メモ

人類の記憶を塩の岩盤の中に保存する壮大な計画「Memory Of Mankind」では、個人の記憶も保存が可能


現代の社会や世界も、数万年から数億年という地球の歴史の中でみれば一瞬であり、時代が過ぎ去った後には記憶や記録は次々と失われてしまいます。時代の流れの他にも、自然災害や戦争などによっても失われることがある人類の「いま」を、堅い岩塩の奥深くに保管することで何千年以上にわたって保存しようというプロジェクト「Memory Of Mankind」(MOM:人類の記憶)が進められています。

Memory Of Mankind
http://memory-of-mankind.com/

BBC - Future - The world’s knowledge is being buried in a salt mine
http://www.bbc.com/future/story/20161018-the-worlds-knowledge-is-being-buried-in-a-salt-mine

Man Of Mankindは、オーストリア中部の景勝地、ハルシュタットの町の外れにある古い岩塩坑の中に、現代の記憶を読み出し可能な状態で保存しようというプロジェクトです。ユネスコの世界遺産にも登録されている町には山が隣接し、その中腹から掘られた坑道を利用した保存用のトンネルが作られています。

By Jiuguang Wang

保存用のトンネルへと続く坑道。


トンネルの先には保存用スペースがあり、クレイ(泥)を原料に特殊な製法で作られた保存用のタブレット(板)を保存する仕組みとなっています。


MOMのプロジェクトについて説明されているムービーでは、その狙いやトンネルの内部を少しだけ見てみることが可能です。

MOM Memory of Mankind, greatest time capsule ever - YouTube


今からおよそ1000年後の3015年、今私たちが生きている社会の記憶はどれだけ残されているでしょうか。


コンピューターが技術が発達し、さまざまなストレージ機材が開発されていますが、その保存可能期間は5年から長いものでも50年前後と考えられています。つまり、いま存在するどの技術を使ったとしても、1000年後にまで確実に情報を保存することは難しいというのが現実です。


時代を経るにつれ、保存デバイスの形も変わります。「一時は誰もが使っていたフロッピーディスクも、スマートフォンと組み合わせたところで何もできません」と語るのは、MOMプロジェクトに関わっているMartin Stürzlinger博士。


さらに、データを保管することは「無料」ではありません。「クラウドサービスにデータを保存しているから大丈夫」と思っていたとしても……


何らかの形で契約やサービスそのものが終了してしまうと、そのデータが失われてしまうこともあります。


また、情報の保存方法が変わることも。かつて、家族の風景を記録するものといえば写真が一般的でした。


しかし、21世紀に入ってからは、写真「データ」の形で保存されることが多くなり、形として残されないものも多く存在しています。


「私たちの時代は、これまでになく情報の恩恵を受けています。しかし同時に、後世にほとんど何も情報を残さない時代となる可能性があります。事実、この21世紀の最初の時代は、後に記録がほとんど残されていない『暗黒の21世紀』となるかもしれません」と語るのはウィーン大学の歴史文化学教授のLioba Theis氏。


たとえば1000年後、「21世紀初期の記録」として残される「遺跡」はどのようなものになるのでしょうか。それはひょっとして「墓標」だったり……


ところどころに建てられた「記念碑」に書かれた文字だったりするかもしれません。


もしくは、陶器製のパイプに刻まれたメーカーのロゴかもしれません。


しかし、これらだけではとても「時代」を保存しているとはいえません。そのために、MOM (Memory Of Mankind:人類の記憶)のような取り組みが必要となってきます。


MOMでは、冒頭に触れた岩塩坑の中に情報を記録したタブレットを保存します。膨大な塩でできた岩塩層は非常に強固な地層をなしており、また空気中の湿度を適切に保つ働きがあるので、モノを保存するのに適しているとのこと。また、岩塩層の上は何億トンという山の土に覆われているため、環境の変化の影響を受けにくい特長があるそうです。


岩塩をくりぬいた保管庫に積み上げられた箱。この中に、情報を刻んだタブレットが保管されています。


このタブレットは「Level 1」に分類されるもので、一般的な情報を保存するために用いられるとのこと。20cm×20cm×7mmというサイズの特殊な陶板で、1300度の高温にも耐えることができます。


タブレット1枚には、以下のように5万文字の情報を記録することが可能。文字は、実際に登板の表面に刻み込まれるようになっており、誰もが目視で情報を読み取ることができます。専用の機器を必要とするデジタルデータなどとは違い、タブレットさえあればいつでも誰でも情報を入手できるというのがMOMのコンセプトの1つだそうです。


さらに、文字だけでなく写真を印刷することも可能。300dpiの印刷品質で、4色でのカラープリントができるようになっており、印刷後に透明な保護膜で頑丈に保護するようになっています。


このように、画像とその説明文を残すことも可能というわけです。ただし、音楽や動画といったデータは取り扱えない模様。


さらに、科学分野に関する文書を保存するための「Level 2」のタブレットは、20cm×20cm×1mmという薄いものになっており、素材は「Ceramic Microfilm」が使われるとのこと。1枚あたり実に50万文字もの文書を保存することが可能で、10倍に拡大することで判読可能な状態で情報を保存するようになっているそうです。

「Memory Of Mankindは、人類の記憶を物理的にバックアップするものです」と語るのは、MOMプロジェクトを立ち上げたMartin Kunze氏。「MOMは、磁力や電気、熱や水、放射能、自然災害、人間による破壊などの影響から人類の記憶を守るための取り組みです」


「MOMは、ハルシュタット郊外にある塩の岩盤の中に私たちの物語や記憶、知識を……」


「何十万年にもわたって保管しようとするものです」


ハルシュタットに近いトラウン湖の観光局で責任者を務めるAndreas Murray氏は「習慣や伝統は、私たちのアイデンティティにおいて非常に重要なものです。これらを記述して保存するというのは、今私たちがいる時代を説明する上において、重要なパズルの1つとなります。MOMは将来の世代に向けて、今の時代を保存できる方法です」と、MOMの取り組みの意義を語っています。


また、MOMの位置を地図で示す「トークン」が50枚作られ、MOMによって認定された世界中に散らばる関係者に配られることになっています。こうすることで、現在の文明が途絶えたとしても、将来の文明人にMOMの存在を知らせ、古い記憶が伝えられるように考えられているとのことです。


MOMは学術機関や新聞社、図書館などによって進められているプロジェクトですが、実は一般の人も自分の記憶を保存できるようになっています。MOMのウェブサイトでは294ユーロ(約3万4000円)でタブレットを保管する権利を購入することが可能で、タブレットのデザインは自分で自由にレイアウトできるようになっています。自分用のプランと、誰かにプレゼントするためのプランが用意されているので、家族や大切なペット、友人などの大切な記憶を永久保存するといった目的に使えそう。

Welcome to MOM | Memory Of Mankind
http://memory-of-mankind.com/giftshop

実際にMOMで記憶を保存するガイドムービーも作られています。

MOM in 2 minutes - YouTube

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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