サイエンス

騒々しい場所で会話が聞き取れないのは「隠れた難聴」であるとする研究結果が発表される

By Simon Lee

静かな場所ではしっかり会話の内容を聞き取れる人でも、街の雑踏や騒々しいカフェなどで会話すると、相手が何を話しているのかはっきり聞き取れないことがあります。「騒々しい場所なのだから聞きづらくて当たり前」と思うかも知れませんが、これは「隠れた難聴」であるそうで、多くの研究が行われています。

Can’t Hear in Noisy Places? It’s a Real Medical Condition - WSJ
http://www.wsj.com/articles/cant-hear-in-noisy-places-its-a-real-medical-condition-1474909624


騒々しい場所では会話を聞き取りづらいことを、科学者たちは「隠れた難聴」と呼んでいます。標準的な聴力検査ではこの「隠れた難聴」に関する測定は行われることがありません。よって、「隠れた難聴」であっても、通常の聴力検査の結果が「正常」と判断される患者は多いそうです。

しかし、「隠れた難聴」の人々が騒々しい場所や混み合ったレストランの中で商談などを行えば、相手の話す内容が聞き取りづらく、そのことにストレスを感じるのは間違いありません。そんな「隠れた難聴」の原因が、近年の研究により徐々に明らかになってきています。

科学者たちによると、「騒々しい雑音」には脳の「選択的に音を聞き取る能力」や「言葉を理解する能力」を低減する効果があるとのこと。アメリカの言語聴覚士職能団体であるAmerican Speech-Language-Hearing Association(ASHA)で副所長を務めるアン・オイラー氏は、「これは我々が長い間存在を認識してきた問題であり、最新の研究はなぜ『隠れた難聴』が起こるのかを教えてくれます。今後、聴覚科学者はより積極的に『隠れた難聴』の症状を探す必要が出てくるでしょう」と語っています。

By Emilio Labrador

大人の難聴の場合、通常は内耳器官にある受容器細胞の「有毛細胞」が損傷することで、神経を通して脳に音響信号を転送する機能が低下することで難聴となります。有毛細胞が損傷するのは、老化や外傷、騒音に晒されることなどさまざまです。

「隠れた難聴」は、この有毛細胞と神経をつなぐ「シナプス」の損傷により引き起こされます。ミシガン大学の研究者が明らかにしたところによると、有毛細胞と神経経路をつないでいるシナプスは非常にもろく、有毛細胞そのものが損傷するよりも先に恒久的な損傷を受けるそうです。ただし、後述するようにこのシナプスの損傷は治療して復活させる希望があることもわかっています。

そもそも音が聞こえる仕組みというのはどうなっているのでしょうか。まず最初に音が外耳道に入り、奥にある鼓膜を振動させます。鼓膜につながっている耳小骨はこの振動を更に奥にある蝸牛に伝え、蝸牛が受け取った振動を有毛細胞が電気信号(音響信号)として神経を通して脳に伝えることで、人間は音を知覚できるようになっています。この有毛細胞のシナプスが損傷することで「隠れた難聴」は起きるわけです。


そんな「隠れた難聴」に関する研究はこれまで複数行われてきました。Massachusetts Eye and Earの耳咽頭科医であるチャールズ・リーベルマン氏が率いる研究チームが2009年に公表した研究結果は、騒音に晒されることで有毛細胞のシナプスを50%失ったネズミを正常な状態に戻すことに成功しています。また、ミシガン大学の研究者たちが2016年の4月にNatureで公表した研究結果によると、騒音に晒したネズミに神経の成長を促すタンパク質の一種である「ニューロトロフィン(神経栄養因子)-3」を注入することで、蝸牛のシナプスを復元することに成功しています。

さらに、2016年の9月初頭にはミシガン大学の研究チームが、有毛細胞のシナプスの損傷が人間でも起きることを明らかにしています。研究チームは大学時代に大きな音に何時間も晒された被験者グループとそうでないグループに、騒々しい場所と静かな場所で聴力検査を行ってもらうというテストを実施。テストの結果、大きな音に何時間も晒された被験者グループは騒々しい場所での聴力がもう片方のグループと比べて圧倒的に悪かったそうです。また、電極を使ったテストを行ったところ、大きな音に何時間も晒された被験者グループは聴神経が著しく減少していた模様。

現在のところ、蝸牛の有毛細胞の損傷がどのように雑音の中の会話を理解することを阻害するのかは明らかになっていません。耳咽頭科医のリーベルマン氏は、脳に送られる音響信号を「写真」に例えています。シナプスの損傷が少ない場合は高解像度の写真が脳に送られるわけですが、シナプスが損傷している場合は脳が受け取る写真がより低解像度のものとなり、どこで誰が何を話しているのかを聞き取れなくなるとのことです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii