花火の星(花火が開いてから光る火薬の粒)が黒いのか」のように、見逃しがちな部分もきちんと説明されていて「そうだったのか」と気付かされることもあります。このような質問なども加藤さんが考えて作られているのですか?

加藤:
実は、動画の撮影や編集などは妻にしてもらっています。テーマや最初の原稿などは私が考えるのですが「ここはより丁寧に」とか「こういう風に見せて」というようなアドバイスもしてくれます。

G:
専門家目線だけではない一般的な目線でも作られているというのは、実は奥様の協力があったからなのですね。奥様は花火とは関係のない方だったのですか?

加藤:
はい、2年前に結婚したのですが、それまでは別の会社の営業をしていました。自分もわかりやすくなるようにと考えているのですが、さすがプロというか、人に説明する方法などは妻のほうが詳しいので、助けられています。

G:
意図はないと思うのですが、動画は3分前後にまとめられていて飽きずにみられますね。

加藤:
実は、これも本当は1分で作ると妻に言われてたのですが、さすがに1分では長さが足りないということで、3分前後の動画になっています。もっと、短くまとめないといけないですね。

G:
【花火の鑑賞編】#5冠菊(かむろぎく)」にて、花火がゆっくりとキラキラ光ながら落ちてくる冠菊はもともと失敗から生まれたものであるという話がありましたが、今でもこのように意図していなかったものから新しい花火が見つかるということはありますか?

加藤:
あります。「この色でこうやって光らせたい」と思って火薬を配合したものが、思うように光らなかったのに「別の配合で作って打ち上げたもので実現してしまった」みたいな事はありました。

【花火の鑑賞編】#5冠菊(かむろぎく) - YouTube


G:
私を含め花火鑑賞士から質問をいくつか用意させて頂いているので、質問をしたいと思います。花火職人というと頑固で寡黙な人たちが多いようなイメージを持っていたのですが、加藤さんはとても気さくで現代の若者という感じで驚きました。

加藤:
私より前の世代だと、そういう堅いイメージの人も多かったと思いますが、私たちの世代では気さくな人たちのほうが多いですよ。

G:
花火師に向いている性格などありますか?

加藤:
特にこういう人じゃないと駄目というのはなくて、むしろ、いろいろなタイプの人がいないといけないと思います。のめり込んでやる人だけが集まってもだめですし、だからといって熱心な人が1人もいないと商品開発ができない会社になってしまいますし、いろいろな性格な人が集まることで花火会社が成り立つと思っています。

G:
「お客様が喜ぶ花火を作りたい」とFMはなびの「花火の星」という番組のインタビューで答えられているのを聞いたのですが、「お客様が喜ぶ、お客様の反応」というのは、どこで知るのですか?

加藤:
現地での歓声です。

G:
打ち上げの現場まで、見ているお客さんの反応が伝わってきますか?

加藤:
はい。「お客様からの拍手や歓声が聞こえること」が花火を打ち上げていて一番喜びを感じます。製造業だけど消費される現場にも立ち会えるのが、私たち花火業者の特徴でもあるかと思います。お客様の反応で「今日は良かったなぁ」「今日は駄目だったなぁ」と現場で感じることができます。

G:
「駄目だったなぁ」という思われることがあるくらい、お客様からの反応というのはある時とない時とで違うものですか?

加藤:
全然違います。やはりよい花火だと歓声はすごいです。

G:
「花火がうまく打ち上がりきれいに開るように」と、何かゲン担ぎのようなことはされたりしていますか?

加藤:
うちでは特にありません。神棚やお札などは事務所や作業場などに飾っています。

G:
機械化されていて大量に生産している花火などはありますか?

加藤:
いえ、すべての花火が手作りとなっています。

G:
今、花火玉を作る作業などされていますか。見学してもよろしいでしょうか?

