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ドイツからアメリカに連行されアポロ計画のロケット開発を行った最後のロケット科学者


第二次世界大戦後、アメリカがドイツの優秀な科学者を連行したペーパークリップ作戦で120人の専門家チームがアメリカにわたり、人類初の月面着陸に成功したアポロ計画のロケットなどを開発に大きく貢献しました。2015年5月に「ドイツの科学者・ヴェルナー・フォン・ブラウンのロケット開発チームの最後のオリジナルメンバーが亡くなった」というニュースが報じられましたが、この時、「まだ生きているメンバーがいる」という声が上がりました。「最後の」ロケット科学者Georg von Tiesenhausenさんは、2016年で102歳となります。

Georg von Tiesenhausen, 101 on Monday, owns spot as the last German rocket team member | AL.com
http://www.al.com/news/huntsville/index.ssf/2015/05/german_rocket_team_member_101.html

ペーパークリップ作戦とは第二次世界大戦末から終戦直後にかけて、戦勝国であるアメリカ軍がドイツの優秀な科学者をアメリカに連行した一連の作戦コード名のこと。そして、1950年にペーパークリップ作戦で移送されたのが、ロケット工学者のフォン・ブラウンが率いる専門家120人のチームでした。移送された科学者たちはアメリカでロケット開発・宇宙開発競争に大きく寄与しましたが、一方で「戦時中に兵器を開発していた科学者たちが裁かれることなく恵まれた人生を送っている」ということが批判を浴びることもありました。


2015年5月5日、ロケット開発チームの1人であるOscar Holderer氏が亡くなり、「ペーパークリップ作戦に参加し、月飛行用ロケットを開発したチームの最後のオリジナルメンバーが死んだ」と報じられました。この時、「まだ生きているメンバーがいる」と手を上げたのがTiesenhausenさんです。

アメリカ・アラバマ州在住で、妻であるAstaさんと暮らしているTiesenhausenさんは、ロケット工学の世界では「伝説の人」であり、2011年には合衆国宇宙ロケットセンターからその功績を称えられました。授賞式では、2012年にこの世を去った宇宙飛行士のニール・アームストロング船長がプレゼンターを務めたとのこと。


120人の科学者がアメリカに渡った1950年の時点では、Tiesenhausenさんはアメリカに到着していませんでしたが、フォン・ブラウンが世界で初めて人工衛星の打ち上げや有人飛行を行った際にはアラバマにいたとのこと。もともと第二次世界大戦中にフォン・ブラウンと共に働いていたTiesenhausenさんは、ペーパークリップ作戦時に「アメリカに来ないか?」と声を掛けられたそうなのですが、戦後Tiesenhausenさんは貨物船のウィンチを設計するエンジニア職についていたため、誘いを断ったそうです。このことについて、Tiesenhausenさんは「エンジニアにとっては、どちらもそう変わらないのです」と冗談交じりに語っていたそうです。

しかし、その後、TiesenhausenさんはサターンVの発射設備や、ボーイングに手渡す前の月面車のオリジナルコンセプトのデザインを担当することに。ロケット開発に携わることはTiesenhausenさんにとって「仕事」というよりも「楽しみ」だったようで、妻のAstaさんは「彼は人生において1日たりとも『働いた』ことがありません」と語っているとのこと。

Tiesenhausenさんによると、チームを率いていたフォン・ブラウンは「類いまれなる人物」だそうです。「彼は偉大な経営者でした。チームメンバーが彼と一緒にテーブルにつくと、最後には全員が問題を解決するための別々の意見を出せたのです。そして彼は全員の意見を少しずつ取り入れて結論をまとめ、彼が実行したいことに、全員を賛成させることができました。誰一人として彼に『見過ごされた』と言いませんでした。彼はそういう天才だったのです」とTiesenhausenさんは語っています。

フォン・ブラウンは決して「どのようにやってほしい」とは言わずに、「何をやってほしい」とだけチームのメンバーに伝えたとのこと。目的を達成するための方法は、各自にゆだねられていたわけです。


そして経営者としての才能よりも特筆すべきなのが、フォン・ブラウンのリーダーとしての才。彼は全ての時間のうちの3分の1を、宇宙について、チームのメンバーに対して話すことに費やしました。「現在、私たちの上にいるのは『管理者』であってリーダーではありません。これは大きな違いです。管理者は仕事の責任を負いますが、リーダーは未来を見据えます」とはTiesenhausenさんの言葉。

by NASA HQ PHOTO

Tiesenhausenさんは現在行われているスペースプログラムを「非常に重要」と見ていますが、一方で、現代は宇宙開発競争が行われていた時代とは事情が異なっており、経済の動向のせいで十分な資金をあてがうのが難しいということも認めています。

そんなTiesenhausenさんは「The Elements of Human Behavior(人間の行動を決める要素)」という本を執筆している最中。Tiesenhausenさんによると人間の行動には「人格」「キャラクター」「感情」という3つの柱が存在するとのこと。戦争を生き抜いてきたTiesenhausenさんは「私は『世界は感情によって統治されている』という結論に至りました。政治家、戦争、兵泡、人生、死など、地球上に存在するものは全て感情によって支配されているのです。戦争も感情から始まります」と語っています。


ペーパークリップ作戦では、第二次世界大戦中にナチスドイツのために兵器を開発していた科学者がアメリカに渡り、裁かれることもなく恵まれた人生を送った、という点が批判を浴びることがあります。Tiesenhausenさんもこのような批判を理解しており、この点については「当時は言語に絶する状況でした。我々を取り囲む状況や、我々が体験したプレッシャーを想像できる人はいないでしょう。個人の力で状況を脱することは不可能だったのです」と語りました。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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