生き物

4つの性別を持つ鳥「ノドジロシトド」


人間は一対の性染色体・2つの性別を持ちますが、生き物の中には7つの性別を持つものも存在します。鳥の中にも「4つの性別を持つ」ものが存在し、30年もの間4つの性別を持つ鳥を観察・研究し続けることで、人間や鳥の染色体の進化を解き明かした研究者がいました。

The sparrow with four sexes : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/the-sparrow-with-four-sexes-1.21018

4つの性別を持つ鳥とは、「ノドジロシトド」のこと。ノドジロシトドには頭に白いストライプが入ったものと、褐色のストライプが入ったものの2種類が存在します。


そして白いストライプが入っている方は、2番染色体のペアのうち一方に「まるで誰かがハサミで染色体を切り取って、逆さにしてはめ込んだような」逆転が見られるとのこと。このように染色体が変異することで、白いストライプのノドジロシトドは「超遺伝子」を持つことになります。超遺伝子とは同一染色体上にあり、仕組みは不明でありながらも遺伝的連鎖によって親から子へと受け継がれる遺伝子のことです。


2番染色体の変化は、見た目だけでなく行動にも個体に差異を生み出します。例えば白いストライプのノドジロシトドは気まぐれで、子育てが不得意、攻撃的で歌が上手です。一方で褐色のストライプを持つノドジロシトドはモノガミーで子育てが得意、保護性があり、歌が下手です。


さらに特徴的なのは、白色のストライプのメスは褐色のストライプのオスとしかつがいにならず、また逆もしかり、ということ。つまり、通常であれば「雌雄」という2つの個体から組み合わせができますが、ノドジロシトドは4つの要素からつがいとなる個体を決めることとなり、「4つの性別がある」と言えるような状態になっているわけです。


この研究を率いたのは、生物学者のElaina Tuttle氏と、夫であり同じく生物学者のRusty Gonser氏。多くの生物学者は1つのプロジェクトから別のプロジェクトへと次々にプロジェクトを移っていくものですが、2人は30年間もノドジロシトドの生態を研究し続けました。進化生態学者であるCatherine Peichel氏は「性染色体の進化のプロセスは、『どのように起こったのか』という証拠がほとんど残らないため、性染色体と同様の働きをするノドジロシトドの2番染色の変異がどのようにして発生するのかを観察することには、大きな利益があります」と語っています。

Tuttle氏が「ノドジロシトドは社会的行動の根底にある遺伝子と染色体の進化を解き明かすカギになる」と考え、研究を開始したのは1990年代のこと。しかし、当時は鳥のゲノムをシークエンス解析することは困難かつ高コストでした。そこでTuttle氏は、それぞれの個体がどのようにつがいを選ぶのか、どこに巣を作るのかなどの行動データを集め、それらの行動が子孫の生存にどう影響を与えるのかを理解する方向に切り替えたとのこと。この研究にはのちにGonser氏も加わることとなり、2人は1994年に結婚しました。


ノドジロシトドの生態を理解していった2人の研究者は徐々に功績が認められ、2009年にはアメリカ国立衛生研究所から許可を得て遺伝子解析を開始。そして、2番染色体に生じる「逆転」現象は当初考えられていたような単体のものではなく、「逆転の中に逆転が生じる」といった複雑なものであることを明らかにしました。このとき、研究者らは個体の色や行動を変化させる遺伝子の特定にも成功しています。

そして、50羽の鳥を全ゲノムシーケンスした結果をふまえ、2人は2016年に「ノドジロシトドの2番染色体は性染色体のように進化している」という内容の論文を発表。染色体のうち逆転部分の遺伝子が他のゲノムのどの部分よりも速く変異していることや、この変異のパターンは鳥や人間における性染色体の進化のパターンを模倣していることを示しました。鳥の染色体に生じた変異のプロセスを明らかにすることで、人間の性染色体の進化のプロセスを示すという方法に、多くの研究者が驚くこととなりました。

人間の性染色体は一対で性別は2つですが、生き物には性染色体を持たないものや、7つの性別を持つものも存在します。「一対・2つの性別」という組み合わせは最も一般的ですが、だからといって「生き物は一対以上の性染色体をもつことができない」という理由はありません。アリゾナ州立大学の計算生物学者であるWilson Sayres氏は「もしあなたが、互いに結びついていて減数分裂時に乗換えを起こさず、性別の決定を行う役目を担う遺伝子を持っていたら、それはあなたの新しい性染色体ということです」と語っています。

Tuttle氏の研究は生物学に多くの遺産を残しましたが、同時に「ノドジロシトドの2番染色体のようなシステムはどのような時に消失するのか?」というような新たな疑問を生み出しました。雌雄という性別に加えて白色ストライプ型、褐色ストライプ型という違いが加わると、つがいを選ぶ選択肢が2分の1から4分の1に減少し、子孫を残すという観点から見ると不利なはず。このことから、「4つの性別」という形はいつか消え去るだろうと見られているのですが、現時点ではどのようなことがきっかけで消失するかは不明です。

2016年にTuttle氏は乳がんのため他界し、ノドジロシトドのプロジェクトは夫であるGonser氏が引き継ぐこととなりました。Gonser氏はこれからも「どの遺伝子がノドジロシトドの行動をコントロールしているか」「どのような特性が逆転した染色体の逆転の影響を受けているのか」ということを理解するため、研究を続けていくそうです。

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in 生き物, Posted by darkhorse_log

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