インタビュー

ふるさと納税額を前年比約300倍の「5億9000万円」に増加させた方法について須崎市の担当者に話を聞いてきました


ノートパソコンや商品券など返礼品の過剰な競争が話題となることもあるふるさと納税。この制度により、多くの寄付金を集める自治体もあれば、伸び悩んでいる自治体もあります。高知県須崎市は成功している側で、前年と比べて約300倍の5億9000万円という数字を記録しています。いったい、何をどうすれば1年でこれだけの結果が出せるのか、須崎市のふるさと納税を担当している元気創造課の守時健さんに話を聞いてきました。

ふるさと納税サイト [ふるさとチョイス] 高知県須崎市
http://www.furusato-tax.jp/japan/prefecture/39206

◆ふるさと納税とは
ふるさと納税とは「都道府県、市町村への『寄付』を行うこと」で、その寄付金から一定の額が所得税と住民税から控除される制度です。寄付をすると、特産品や特典など「返礼品」がもらえるということで、近年、話題となっています。

高知県須崎市は高知県中部にある、太平洋に面した人口約2万3000人の都市です。

左は須崎市のご当地キャラ「しんじょう君」。須崎市の新荘川で最後に目撃されたニホンカワウソをモチーフに、2013年4月28日に誕生したご当地キャラです。頭には「名物の鍋焼きラーメン」の帽子をかぶっています。右が元気創造課 に勤める守時健さん。


◆ふるさと納税とご当地キャラの活動を結びつけること
GIGAZINE(以下、G):
守時さんが所属する元気創造課とはどういう部署で、その中で守時さんはどのような仕事をされていますか?

守時健(以下、守時):
地域コミュニティ推進事業や消費者相談など、地域活性や市民生活に結びついた活動をする部署です。部署の活動を含め、ご当地キャラ・しんじょう君の活動やふるさと納税などを担当しています。

G:
2014年の約200万円から2015年に約5億9千万円へと急激に増えた要因、手法について伺います。まずは、2014年なのですが、この時には守時さんは、ふるさと納税は担当されていましたか?

守時:
いえ、2014年までは別の部署が担当していました。2013年から担当しているしんじょう君の活動とふるさと納税を結びつけることで「いける」と思ったので、部署と掛け合ってもらってきました。

G:
自ら志願してふるさと納税の担当になられたと。ふるさと納税とご当地キャラを結びつけようとしたのはどのような理由からですか?

守時:
ご当地キャラの強みは「情報発信力」、弱みは「予算のなさ」です。ふるさと納税の強みは「寄付により予算の確保ができること」、弱みは「情報発信が命、認知度が低いと寄付金も少ない」です。

G:
ご当地キャラの活動や志願して担当を変えてもらうことなど、トップや周りの人たちの理解がなければなかなか実現できないことかと思います。トップである楠瀬市長はどのような方ですか?

守時:
感性が若いというか、非常に合理的というか、とても柔軟に対応して頂いています。

楠瀬耕作市長


◆ネットを活用すること
G:
ふるさと納税を担当することになって、まず何をされましたか?

守時:
2014年の時点で成功している自治体が、どのような方法でふるさと納税を増やしているか調べました。

G:
そこで「ネットで手続きができること」が一番だと思われたのですね。

守時:
ふるさとチョイスに掲載することと、決済の方法もできるだけ手段を増やすこと、特にクレジット決済が必要だということがわかりました。

G:
サイトに載せただけではアクセスしてもらえませんよね?

守時:
「ふるさと納税業界」では、お金を使ってメディアに露出するなどの方法を使わないとアクセス数を増やすことが難しいのですが、しんじょう君をはじめとして、ご当地キャラのコミュニティから発信される情報で数千~数万くらいのPVが稼げることがわかりました。納付先の選択にランキングを参考にする人も多く、PVランキングに載ることでさらにページへのアクセス数がアップし、結果、寄付が増えた形となります。

ふるさと納税の情報サイト「ふるさとチョイス」に掲載されている、「ふるさと納税なんでもランキング」2016年8月分を確認したところ、全体のPVランキングで須崎市は全国3位、地域別PVランキングで四国1位となっていました。

G:
ふるさと納税は寄付金の使い道を寄付した人が選ぶことができる制度でもあります。須崎市では寄付金の使い道の1つとして「市長が必要と認める事業 『須崎市マスコットキャラクターしんじょう君の運営に関してはこちらです』」と、ご当地キャラの活動資金として明記されています。実際、いくらくらい集まりましたか?