加藤:
どうぞ、今から見に行きましょう。

G:
ありがとうございます。

ということで、花火工場を見学することに。

敷地の途中からは、関係者以外立ち入り禁止の場所となります。少し坂を上ったところに、小屋がありました。万が一の時でも被害を最小限に抑えるようブロック塀が建てられています。


ブロック塀を回り込んだところに作業場の入り口がありました。


花火師の尾崎正仁氏が花火の玉に火薬を詰める作業を行っています。火薬を扱うことから、部屋には暖房がありません。この日は雪が降るほどの寒い日で、部屋も冷え込んでいました。


詰めている丸い粒状のものは「星」と呼ばれるもので、花火が開いた時に赤や緑などの色を出す火薬です。まずは、この星を花火の玉を半分に割った「玉皮」と呼ばれる玉の殻に並べていきます。この花火は直径約12cmの4号玉という大きさの花火です。


玉皮に沿って並べていると、途中から星が崩れてしまいます。そこで、和紙でくるんだ小さな器を置き、玉皮との隙間に星を並べていくことで形が崩れるのを防ぎます。


和紙を広げ、型を作っていた器を取り出した後、花火を爆発させる「割薬」と呼ばれる火薬を詰めます。星と割薬が混ざらないようにするため、和紙はそのまま残します。


割薬を詰めた後、和紙を閉じてテープでふさぎます。同じものを2つ作り、ここから……


中身が漏れないように素早く合わせます。


合わせた玉を木の棒でたたき隙間を詰めて火薬を落ち着かせるのですが、軽くたたいて調整するものかと思いきや、床から振動が伝わってくる程思い切り強くたたいていました。


形が整ったらテープで継ぎ目をしっかりとふさぎ、花火玉らしい形になりました。しかし、まだこれで完成とはなりません。


完成するためには、「玉貼り」という花火玉の周りに強度を増すためのクラフト紙を貼る作業を行わないといけません。この作業場も火気厳禁ですので、暖房はありません。厚着をして寒さをしのいでいます。


紙を貼ってはのりを乾かし、貼っては乾かしと何度も繰り返して強度を上げる必要があります。花火玉に「10」と書いているのは、10回玉貼りの工程が繰り返されたという意味です。花火が勢いよくきれいに広がるかどうかは、この玉貼りの回数、すなわち強度も重要な要素で、何回繰り返すかは花火の大きさや種類によって違い、その回数は企業秘密とのこと。


こちらは小さなかわいい花火玉。このような小さな花火も、ひとつひとつ手作業で作られています。


そして、この日見た中で1番大きな花火玉。直径約30cmの尺玉です。


こちらは、星を乾燥させるために天日干ししているところ。


火薬を調合する工程が一番危険で、作業場の小屋はコンクリートの塀で囲まれています。


倉庫には花火を打ち上げる道具が保管されています。1本に1つの花火を入れて発射するとのことで、○千発という花火大会の場合、打ち上げ用の筒が、その数だけ用意されているということになります。


G:
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。最後にGIGAZINEの読者に向けてメッセージをお願いします。

加藤:
はじめまして、加藤煙火株式会社の加藤克典と申します。観に行く花火大会を決めるポイントは好みによって分かれますが、「近いから」「発数が多い」だけでなく、「打ち上がる花火の大きさ」や「花火玉の品質」など、花火大会の見方がわかると花火大会に行くのが楽しくなります。花火大会に行ったら、気が向いた時に、打上がっている1発1発の花火の大きさや形を意識してみて下さい。そして、違う花火大会に出かけたときに、前回見た花火大会と比べてみてください。「あれ?なんか違うぞ!?」と思えば、花火好きへの入り口です。是非、いろいろな花火大会へ足を運んでみてください。


G:
ありがとうございました。オリジナル花火など、次の機会により詳しいお話なども聞かせて頂いてよろしいでしょうか?

加藤:
はい、よろしくおねがいします。

花火の面白さを伝えたいという気持ちに満ちた動画を制作されている加藤氏。花火職人としてだけではなく、花火を見て楽しむお客さんとしても花火を愛しているということで、自らが関わっている花火大会に限らず、いろいろな花火大会を見てきたお話など、花火尽くしの話題であっという間に時間が過ぎてしまいました。加藤煙火店のオリジナル花火やスターマインなど、花火には花火業者の特徴というのもあるのですが、これは次の機会にお聞きするということで、次回をお楽しみに。

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in 取材,   インタビュー,   動画,   ピックアップ, Posted by darkhorse_logmk

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