守時:
返礼品などの経費を差し引くと1億3千万円ほど集まりました。これにより「たかがゆるキャラに税金つかうな」といったご意見には「寄付者が希望くださった使い道です」 でお答えできます。それによって 、「しんじょう君の予算を増やす→もっとふるさと納税PR→もっとふるさと納税増える→もっとしんじょう君の予算増える」の「ヒトモノカネコト」を再投資してもっと増やす好循環を形成することができました。

G:
しんじょう君関連の返礼品もありますが、他にも野菜や魚など特産品も多く充実していますね。

守時:
しんじょう君のファンクラブとしての返礼品も用意していますが、目的はしんじょう君を通して須崎の産品を選んでいただく事です。「ファンクラブとお魚2つ選んだよ!」みたいなお声を たくさん頂いていますので、その部分はすごく良かったと思っております。

G:
ふるさと納税を周知させるためにご当地キャラの発信力を使うと。そうすると、まずはしんじょう君のコミュニティを増やしていく必要があるかと思います。そこで、どのようにしてコミュニティを増やしていったかをお聞きします。最初に、ご当地キャラを作ろうとしたきっかけを教えてください。

守時:
個人的な考えですが、都市の発展は情報発信、産業の転換、都市計画の3つかと考えています。その1つを担う情報発信のツールとして市のウェブサイトや市のTwitterよりはご当地キャラと考え作りました。もう1つは、須崎が観光や産業で東京や京都や沖縄に勝つことは不可能ですが 、キャラクターなら可能性があると考えました。

◆ご当地キャラとは何かを一から学ぶこと
G:
ご当地キャラを作成するにあたって最初にされたことは何ですか?

守時:
まずは、日本ご当地キャラクター協会に、どのようにご当地キャラを運営していけばいいのかを問い合わせし、「ご当地キャラとは何か」という基本から運営・管理方法などを教えて頂きました。さらに、犬山秋彦さんのTwitterやブログ、著書の「ゆるキャラ論」などもチェックして、ほとんどそれが「しんじょう君」の活動の手本になっています。そして、しんじょう君誕生後も協会の方からはイベントの準備・運営などを指導して頂き、犬山さんからは「しんじょう君のうた」を作成するために石田洋介さんを紹介して頂いたりと、ありとあらゆる場面でアドバイスを下さっています。

犬山氏を中心としてキャラクターやその演者らが集まった「犬山家」の皆さん。上左から、ノン子大崎一番太郎(大崎駅西口商店会)・スパンキー、下左から林りんこ(ノン子CV担当)・犬山秋彦・山口勝平(大崎一番太郎CV担当)・中谷一博(スパンキーCV担当)です。犬山家によるミニシアター「犬山劇場」は、イベント・ニコニコ生放送SHOWROOMなどで見ることができます。


G:
犬山さんと会ったのは、しんじょう君が誕生したころですか?

守時:
いえ、犬山さんにお会いしたのは、しんじょう君が誕生してから5ヶ月後の2013年9月28日に横浜で行われたイベントで初めてお会いしました。

ちなみに、守時さんへのインタビューを行った当日、「ご当地キャラまつりin須崎」に犬山秋彦さんが来ていたので、しんじょう君を知ったきっかけを聞いてみました。

犬山秋彦:
実はしんじょう君との出会いには紆余曲折がありまして、最初、しながわ夢さん橋というイベントで、私がやっている「ご当地キャラサッカー大会」に出場してもらう面白いキャラを発掘しようと思ってファンに問いかけたら「しんじょう君」がその中の1つに挙げられたんですけど、画像を検索して調べたところ「ただかわいいだけのキャラクターだな」と思ってスルーしてしまっていました。後日、なにかのタイミングでタイムラインに流れてきたしんじょう君のブログ を見て「これは面白い」と大崎一番太郎がリツイートしたのがきっかけで、しんじょう君を知ることができました。

しんじょう君ブログの「もっとインパクトのあることをしてみよう」より、砂浜に埋められるしんじょう君。


G:
ブログの面白さ以外にも、しんじょう君が普段かぶっている鍋焼きラーメンの帽子を、他のご当地キャラにかぶせるというパフォーマンスが人気ですが、最初から違うキャラに帽子をかぶせる目的で帽子が取れるように作られたのですか?

守時:
いえ、最初は「歩いてたら自然と帽子が落ちる。もしくはドアやテントなどに頭がひっかかり帽子が落ちると面白い」ということろまでしか考えていませんでした。

G:
帽子をかぶせるパフォーマンスはどこで思いつかれたのですか?

守時:
初めて県外のイベントに参加した際に、一緒に居たバリィさんに面白いかなと思って帽子をかぶせてみたところ、バリィさんが喜んでくれて、写真をツイートしてくれたんです。それを見た人たちがしんじょう君をフォローしてくれて、フォロワーが一気に増えました。

しんじょう君ブログの「丸亀お城まつりに参加しよう」より、鍋焼きラーメンの帽子をかぶったバリィさん。


G:
バリィさんのように好意的に受け止めてくれたご当地キャラもいれば、拒否されることもあったのでは?

守時:
「帽子をかぶせたいんですけど」「はぁ?」というように断られることもありました。今ではしんじょう君の帽子をかぶった写真がしんじょう君のタイムラインに流れることで、かぶった側のキャラの露出にも役に立つという相乗効果が現れたんじゃないかと思います。

G:
大崎一番太郎やカパルなどたくさんのご当地キャラたちが「しんじょう君が面白い」とブログを紹介したり、コメントを発信してくれています。さらには「しんじょう君を応援するにはふるさと納税にアクセスするように」と促してくれたり。地域のキャラクターが他の地域のキャラクターの宣伝や応援をしてくれるというのは、ものすごいことだと思います。

守時:
非常にありがたいし、光栄な事だと感じています。我々としましても、自分の地域だけではなく他の地域や物を応援して、つながりを大事にしていこうと考えています。

G:
ふるさと納税の使い道やしんじょう君の活動について、今後の目標はありますか?

守時:
現在、ふるさと納税で保育料第2子半額、第3子無料となっている保育園の無償化や、空き家の改修や環境整備などによる移住政策も取り込んで、優秀な人材を集めることもできるかもしれません。得たモノやコトを再投資し、さらに大きな循環を作り、永続的な発展のシステムを作る事を目指せればいいなと思っています。

G:
なるほど。

守時:
しんじょう君事業の個人的な真の目的は……そもそもご当地キャラの主張する「私たちの町に来て!」とか「特産品買って!」とか「頑張ってるから応援して!」なんていうのがすごく傲慢というか、Win-Winじゃないというか、そもそも相手に「得」って無いと思うんです。ですので我々は、しんじょう君にやらせてるTwitterでほんの少しでも暇をつぶしてもらえたり、ブログで1ミリでも笑ってもらったりするためにしてもらうことためにやっています。そこから須崎に興味をもってもらえたり、須崎の特産品で喜んでいただいたり、そうなれば幸せだと思っています。しんじょう君の運営の目的は「しんじょう君や須崎を通じて皆様の生活を1ミリでも豊かにする事」です。


G:
最後に、守時さんはGIGAZINEをよく読まれているとお聞きしました。

守時:
生活の一部ってくらいよく見ています!取材をうけたことは末代まで自慢します!

G:
お忙しい中、ありがとうございました。

ふるさと納税とご当地キャラ運営、それぞれの長所を伸ばし、短所を補うことでWin-WInの関係を築いたこと。そして、キャラクター同士のつながりにより、周知活動の輪を広げられたことなどが成功要因となっていました。そのほか、成功例や失敗例を研究し、運営方法も一から教えてもらうなど、「前例からよく学び、自分たちのやり方で実践すること」も、成功への道です。

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in 取材,   インタビュー, Posted by darkhorse_logmk

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